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02勇者パーティの評価を巡らす

 ポピー・ミーシア。


 勇者パーティの後衛魔法使い。

 スキルに『大魔道士』を持ち、俺の勤めるサウシスの魔法学校で優秀な成績を修めて国家的に有益な研究成果を出した者に与えられる称号であるところの、賢者の称号を持つ。

 しかも歴代最年少。

 これは『大魔道士』という魔法系最高位スキルだからってだけじゃなくてポピー嬢の才覚によるものでもある。


 魔法系最高位スキル『大魔道士』は、単純明快。あらゆる魔法に対して凄まじいステータス補正と、無尽蔵ともいえる魔力を有し、どんな魔法も無詠唱で使える。

 俺のような魔法使いモドキが使う、偽無詠唱とはわけが違う。


 間違いなく世界一の魔法使い。

 俺が口を出すことは一つもない、めっちゃ巨乳だし。


 それと個人的なことだが魔法学校の同僚であるミーシア先生の妹ってことにも驚いた。

 まあ別にそれほどミーシア先生と親交があるわけでもないが、世間って狭いなぁって感じだ。


 ああそうだ、ブラキスと良い感じってのもあったか。

 心優しくてめちゃくちゃ強いがモテねえから俺とリコーは少し心配していたが、こんな上玉に見初められるたあブラキスもやるもんだ。


 ポピー嬢も見る目がある。ブラキスは良い奴だ、このまま上手くいってほしいと心から願う。


 そんな賢者、ポピー嬢に俺から何か言えることはブラキスの好きそうなもんの話だとか伝説エピソードだとかくらいだけど。


 本当にいて言うなら、致命的なほどに魔法使い過ぎる点だ。


 これは別に本来は弱点足りえないことなんだけど、なんというかポピー嬢は学者畑の住人過ぎる。

 まあ身近なとこで言うんならセツナに近い。

 様々な魔法を使えて魔力の量も多い。

 しっかりと勉強してきて魔法に対する理解度も高い。

 魔法使いとして優秀。


 だが、魔法は単なる手段に過ぎない。

 本質的に敵をつのに、剣も魔法も銃も拳も関係がない。

 的確に相手を討つことが出来るのであれば本来手段は何だって良い。


 結局俺たちは、それしか出来ないから手段を固定化させる。


 剣しかできないから剣士になるし。

 盾が持てるから大盾使いになるし。

 斧が振れるから大斧使いになるし。


 魔法しか出来ねえやつが魔法使いになる。


 たったそれだけのことに過ぎないはずなのだが、ひとつのものを磨いていくと段々と人はそれが一番良いものだという思いが膨らんでいく。


 剣士は剣術こそが最強だと思うようになるし、魔法使いも魔法こそが最も良い方法だと思うようになる。

 でも事実は、ただそいつがそれが得意でそれしか出来ないだけに過ぎない。


 ポピー嬢は魔法を呼吸するのと同じくらいに当たり前なものだと認識していて。

 ブラキスを気に入るくらいに、腕力や魔法以外の力についての評価も高い。


 だから一見して、ポピー嬢が魔法に対してそういう固執の仕方をしているようには見えないが。

 それでも魔法を超える事象や、魔法以外の力を求められる場面に対して折れるのが早い。


 これはトーンの町の先輩冒険者、魔法使いであるテラの話だ。

 テラも魔法学校出身で騎士団で魔法指南をしていたことのある生粋の魔法使いである。


 だがテラは、魔力切れや魔法が通らない局面に直面した時には。

 つえが折れるまで殴って、折れたら素手で殴る。


 魔法は手段であり、無いなら殴れ。

 倒せりゃ何でもいい、こだわって死ぬのは馬鹿がやること。


 俺はその影響を多分に受けている。

 要は、最後は根性って話だ。


 学者畑のポピー嬢には、それがやや足りない。


 何か武術を覚えろとかそういうことではなく、時には目的のためには魔法すらも捨てられる気合いというか根性を身につけてほしい。

 魔法使いとしてだけ生きるのなら、不要なものだが。

 勇者パーティとして戦いに身を投じるのなら、不可欠なものだ。


 まあポピー嬢なら大丈夫だろう。

 そもそも魔法への固執はそれほど強くないし、何より巨乳だし。


 巨乳は最強だからな、うん。


 クライス・カイル。


 勇者パーティの回復役。

 公国で一番大きい公都の教会で神官をやっていたが、医学に精通し回復系最高位スキルの『聖域』を持ち常軌を逸した治癒力によって国から勇者パーティへと招集された。


 スキルの『聖域』は、回復魔法の効果を飛躍的に向上させ消費魔力量が極端に下がり効果の範囲もかなりひろがり非接触での回復も行えて、回復魔法に限り完全な無詠唱で発動できるというもの。


 まあ端的にいえば、俺は彼を舐めていた。


 正直、回復の方も『復元』を持つキャミィより多少上くらいで想定していたし、教会に篭っていた神官様に戦闘的な素養はないと考えていた。


 これは俺が浅かった。

 この勇者パーティにおいて最も根性があり、闘争に向いていて、心に熱を帯びていたのは彼だった。


 まずその回復魔法についてだが、キャミィとは比にならない。

 回復魔法は医学的な知識、つまり人体の構造やその働きなどを正確に理解して的確に効果をイメージすることで効果が変わる。


 キャミィも独学とはいえそれなりに医学的な知識があって『復元』もあり大抵の怪我なら綺麗さっぱり治せた。


 だがクライス君は、確実に死に至るであろう致命傷ですら完璧なまでに治してしまう。

 もちろん『聖域』の補正もあるが、やはりその異常なまでの医学的な知識量によるものが大きい。


 まだ若いのに、まるでそれ以外のことを今までやってこなかったような練度だ。


 信仰を舐めていた。

 真摯に何かを信じて、自身を思想に投じ続けることで生まれる力を侮っていた。


 何より特筆すべきは根性。


 治療や回復しかやってこなかったクライス君は、端的にいって素人も素人だった。

 ぶっちゃけ、運動競技に興じる体育会系の学生の方が全然動けるくらいだ。

 すっげえ回復魔法を使える宗教家のえない青年、そんな風に評価していた。


 勇者パーティの穴、純然たる事実として顕著な虚弱性だった。 


 とりあえず基礎として最低限の身体操作と、じょうじゅつを教えた。

 ブライの武術理論は流石に戦士向け過ぎだし、回復役に攻撃魔法などを仕込んでいざ回復が必要な時に魔力が足りないなんてことがあってもダメだ。


 回復役は連携のかなめ

 居るか居ないかじゃあ全体の戦闘継続能力に雲泥の差がある。

 何が何でも生き延びるすべを身につけなくてはならない。


 だから最低限、俺が使う合気ベースのじょうじゅつを教えた。

 まあ、そっから合気的な受け身やたいさばきをコツコツ覚えて貰おうと思っていたのだが。


 根性の桁が違った。


 俺は一日三時間、週に六日で三ヶ月、つまりざっくりとみっちり二百十数時間使って身体操作を叩き込もうとカリキュラムを組んでいた。


 それを二週間、過剰なオーバーワークである程度身につけた。


 元々医学的な心得があり、自分の身体との対話が出来たのと、後は異常な根性でただひたすら教えた通りに、俺が見せた動きに重なってそれが何を意味するのかを理解するまでただひたすら繰り返した。


 当初組んだカリキュラムもかなり厳しめというか、ストイックに向き合わないとこなせないくらいに設定したはずだった。


 さらに、ブライとブラキスと俺で仮想クロウとしての模擬戦で。

 クライス君はブラキスの一撃を、回復魔法で耐えきって見事に一泡吹かされた。


 ブラキスの一撃は必殺だ。

 模擬戦出力とはいえ、有り得ない。


 リコーですら盾を構え身体強化を使ってギリギリ耐えきるくらいだ。まともに喰らえば吹き飛ぶ、それは確定事項だった。


 それを常軌を逸した回復速度と、過剰で異常な根性で耐えきった。

 勇者パーティの中で、本物、唯一事実として最強という称号をかんするに値する。


 間違いなく世界最強の回復役だ。


 正直、クライス君には特に言うことはない。

 もちろんまだまだ立ち回りだったり、身体操作や技に磨きをかけるべきだが。

 後衛回復役としての本質、最も大切なものを既にそなえている。


 本当に強いて言うなら、この本物の世界最強がメリッサという未熟な勇者にはやや手が余ることくらいだろうか。


 パーティ単位での総評。


 これは『はなまる』をくれてやる他ない。


 個人別の力量に不足はないし、連携も伸びてきている。

 魔物被害からの国家防衛を目的にするなら十分すぎる。

 公国は向こう十年……いや二十年は大規模な魔物被害に見舞われることはないだろう。

 しばらく公国は安泰あんたいだ、幼い子を持つ親としてはありがたい限りだ。


 だが、相手がクロウだと話は別だ。


 国防目的の特殊部隊とするなら『はなまる』だが。

 対クロウ討伐パーティとするなら『がんばりましょう』だ。


 現状、ほとんど勝ちの目はない。


 これは単純に個々の力量不足という単純な話ではなく、クロウが強すぎるという話ではなく。

 クロウに対するクリティカルな対策が、見えていないことにある。


 主な要因はメリッサ……、いやメリッサが悪いわけじゃない。

 俺もブライもブラキスも、本気のクロウに勝つという結果を想像できない。


 そりゃあ多少、俺ならこうして……とか、ブライならこの状態にもつれ込めば……とか、ブラキスなら一撃当たれば……とか、勝ちパターンがないわけじゃあない。

 まあそこに持ってくまでの過程が難しすぎて具体的には何も出てこないだけだ。


 だがメリッサはクロウを絶対無敵だと、過大評価……いやしている節がある。


 実際クロウはほとんど無敵だ。

 何でも出来て何でも躱す。


 あらゆる魔法を無詠唱で使えて魔力回復を加速させて無尽蔵といえる魔力を持つ。


 でも、ポピー嬢ほどの研鑽は積んでいないし、いくら回復させようと魔力の最大量は『大魔道士』の補正を超えることはない。個人での戦略級発動はクロウじゃあ出来ない。


 圧倒的な高速戦闘で基本的な武術や武器戦闘も抑えていて格闘戦にも隙がない。

 でも、ダイル君ほどの才能はないし多彩さもない、クロウが使えるのはせいぜい数種類の武器、それでも多いが『万能武装』の足元にも及ばない。あいつは恐らく格闘戦のセンス自体はそれほどない。


 ブライの腕と命、セツナの視力と命を繋ぎ止めるほどの回復魔法を使い。自身も回復速度を加速させて高速で立ち回る。


 でも、クライス君ほどの過剰さはないし医学的な知識もない。ブラキスの一撃を食らって同時進行で治して耐えるなんて芸当はクロウには出来ない。だからあいつはこざかしくけるしかない、それしか出来ないからそうしている。


 そして、それら全ての力を内包する『勇者』を持つメリッサはそもそもクロウより単純な性能では絶対に上だ。


 メリッサはそれに気づかなくてはならない。

 既にクロウを超える仲間たちが居て、自身もクロウを超えうる力を手にしていることに。

 でなければ、あの無敵の男を畳むことは出来ないだろう。


 俺がそれを語ったところで、メリッサには通じないだろう。

 馬鹿だからってのもあるが、頭でわかっていてもぬぐい切れるものでもない。

 それほどまでにメリッサは、いや俺たちは、クロウに世話になった。


 まあそれでも、クロウに勝てるとは俺自身思っていない。


 真っ正面からやり合っても、あのクロウを超えて畳むのは厳しいと思う。


 だから一応…………、俺なりにクロウを倒す策を組み立ててみたが…………我ながら卑劣で最低な策略だ。

 今、頑張ってるあいつらにこんな策を伝えるのも……どうっすかなあ。


 とりあえず。

 メリッサの心が、マジでクロウ・クロスという神格化した最強の男に本気で勝つつもりで心を燃やせるようになったら伝えておくか。


 クロウが今頃何をしてんのかは知らねえが、勇者パーティは日々強くなっている。


 総評としては『がんばりましょう』だが。


 個人的には最高のチームに育ちつつある。

 ここだけの話だがな。


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