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01筋肉は全ての悩みを解決してはくれないが半分以上は解決できる

 俺、ブラキス・ポートマンは木こりだ。


 北の海の少し手前にある森林にある村。

 公都から海までの街道からも大きく外れている、森の奥にある小さな村だ。


 基本的な産業は林業、森の管理や木材になる木を切る。

 俺の家も例に漏れず木こりの家だ。

 冬を越す為の薪も作っている。


 俺はこの村を出て冒険者をやっていた。


 公都に出ようかと思ったけど、小心者の俺は都会が怖くて東から遠回りして向かっていたけど途中で東の果てのトーンの町で冒険者になった。


 両親譲りの巨躯で筋肉質、スキルも『潜在解放』という身体能力を一時的にポテンシャル最大まで引き上げるというものだ。


 ギルドでは当初、近接最大火力と期待をされたが。


 元来の臆病者である俺は、あっさりみんなの期待を裏切った。


 痛いのが怖い。

 血が怖い。

 魔物を殺すのも、苦手だ。


 じゃあ田舎に帰って木を切れと思うかもしれないが、変わりたかったんだ。

 子供の頃、本で読んだ英雄のような勇敢で強い男になりたかったんだ。

 誰もが一度は憧れるような、稚拙な夢だけど本気だった。


 でもやはり俺は臆病者だった。


 もう諦めて帰ろうかとも思ったけど、諦めなかったのが三人。


 パーティリーダーで魔法使いのバリィの兄貴。

 パーティの盾役のリコーの姉貴。

 ギルド職員で無敵のクロウさん。


 バリィの兄貴も、昔は魔法使いとしてヘボだったらしいけど少しずつ出来ることを増やして偽無詠唱と的確な連携指示や戦力分析を行える大魔法使いになったという。


 特訓をした。


 その結果。


 リコーの姉貴が魔物の攻撃を完璧に捌ききって。

 バリィの兄貴が魔法で相手の動きを止めて。

 俺が斧で消し飛ばす。


 そういう本来俺が最低限やるべき連携が出来るようになった。

 クロウさんが重武器での基礎的な近接戦闘法や立ち回りを教えてくれた。

 怖かったら一撃で決めてしまえばいいんだ。

 クロウさんはそう言った。


 魔物ごとの急所と弱点、隙の見極め方、一撃必殺を可能とする為の知識や実戦的な技を身をもって教えてくれた。


 体重は俺の半分もないはずなのに、俺と同じ武器で稽古をつけてくれた。クロウさんの筋力ステータスはどうなっているんだろうか……、異常な速さもそうだけど、魔法も多彩でどんな武器でも使える……。あんな人が田舎のギルド勤務ってことは公都のギルド職員はいったいどんな猛者なんだ……?


 まあそれはそれとして。


 故郷を出ても何とかくっていけるようになり。

 勇敢とは決して言えないけど、仲間たちと一緒なら勇気を感じられる程度の臆病者にはなれた頃。


 西の大討伐にジスタさんやシードッグさんのこの町における主力パーティが招集された。

 町にはブライさんのパーティとバリィの兄貴のパーティだけが残った。


 忙しくなったが、何とかなった。

 でもそこから更に、ブライさんとセツナさんが酷い怪我でリタイア。

 パーティを再編成するにあたり、俺はメリッサと組むことになった。


 無差別級ブチ切れ不良娘のメリッサは怖かったけど、バリィの兄貴とリコーの姉貴の仲を引き裂くのは気が引けた。

 メリッサが前衛回避盾役でヘイトをコントロールし、後衛魔法使いとしてクロウさんが固めて、前衛火力として俺がとどめを刺す。


 初めは慣れなかったけど、メリッサもクロウさんも信頼に足る実力者だったので頑張れた。

 足を引っ張らないように、何とか頑張った。


 そんな中で、リコーの姉貴に子供が出来た。

 もちのろんで相手はバリィの兄貴だ。


 感無量だった。

 手放しに喜んだし、涙を流した。

 二人が抜けるのは寂しかったし、不安だったけど止めることはしなかった。

 俺に出来るのは、二人が抜けても大丈夫だと思って貰えるように頑張ることだけだった。


 とはいっても今まで四パーティにプラスたまに別の町から助太刀してくれていたパーティで回していた仕事量が一つのパーティ、しかもこの町で最も若手の二人とギルド職員で構成された即席パーティだけでけ負うことになった。


 その負担たるや。

 メリッサは目に見えて疲弊していて、毎日クロウさんから回復魔法を受けていた。

 あの無敵のクロウさんも、顔に疲れが出ていた。そりゃそうだ、元々一人じゃ無謀な量なギルドの仕事もこなしながら更に四パーティ分の冒険者の仕事を若手二人を抱えながらこなしていたら、それは疲れる。


 体力には自信のある俺でも、かなり消耗していた。

 それでもやるしかなかった。

 兄貴たちを心配させないように、勇敢になったと思ってもらえるように、頑張った。


 だがある日、親父が倒れたと村から知らせが届いた。


 母は俺が子供の頃に病気で死んだ。

 親父は今、一人で木こりをしている。

 森でいつものように斧を振っていると、いつも森には居ない強力な魔物が現れた。


 親父も大概の馬鹿力で、大抵の魔物は前蹴り一発で蹴散らしてきた。斧が錆びるから魔物相手には斧は使わないと、豪語していた。


 そんな親父が、魔物に負けた。

 斧をへし折られ、肺をえぐられ、もう長くない。


 西の大討伐で北でも冒険者が減り、討ち漏らしが森に逃げてきたのだろう。


 多分親父は死ぬ。

 村へ戻らざる得なかった。


 でも、この町を、クロウさんとメリッサを、見捨てることが出来なかった。

 俺は臆病者だ。そして、卑怯者だ。

 悩んだ末に俺は、クロウさんに相談をした。


 クロウさんは少し驚いて、直ぐに。


「行けよ。ここは任せろ、町のことはギルドが背負うべきことだ。親や故郷のことは、おまえにしか背負えない」


 そうやって俺を送り出してくれた。


 わかっていた。

 わかっていたんだ。


 クロウさんなら必ず、そう言ってくれるとわかっていて相談をした。

 自分で決める勇気がないから、クロウさんの強さに甘えたんだ。


 俺は臆病者で卑怯者だ。

 冒険者でも、英雄でも、勇敢でもない。


 トーンの町を出て、北の村へと戻ったその日に親父は死んだ。


「……遅いんだ馬鹿者、だが、よく逃げずに来た……強くなった……」


 そう言い残してから昏睡し、夜が明ける前にこの世を去った。


 色々と思うところもあるが、色々とやることもある。

 葬式に埋葬、親父が倒れて止まってた伐採。

 冬越しの薪を用意する為に、親父が乾燥に回してた木をひたすら割った。


 とりあえず薪は何とかなった。

 これで冬は越せるが、懸念はある。


 例の魔物は親父が必死の覚悟で食らわせた一撃により、負傷して逃げたらしい。


 魔物の回復力なら、そろそろ復活していてしかりだ。魔物は狡猾、恐らく親父を殺してこの村に今防衛能力がないとわかっている。


 食い損ねた人間を食いにやってくる。


 だから俺は戻ってきた。

 故郷くらい守れなくては英雄にはなれない。


 しかし、俺は臆病者で弱虫で卑怯者。

 俺は一人で魔物と戦ったことがない。

 いつだってリコーの姉貴の防御とバリィの兄貴のサポートがあって、一撃で決めることが出来た。


 一人か……、怖ぇ……。


 キャミィのように回復役でありながら、一人で魔物を拳で殴り殺すなんてことは俺には出来ない。

 いや身体能力というか筋力でいえば出来るはずなのだけれど、筋肉だけじゃどうにもならないことだ。


 でもやるしかない。


 村で加工した硬い木を加工して盾を作り、リコーの姉貴を真似て付け焼き刃だが装備する。

 村のみんなから魔物の特徴を聞き、バリィの兄貴よろしく戦力分析をして。

 クロウさんに習った立ち回りを当てはめる。

 あとはメリッサのような、憤怒を狂気にも近い勇気に変えて。


「……さあ、ここで畳むぞ」


 そう呟き、斧を担いで森へと入った。


 基本的に遭遇戦は先手必勝だ。

 特に俺みたいな近接攻撃役は、後手に回ると中遠距離攻撃で削り殺される。


 おとりを作り、罠を張り、身を隠す。


 まあやたらデカい俺には向いていないことこの上ないが、一撃を狙うのならこの作戦しかない。

 ギリギリまで引き付けて、盾を構えて突っ込んで一撃で頭を叩き割る。


 囮に騙され罠にかかるのをひたすら待つ。

 体力には自信がある、気も長い方だから待つのは得意だ。


 木から鳥を何羽か血抜きをしながら吊るしていた場所を穴の中から匂い消しに、木の粉末や泥を被って迷彩めいさいにして身を隠しながら夕暮れから夜中まで待ち続けた。


 ここで初雪がちらつき、あっとゆう間に積もっていく。


 冬が早い、トーンの町ではまだまだ過ごしやすい頃だろう。

 筋量が多い俺は体温も高い、このくらいの寒さなら問題はない。


 どっぷりと夜が森を包み、雪も軽く積もって止み、木々の隙間から月の光が照らす。


 そこに、やつは現れた。

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