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02人の生命を救うのは結局のところ最後は根性

 それを見て、バリィ氏は初手いきなり水の弾を私に向けて放つ。

 その水の弾をダイルが蹴りで弾きながら、そのままブライ氏に突っ込む。

 ここは想定通りにダイルのブライ氏がぶつかり合う展開になる。


 遅れて踏み込もうとしていたブラキス氏に対してポピーが光線の魔法を何発を放つが、着弾前に見えない壁のようなもので散らされる。

 これも想定通り、バリィ氏が魔法防御をブラキス氏にかけたのだろう。


 その瞬間にメリッサがバリィ氏に向かって目視転移で跳ぶ。

 ここまで想定通りの流れだったが。


 目視転移で跳んだ先で。

 バリィ氏の目前で、鼻と口から血を吹いてがくんとふらついた。


 そんな状態から弱々しく薙刀を振るが、バリィ氏が召喚した棍で簡単に弾かれ。

 その隙を待っていたように、ブラキス氏がメリッサの胴を棍棒で打ち抜く。

 打ち抜かれたメリッサは、燃え上がり火に包まれたまま壁に激突して丸焦げで壁から剥がれ落ちた。


 何が起きた? バリィ氏は火系統の魔法を使えないんじゃ……、使えるのは無、水、風……


……っ‼」


 私は気づきを口に出しながら慌てて遠隔回復をメリッサへ飛ばす。


 恐らく、メリッサが目視転移で跳んで来ることを読んでいたバリィ氏は転移予想地点に風魔法で空気の塊のようなものを設置しておいたのだろう。

 まんまとそこに跳んだメリッサは、高濃度の酸素を体内に取り込み酸素中毒を起こして肺や軌道がやられて運動障害を起こした。


 こんなすぐに酸素中毒症状を起こすなんて本来は有り得ないが、これは魔法だ。

 魔力が魔法として昇華される際に、即効性のあるように書き換えられているのだろう。


 そこをブラキス氏の怪力に打ち抜かれ、空気との摩擦で高濃度の酸素が発火。

 さらに強打で壁に打ち付けられた。


 火傷や骨折、腹腔内出血も考えられる。

 何より酸素で脳へのダメージが入っていた場合は早急に抜かないと非常にまずい。


 だが。

 私の放った遠隔回復は、メリッサに届く前に複数方向に逸らされるように散った。


 何が――。


「クライス! メリッサに魔力導線が重ねて貼られてる! 遠隔じゃ散らさられるから触れて回復するしかないっ!」


 魔力視でポピーがからくりに気づいて私に共有する。


 魔力導線……、防御魔法を敵に使って回復を阻害するのか。

 私は接触回復の為、メリッサへ向けて駆け出す。


 しかし。


 ダイルとブライ氏の戦闘でポピーの魔法から射線から切れたブラキス氏が、そのままブライ氏とダイルをまとめて打ち抜くように棍棒を振り抜く。


 それをブライ氏は躱して、ダイルは当たった。

 ダイルは全身の骨を砕かれながら、宙に舞う。


 回復を、いや、優先度としてはメリッサ――。


 迷った瞬間。

 超高速で飛ばされたダイルが、何も無い空間で見えない壁に激突し跳ね返り。


 そのまま私に衝突した。

 凄まじい衝撃、肋が砕け内臓が裂ける。


 空気の壁に反射させた……? 狙ったのか? これを……『狙撃』はここまで狙えるものなのか?


 回復魔法を自身に掛けながらも、ダイルと絡まった私は壁に激突しさらにダメージを追う。

 回復を、だが思うように動けない。


 そんなまごつきをブライ氏は見逃さず、ダイルごと双剣で滅多打ちにされ打ち上げられる。


 意識が途切れる寸前に、訓練場が宙から俯瞰で見える。

 メリッサの横で棍棒を振りかぶるブラキス氏。

 ポピーの喉元にこんを突きつけて構えるバリィ氏。


 なるほど。


 私は完全敗北を悟りながら、れた果実が木から落ちて潰れるように。

 宙から落ちて、そこで私の意識は途絶えた。


「はーい、反省会やるぞー」


 バリィ氏は手を叩きながら号令をかける。


 完全敗北ののち

 メリッサは『勇者』の回復力により動ける程度まで自力で回復し、回復魔法を使って私を起こして全員を回復させた。

 メリッサも診察魔法で診た限り脳にはダメージがなかったので良かった。


「とりあえず良かった点。まずは初手で俺を狙ったこと。格闘戦能力の低い魔法使いを狙うのはセオリー通りだし、悪くなかった。というか全体的な動きとしては良かったと思う。前衛のダイル君もブライにしっかり張り付いていられたし、後衛のポピーさんもブラキスへの魔法はかなり正確だったし厳しかったし、遠隔回復が出来ないと気づいてメリッサへ走り出したクライス君も判断は間違いじゃなかった」


 バリィ氏は淡々と先の模擬戦での動きを解説する。


「悪かった点は、一重に意識の甘さ。行動ひとつひとつに役割以上の意識、本質的に何を目的とした行動なのかって意識が足りていなかったね。ダイル君はブライを押さえることに注力していたけど、俺を狙う作戦なのであればブライを躱して俺を叩こうという気概がなかった。ポピーさんもブラキスを牽制することに必死で心臓を撃ち抜いて火力を削るという気概はなかった。メリッサも確実に俺の頭を吹き飛ばすという気概が足りなかった」


 ここからは私たちの反省点、虚弱性について語られる。


「もしダイル君が狡猾にブライを出し抜く動きを見せれば俺やブラキスはそっちにもっと警戒の意識を向けなくてはならなかったし、ポピーさんが本気でブラキスを殺しにかかっていたら魔法防御やブライが射線を切る立ち回りを強制出来ていたし、メリッサも跳んだのと同時に爆撃魔法やら重力魔法やらどうあってもダメージが通るであろう方法を使うべきだった。特にメリッサは甘かったな、反省しろ馬鹿。クロウは殺す気でかからねえと触れもしねえぞ」


 模擬戦で気になった点を一人一人具体的に出して行く。


 意識。

 確かに模擬戦ということもあり作戦の役割に徹しようとしすぎていた。


 それと、やはりブライ氏にも思ったがメリッサにはやや厳しい。まだ『勇者』足りえていないのだろうか。


「それとクライス君は単純に何でもいいからもっと運動能力を上げた方がいい。もっと早く走れてすべり込みでメリッサを回復出来ていればそれなりに回復魔法も使える『勇者』が復帰してまだ戦闘状況が繋がることになる。飛んできたダイル君をけたり受け止められていれば前衛盾役が復帰してメリッサの元に辿り着く盾が一枚増えたことになる。回復はパーティのかなめ、落とされないように地力を上げなさい。後衛サポートがパーティの弱点になってはダメだ、狙われるんじゃなく狙わせるようになりなさい」


 バリィ氏は私に対してさらに具体的な弱点を語る。


 なるほど、彼から見て


 確かに私は戦闘行為どころか喧嘩すら経験に乏しい。

 世間知らずも世間知らず。

 メリッサの故郷を軽んじて、失言で怒らせてしまったり。

 謝り方も喧嘩の仕方も知らない。

 皆が話すことも、後でこっそりと本屋に出向いて勉強しなおすことも珍しくない。


 それはそうだ。


 私は二年前まで教会から一歩も出たことがなかったのだから。

 生まれてからの二十二年間を、教会の中だけで過ごした。


 今となってはこれが異常だと思われることは理解出来るが、これが異常だと気づけないほどに異常な生活をしてきた。

 まあ途中からは流石に自分が寄付金集めの為の回復用の機械として囲われていることに気づけたというか、外への好奇心で憧れを持つようになった。

 生存と生活に必要な行動以外では神に祈ることや人々に聖典を読み上げ教えで導くこと、貴族の怪我や病いを治すことしか知らなかった。


 私にとって教会内の本や外から来た人々の雑談と窓から見える景色で想像するしかなかったものなのだから。

 教会の入口の床から一歩先にある、外の石畳の感触すら私は想像するしかなかった。


 東の端から西の端まで六百八歩。

 北の端から南の端まで五百十九歩。

 一階から七階まで百三十二段。

 窓の数はステンドグラスが三十、開閉出来るものが二百六ヶ所。


 それが私にとっての世界だった。


 十五になった頃。

 私は好奇心のピークが訪れており、少しでも世界を広げようと足掻いていた。


 床に這いつくばったり、椅子の上に立ったり。

 窓から身を乗り出して下を見たり上を見たり。

 他の聖職者たちにバレないように奇行を続けた。


 その結果、私は教会に地下室があることを発見した。

 私は好奇心が抑えきれず、階段とハシゴを三十八段ほど降りた新世界へと忍び込んだ。


 そこは、暗くてほこりっぽい恐らく大昔まで倉庫として使われていて存在すら忘れ去られていた部屋だった。


 予備の椅子や年代物の家具や蝋燭などの予備や神具が並んでいた。

 目や鼻、耳からも新しい情報が沢山入ってきて私は舞い上がった。

 色々な物を手に取り見て回った中で最も目を引いたのは、だった。


 埃を被った本棚には様々な本が並んでいた。

 中には禁書と呼ばれる教会には並ばないような本もあったが古過ぎて別に今なら世に出てもそれほど問題はないんじゃないかと思えた。


 しかし一冊。

 厳重に保管された本を見つけた。


 本の著者は『サプライズモア株式会社』とあり。

 命題は『ビリーバーによる世界干渉の沿革』と記されていた。

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