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04いつだって大事な話を知らされるのは終わり間際

「かなり良好、君は凄いねクライス君。神に飽きたら冒険者になるといい」


「神官が神に飽きることがあってたまるか、あんまり信仰に変な絡み方するな」


 俺の叫びは完全に無視されたようで、ブライさんは機嫌良さそうにクライスに軽口を叩く。


「これで俺の仕事はおしまい…………なんだが」


 穏やかにブライさんが場を締める、のかと思いきや。


「メリッサ相手しろ、右手の慣らしをしたい。最後に稽古つけてやるよ」


 右手で握った木剣をメリッサに向けて、ブライさんは宣う。


「え? いやいや、ブライ……。今の私は勇者よ? 昔みたいにはいかないのよ。もう私の方が強い」


 呆れた様子でメリッサはブライさんに返す。


「へえ……、じゃあ勇者様の胸をお借りして……、いや借りるほどねえか。ペチャパイだもんなおまえ。おまえが賢者のねーちゃんの胸を貸してもらえ」


 ブライさんはこれ以上なくメリッサに喧嘩をふっかけ。


「……


 わかりやすくブチ切れた短気な勇者は、完全に喧嘩を買った。


 興味があった。

 怪物と勇者の模擬戦、どんな戦いを繰り広げるのか。

 ここは素直に勉強させてもらおう。


 ちなみに巨乳は好きだが、俺は乳の大きさで女を選んだりはしない。念の為に。


 訓練場で対峙した二人が持つ武器は、ブライさんはもちろん双剣でメリッサは最近練習中の薙刀。

 まあ、結論から言うと。


 メリッサは手も足も出せずに、ブライさんにぼっこぼこにされた。


 初動、メリッサお得意の無詠唱目視転移で奇襲をかけたが、出現ポイントどんぴしゃりでカウンターを入れられる。


 吹き飛ばされる慣性ごと目視転移で跳びながら様々な角度から狙うが。

 ブライさんはあまり動くことなく全てをカウンターで叩き落とした。


 回復魔法と『勇者』の回復補正でダメージを抜きながら攻めるがらちが明かない為、メリッサは少し距離を取って魔法で牽制をしてから目視転移で跳んだが。


 首根っこに木剣を引っ掛けられ、自分が放った魔法の盾にされていた。


 ここでメリッサは、奥の手である自称究極の魔法だという擬似加速を発動した。

 これはあの速すぎる怪物のスキル『超加速』を魔法で再現したものらしい。


 魔力が尽きない限りは、あのクロウ・クロスの不可視の速さで戦えるという確かに白兵戦最強と言える魔法だ。


 しかし、これでもブライ・スワロウには届かなかった。


 不可視のはずなのにブライさんはメリッサを的確に捉えて、徹底的に叩き込み。

 打ち上げられて一瞬自由落下で、加速が途切れたところから怒涛の連撃が始まる。

 あれはもう一度入ってしまえば転移だとか加速だとかは関係がない。

 双剣のどちらかが常に当たり続けている状態だった。


 数秒ほど叩き続けたブライさんだが、突然ピタリと手を止めて。


「クライス君、後五秒以内に回復しないとペチャパイ勇者様がくたばるから急ぐといい」


 そう言ったところで、メリッサは糸の切れた人形のように崩れて落ちた。


 直ぐにクライスは全力でメリッサを回復させたところで。


「説教だ! 全員正座しろおっ!」


 そう怒鳴り上げたことにより、メリッサだけじゃなくて俺もクライスもポピーも全員訓練場に正座をさせられた。


「……テメー、本質的に奇襲グセが抜けてねえ割に不意をつくことに執着して接触が雑なんだよ。クロウの真似してえのか知らねえが、さっきの見たとこに跳ぶやつは目線で出現位置を予測出来る。俺程度で合わせられんだから、感覚上がるスキル持ちなら全然反応出来んだろ。そんでもって接触時で放つ攻撃の練度が絶望的に足りてねえ、それで? 勇者がなんだって?」


 ブライさんはぐうの音も出ないほど的確に先の模擬戦でのダメ出しを始める。


「あの速くなるやつもそうだ。速くなること自体は悪かねえが、速くなってもテメーの技量自体が上がったわけじゃねえ。結局接触時が雑だから捌けるし、クロウの真似してえなら自由落下速度も加速するくらい徹底しろ。あんなゴミみてえな隙を晒すなんて論外だ、死にてえなら首を吊れ」


 辛辣過ぎる説教は続く。


 辛辣過ぎるが確かにあの隙は俺にもわかった。あの隙を突けるとは思わないが、相手の連携の練度が高ければ死ねるくらいに致命的な隙だった。


「それにテメーのクロウの真似戦法は連携が取りずれえ。あいつだって人と組んで動く時は基本地力で動いて要所要所で加速してたし、あいつが仲間全体を加速させたりもしてただろ。パーティで動くんなら奇襲を通りやすくする為にむしろ速さは隠せ、速さは緩急をつけてこそ活きる武器なんだよ。人に連携求めてる場合か? テメーが一番連携乱してんだよ。追放されるぞマジで」


 今度はパーティ単位で見たダメ出しをする。


 これも確かに、あれをやられると俺たちじゃあ合わし切れない。あの戦い方を全力全開でやるのなら一人の方が良い、俺の力量不足でもあるんだろうが難しいものは難しい。


「言っとくが今のテメーは、昔より雑だからな。刃筋を通そうと集中したり連携を試みるダイルの方が基礎的な技量はまだマシなくらいだ。まあ片手の俺に畳まれるクソ雑魚野郎だが。テメーはただ膨大な量の魔力を持って糞強い魔法を無詠唱で使えて馬鹿みてえな上昇量の補正がかかって近所のお兄さんに憧れていれるだけの雑魚の小娘だ」


 勇者に対して厳し過ぎる評価を言ってのける。


 ついでに俺に対しても。

 まあ確かに基礎を学んで丁寧に戦うようになったが、双剣士の片手剣に仲間の手を借りながら一撃与えるのがやっとな雑魚ではある……。


 辛辣で冷酷で激烈に的確な説教により、俺たちは意気消沈する。空気が重くなる。

 確かにこんなんじゃ、あの速すぎる怪物を捕らえることなんて出来やしない。


 俺たちは、弱い。


「はあ………………ちっ…………いや…………ぐう…………あー…………」


 重くなった空気を察し、頭を抱えて葛藤の末に。


「強くなりたいんなら、俺がおまえらの面倒見てやるよ……はあ」


 ブライさんはとても面倒くさそうに、そう言った。


「言った! 言ったよね! 聞いた? うっわーこいつちょれえー! 昔からブライってだごあ――ッ⁉」


 ブライさんの言葉に大喜びするメリッサは、当然のごとくゲンコツで黙らさられる。


「金は貰うぞ。俺はおまえらで公都に庭付きの家を建てることにしたんだ」


 メリッサに呆れながら、淡白にブライさんは告げる。


「もちろん! これでも私お金はあるんだから! これで私たちは強くなれる! ブライから教わればクロウさんにも勝てるはずよ!」


 殴られた頭をさすりながらメリッサは変わらず嬉々として話す。


 そんな様子を見て。


「ああ? おまえらクロウとやり合うのか……? 俺はしか教えらんねえぞ?」


 ブライさんは眉をひそめてそんな疑問を投げかける。


「え、クロウさんは近接火力特化でしょ? 確かに魔法も使えるけど、後衛やってくれてた時も火力は前の私たちに任せて基礎魔法の援護くらいしかしてなかったし得意なのは槍とかの長物をつかった格闘戦でしょ。そのクロウさんに剣で勝ったブライに習うのは当然でしょ」


 メリッサはブライさんの問いに当たり前のことを答える。


 その答えにブライさんは。


「いや、クロウの魔法使いだぞ」


 さらりと、とんでもない事実を告げた。


「高速詠唱とか言って誤魔化してるが、完全な無詠唱で全系統の魔法を使えて魔力回復速度を上げてるから魔力に底がない。しかも消滅魔法やら系統分類が出来ないようなもんまで当たり前のように使う」


 さらにブライさんは次々と衝撃的な事実を話す。


「確かにあいつは近接格闘も馬鹿ほど強いが、喧嘩が強いだけの凄腕魔法使いだ。俺は魔法なしで使い慣れていない木剣を握ったクロウに千回やって九回勝っただけだぞ」


 想定外のタイミングで告げられた予想外のクロウ・クロスの正体。


 俺たちの中に、驚愕や畏怖や絶望感など様々な思いが巡る中。

 やっぱり、一番最初に思ったのは。 


「「「「……最初に言ええええええええええええええええええええええ――――っ‼」」」」


 四人同時に、そう叫んだ。


 それでも結局俺たちはブライさんを相手にパーティ連携を磨き。


 さらにどっから現れたんだかブライさんやメリッサと同じ町で冒険者をしていた、これまた怪物みてえなキレッキレの後衛魔法使いと一撃必殺の前衛火力が合流し、この三人の連携をもって仮想クロウ・クロスとしてさらに鍛えた。


 メリッサは指示出しや、ここぞというタイミングの奇襲を覚え。

 クライスは毎回全員死にかけ状態なので必然的に回復速度が鍛えられ、あとちょっと身のこなしも良くなった。

 ポピーは元々誰よりも魔法が得意ではあったが、戦術的に設置発動や時間差発動や幻影による魔法発動の隠蔽など、かなりいやらしい魔法の使い方ができるようになった。


 俺はまあ、双剣士に戻ったブライさんには届かないにしてもパーティ連携についていける程度には動けるようにはなった。


 まあ、そんな感じでさらに鍛えたが。

 この先にもちろん起こる、実戦には。


 やはり不十分ではあった。


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