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第3話ヒーロー戦闘!

 子供用ヘルメットを被せたアンを前に抱えるように、シートに乗せて二人乗りで痕跡を辿る。


 いやー楽だこれ、俺もオートバイ買おう自分で走ったり跳んだり飛んだりした方が速いとか亜光速跳躍だとか俺が馬鹿だった。これは買おう、貯金はめちゃくちゃあるし。


「…………」


 俺からは不安な頭しか見えないが、頭だけでもアンが不安な顔をしているのが見てとれた。


「安心しろ、もう会える。俺は誰かを助けられなかったことがない」


 けんそんではなく紛れもない事実を伝える。


「……わたしは助けられなかった」


 と、オートバイの駆動音と風に消えそうな声でアンは呟く。


「あのときにね、わたしがやめてって言えたらお母さんいなくならなかったかもしれない。声が大きいって良く褒められてたのに怖くて声が出なくて……、わたしはヒーローみたいにはなれない、勇気がない」


 アンな自身の思いをぽろぽろと語る。


 なるほど、それで落ち込んでいるのか。


 確かに大きな泣き声だったけど、結果から見たら声を出さない方が良かったんだけどな。


 ちゃんと説明してやるか。


「今まで九十九人ヒーローがいて百個の凄まじい技能があったけどって技能はなかった」


 俺はスロットルを回しながら、アンに向けて語り出す。


 勇気なんて技能のはない。

 全部使える俺が言うのだから間違いはない。


「あの歴代勇敢なヒーロー達だって勇気なんてものはない。ただただ自分に出来る一番善い行いを必死にこなしてきただけなのさ」


 俺は歴代ヒーローたちの姿を思い出しながら、語る。


 まあ流石に全員と面識があるわけじゃあないが。

 単純に世代が遠いのもあるけど、戦いの中で死んでるし先代や先々代あたりは地球崩壊戦線に殺されているし。


 でもヒーローの本質は、全員同じはずだ。

 気づいたら最善のタイミングで身体が動いていた、そして最善を尽くせた。

 その延長線上に、ヒーローがいるだけだ。


 勇気なんてものは言葉でしかない。

 そんな便利なもの史上最強のヒーローである俺にだってそんなものはない。


 怖いし嫌だし帰りたいし辞めたいが、身体が動いちまうだけ。死闘を繰り広げた崩壊王から言わせれば、これは病気の類いらしい。


「最善を尽くせ。その時に声を出していたらおまえも捕まっていた。そしたらお母さんを助けることも出来なかった。だからそんな気にすんな、それは最善だ」


 俺は優しく、穏やかにアンの行動を肯定する。


「…………」


 アンは黙って聞く。


「ただ反省することも助けたい気持ちを持ち続けるのも最善だ。その大きな声は必要な時に役に立てろ最善を考えるんだ。おまえは基本的に間違ってないよ」


 さらに落ち込むアン自体も肯定する。


 まあなにせ俺に助けを求めるたんだから、それ以上の最善はねえわな。何も間違ってはいない。


「俺が今からそれを証明するのよね」


 アンに聞こえるか聞こえないかの声で、俺の中の決意を口に出す。


 結果論にはなるし、結果が全てとも思わないが、ヒーローとしては大事なことだ。


 そのまま俺はオートバイを安全に飛ばして。


「よし着いた」


 そう言って、オートバイを可視化した匂いが途絶える少し手前に停車させる。


「ここ⁉」


「ここ」


 嬉々としてアンがそう言ったのに、俺はヘルメットを外してやりながら返す。


 オートバイから降りて、一緒に飛び降りたアンを捕まえてシートに座らせ直して。


「さーておまえはこの素晴らしいオートバイで待ってろ」


 と、言って両頬をむにっと摘んで寄せる。


「わたひも行ふっ!」


「それは最善ではない。お母さん連れてくるからそれまでおまえはこのかっこいいオートバイを守っていてくれ」


 着いてくる気満々なことを言うアンを宥めるように役割を与えオートバイの鍵を渡して頭を撫でる。


「うん……」


 不安げにアンは小さくうなづいて返事する。


「すぐ戻るよ。もし………………、いやなんでもねえ」


 もし俺が戻らなかったら、と言いかけたがそんなことは有り得ないので言うのをやめた。


 無駄な不安は与えない方がいい。

 まさか俺がそんな有り得ないことを言いかけるとは、ホントに疲れてるな。


 さて。

 とりあえず物陰から建物を覗いてみる。


 隠密行動は出来なくはないが、正直やったことがない。

 史上最強絶対無敵究極超人の俺はいつだって正面突破をしてきたので逃げ隠れしたことがないのだ。


 今回は救出ミッション。

 お母さんを助けて逃がす。

 故に犯人グループを殲滅する必要はない、忍び込んで連れ去りゃ終わりだ。

 したらば帰って寝る。


 んでそのうち本部が特別警戒態勢を解いて警察も動く、万事解決だ。


 この辺でいいか……? わっかんねぇけど。

 建物の裏手に回り、外壁を触る。


 九十番目の技能……、生身でコレを編み出したヒーローはマジで天才だな、これ覚えんの大変だった。


「スゥ――――……」


 呼吸を整え、技を繰り出す。


 よし、粉砕。

 手を置いた壁が、綺麗に砕ける。


「ガフッ……!」


 やっべ反動で血ぃ吐いちゃったよ、崩壊王戦のダメージが残りすぎてるな……。


 ん?


「…………は?」


「ああ……こんにちは」


 粉砕で砕いて空けた壁の大穴越しに、中にいた恐らく過激派信徒の皆さんとばっちり目が合ったので挨拶をする。


「お、おまえ何し……ッ?」


 騒がれそうになったのを遮るように顎先に柔らかく掌底を合わせて、信徒の方が喋りきる前に意識を断ち切る。


 教訓、慣れない事はするものでは無い。


「なっ」

「!」


 続けて同じ要領で声を出しそうな信徒の方二人の意識を優しく刈り取る。


 目的は殲滅では無い。

 せっかく救った人類を減らしたくないから細心の注意を払って優しく丁寧に丸一日目が覚めない程度に無力化をする。


 気を使うのがマジに疲れるが、ヒーローとしては当然の配慮だ。


「ひっ」

「か」


 そのまま何か言われる前に、もう二人優しく倒す。


「お、おい! ありったけ人数集めて取り押さえるぞ‼ 先生も呼っ――」


 と、一人かなり喋らしてしまってから倒す。


 ああ仲間を呼ばれてしまった。

 急ぐと手加減が出来なくなるのでこんな隙を与えてしまうことが歯がゆい。


 すぐにぞろぞろと、お仲間がやってくる。


「なに」

「うお」

「だ」

「ちょっ」

「ぐあ」


 さくっと喋らせる前に五人片付ける、あーしんどい。建物ごと吹き飛ばしてしまった方が絶対に楽だ。やらないけど。


「なんなんだ誰だコイツ強すぎてやべぇ!」

「囲め囲め‼ フクロにすんっ」

「なっ⁉」

「一斉に行けぇええ」

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


 続々と色々と言いながら信徒の方たちが一斉に飛びかかってくるのを、できる限り優しく全員畳んだ。


「フ――――ッ……」


 雑になってきたので呼吸を整えて、丁寧さを取り戻す。


「何落ち着いてんだてめぇ! 調子乗んなよ‼ まだまだいるぞオラァ‼」


 そんな声と共に、さらに二十余名が押し寄せてくる。


「…………」


 一分程度も時間をかけてゆっくりと、全員を寝かしつけ。


「一億五千万人以上連れてこい」


 俺は倒れた方々にそう伝える。地球崩壊戦線を見習え。


「お兄ちゃんはしゃいでるねぇ、でもはしゃぎすぎだぜ自分が強いと思うのは勝手だが……、ま、俺にやられて後悔しな」


 日本刀を抜きながら、今までの信徒の方々とは少し雰囲気の違うやつが入ってくる。


「第四形態まで強くなれ」


 三秒も時間をかけて倒して、そう伝える。


「ぐっ……」


 ふらついて壁に手をつく。


 やべぇホントに限界スレスレだ……、脳みそが沸騰しそうだ、血涙も出てきたし耳の様子もおかしい。


 あらかた無力化したろ……、もうひと踏ん張りだ……、もう膝もガックガクだ。


 へろへろになりながら建物内を這いずり回りお母さんを探す。この疲労度じゃあ匂いの可視化も気配察知も確定予測も使えない、使った瞬間に目玉が飛び出る。


 しらみ潰しにドアを開け、椅子に縛られて猿ぐつわをされるお母さんらしき人物を見つける。


「あんたがアンの母親か?」


 俺の問いに縛られた女は大きくうなづく、これがアンのお母さんか。確かに似てる、親子だ。


「助けに来た。表に娘も待ってる。さっさと出るぞ」


 俺はそう言いながら、拘束されたお母さんに近寄っていく。


 帰れる寝れる疲れた眠りたい帰れる寝たい終わりだ眠る疲れた眠りたい帰る終わった眠りたい。


 頭の中が布団でいっぱいになる。

 そのままお母さんを縛る縄を解こうとすると。


「んー! んー!」


「あ?」


 お母さんが何かを訴えてることに気づいた時には俺の後頭部に。


 が突きつけられていた。


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