俺、
地球崩壊戦線との最終決戦にて。
一億五千万の軍勢を一体残らず蹴散らし。
第三形態になってべらぼうに強くなった崩壊四天王を全員叩きふせ。
第何形態だか思い出せないくらい強くなり続けた崩壊王を制し。
まさかの真の崩壊王は倒したはずの四天王の一人でそいつもぶっ飛ばして。
そいつが残した完全地球崩壊爆弾の爆発を身を
落下する月を衛星軌道にピッタリ押し戻し。
亜光速跳躍にて帰ってきたところである。
「変身解除……」
着地で舞った土煙の中で俺は一人呟く。
いやホントに何回変身すんだよアイツら……、月落とせんなら爆弾作んなよ……、マジにアレめちゃくちゃ痛かったぞ……。
「ハァ――……ぁッ……ハ――――――……あーあーあー……」
ため息と、出すつもりのない声を漏らす。
いや、しかし。
「めっっっっっちゃくちゃ疲れたあぁぁぁぁ……‼」
力の入らない声で、心の底からの思いを吐き出す。
やり遂げた。終わった。
丸々一週間くらい不眠不休で毎秒死にかけながら戦い続けた。
もうアパートに帰ったら泥のように眠る。
兎に角眠るのだ。
俺はいわゆるヒーローである。
世界を守って戦う、正体不明のその正体。
通称『
歴代九十八のヒーローの技能を使う九十九人目のヒーローだ。
固有技能は『万能』と『跳躍』の二重保有者。
ああ技能ってのはあれだ、超能力だとか卓越した武術だとか改造手術だとかそんなんで人の域を超えた能力みたいなやつの総称だ。
なんか凄いこと出来りゃあ技能、異能力だとかギフテッドだとか昔は色々分類されてたのを一緒くたにまとめて技や能力だから技能。
まあ『跳躍』は文字通り跳ねたり跳んだりが人より上手いこと出来るっていう技術ってより能力……いや単なる才能だな。バレーボールとかバスケットボールとか陸上競技とかに向いてる人ってくらいのものを技能とカウントしている。
それともう一個の『万能』によって歴代ヒーローたちが使った九十八の技能を習得して発揮することが出来る、擬似的に百もの技能を使える。
一応史上最強の超人とされ、自覚もしている。
わりと商業展開もされ世界中で大人気である。ただしアニメやコミカライズ版の俺の方がかなりイケメンである、それは解せない。
最終決戦が始まってすぐ端末が壊れて俺の信号はロストしているだろうから、本来は本部に直帰か何かしらの連絡をするべきなんだろうけど。
「あー飯買って……いやもう先に寝よう……布団に入ったら溶けてもいい」
回らない頭で、誰に言うわけでもないことを呟く。
俺は疲れたのだ。
もう全部やり遂げたのだ。
世界は救われた。
本部もすぐそれに確信を得て勝手に公表するだろ。
もういいだろう、このまま消息と生死も不明ってことにして俺も救われた世界で平穏に生きていいだろう。
最後の仕事としては充分すぎた。
俺を元ヒーローにしておくれ。
まあ、そのうちすぐに見つかりそうだけど、せめてその時まで……。
なんて考えて、ややふらふらになりながら家路につく。
そんな道中、歩みにやや抵抗が生まれる。
足元に視線を落とすと、ズボンを掴む小さな手。
「……ん?」
なんて言いながら振り返ると。
そこには女児が
え、なんだ……? なにこれ全然頭回んねぇ……、子供型爆弾とかじゃねぇよな?
「……さんど」
俯いたまま女児が小さく声を漏らす。三度? 女児の声に耳を傾ける。
「お母さっ、……おか、お母さん…………どこ……?」
その女児の言葉に。
「ま……迷子なのか?」
と、俺は訪ねる。
「うっ……ううぅああ――――――――ぁああん‼」
目が覚めるような大きな泣き叫びで答えられる。
うおー、マジか。
正直「そうかがんばれ」と言ってこの小さな手を振り払い、置いて帰るのは簡単だ。
良心の呵責をオール無視できるくらいのことを今しがた終えてきているし。
何よりマジに油断したら死ねるほど疲れている。
変身している時ならまだしも今は完全にオフどころか精神的に引退したと言っても過言ではない。
って言うかマジで帰って眠りたい。
「…………」
俺は少し頭を抱える。
だが。
「任せろ、お母さんに会わせてやる。泣くなよ」
そう言って俺はしゃがんで女児の頭に手を置く。
「……うん」
女児は不安そうに袖で顔を拭いながら返す。
こんなの無視できてたら、ヒーローなんてやってないわけで。
ああ、ちくしょう。
今度こそ最後の仕事だからな……。
俺は女児をあやしながら、心の中で呟いた。
そこからようやっと泣き止んだ女児を背負い、俺は家路とは正反対の市街地へと到着した。
とはいえ。
女児と出会った辺りを少し見回したけどそれらしき人影どころか人っ子一人いなかったんだよな。
「俺はツクモ。お嬢ちゃんのお名前は?」
「……アン」
「アンね、よろしく」
辛うじて下の名前を聞き出せたがまだ緊張状態にある彼女から自己紹介以上の詳細を聞くのも難しそうだ。
普通に交番へ連れていこう……、警察に任せて俺は帰って泥寝するんだ……。
そうこうしているうちに交番へ到着する。
「おまわりさんがちゃんとお母さんに会わせてくれるからもう大丈夫だ」
「うん」
アンにそう言って交番を覗くが警察官の姿は無い。
「あら、いない。
俺はそう言いながら交番のガラス戸を開く。
中で少し待って戻って来なかったら中の電話使って署に連絡とかしてもいいんだっけか。
まあいいか、とりあえず中に入ろう。
中に入ろうとするとパトカー数台が俺たちの後ろをサイレン鳴らして通り過ぎる。
すると通行人から。
「え、なんかあったの?」
「なんか向こうで広場が爆発したとかでもうこの辺の警察総動員だよ」
「特別警戒態勢中だからいつも以上に力をいれてるな」
「これ攻撃とかじゃないよね?」
などと、ざわざわと声が聞こえる。
いやそれ。
俺の亜光速跳躍の着地じゃーん……。
この一週間戦い通しで完全に感覚狂ってたし頭も回ってなかったな……そっかあの規模の衝撃は問題になるよな……。配慮する余裕が全くなかった。
本部に任務完了報告もしてねぇから政府の警戒態勢も解けてねぇし、警察も迷子にゃ動けねぇわな……、参ったな。
「…………」
不安そうな顔をして、アンは俺の服の袖を小さく摘む。
「……はっ、おまわりさん忙しいみたいだから代わりにお兄さんが見つけてやるよ」
俺は笑顔作りってそう言って、アンの頭に手を置く。
「……うん」
「そんな顔すんなって。これでも俺は頼り甲斐のある方なんだぜ」
不安そうな顔で小さい返事をしたアンに、そんなことを言って交番を後にし。
自販機で飲み物を買って近くの公園のベンチに座って休むことにした。
端末の裏にいくらか挟んどいて良かった、壊れて機能としては死んでるけど紙幣燃えないって。軍が誇る最新技術……流石の強度だな。
いや日本紙幣が凄いのか? まあまあ爆縮ミサイルとか崩壊光線とか三日月蹴りとか地球崩壊爆弾とか貰ったけど、すげえな日本円。
しかしあんな女児を連れ回して世間的に事案にならねぇかな……、いやなりゃ警官にバトンタッチできんのか?
そういや俺もこのくらいの子供がいてもおかしくはないのか、まだ若いつもりだが傍から見たら親子か。
実際は家族やらなんやらは弱点に成りうるので俺は生涯独身で天涯孤独が定められているし、抱く女も軍内部に一人だけだ。
それを寂しいとか虚しいとか、そんな感傷に全く干渉されない程度に俺はヒーローなので気にしちゃあいねえけど。
自販機から飲み物を取り出しながら、俺はそんなことを考えていた。
閑話休題。
さて。
普段なら何個か技能使って一瞬で解決するんだけど今変身とかマジに死ねる……、見た目以上に俺は消耗している。そこまでの体力は残ってない。
地道が近道か……、亜光速跳躍出来るこの俺が……。
まあ仕方ない、そんなこともあると飲み込めるくらいには超常的な日常に慣れてはいる。
「ほらココアあったから、飲め飲め」
「ありがと」
俺は自販機で買った冷たいココアのプルタブを開けてアンに手渡しながらそう言うと、アンはちゃんとお礼を言いながら両手で受け取る。
よしココアで少しは落ち着くだろう……。
つーかココアマジにうっめえ……のなんの、疲れた身体に染み渡り過ぎだ! バビった、これやべぇちょっと涙出てきた。なんかこう、弱った時の心の拠り所的なことわざというか慣用句になり得るんじゃないか? 疲労
「……んで、お母さんとはどこでいなくなったんだ? もしくはどこでいないことに気がついた?」
落ち着いたところで、母親探しを再開するべく俺はアンへの聴取を再開する。
「おうち」
「なるほどじゃあお母さんの携帯端末とか…………
アンからの難解な回答に、思わず聞き返してしまう。
聞き間違いだろうか。
「おうち」
「お、お家で居なくなっちゃったの? お母さん」
再びアンは同じように答えるので、俺も同じようなことを返してしまう。
聞き間違いではなかったようだ。
しっかり、アンに向き直し話を聞く。
「おばあさまのお友達が来て、お母さんがわたしはかくれんぼしててって言って、かくれてたけどわたしはやめてって言いたかったのに、怖くて言えなくて、お母さんが居なくなっちゃったの」
「……………………?」
つらつらとココアの缶を握りしめながらアンは語り始めるが、要領を得られず頭に疑問符が浮かぶ。