二人の男女が見つめ合う。
片方は想いをぶつけ、もう片方は想いをぶつけられていた。
案の定と言うかなんと言うか、二人の周辺にいた奴らはキャーキャー騒ぎ、競技そっちのけで公開告白みたいな雰囲気になってた。
けれど、悪くない。
全部、何もかも、ここまでは俺が望んだとおりの展開だ。
進藤と真中。
奴らの関係をぶち壊すには、こいつらを公開告白にまで持って行かせるしかなかった。
こういう状況に持ち込むには、いったいどうすればいいのかと考えてた結果が、イベント執行委員への参加につながったのだ。
亜月さんはもちろんのこと、協力してくれた上利先輩、それから協力してくれるであろう松本先輩には感謝しかない。
俺は一人、盛り上がる分団テントを放送席から眺めながら、笑みを浮かべた。
恐らく、これで終わる。あいつらの中途半端な関係が。新藤の理想でしかない甘い人間関係が。真中の勘違いが。
「ちょっとあんた! 何なのあれ!? 競技中なのよ!? マイク持ってるんだし、声でも出して注意喚起しなさいよ! 競技がストップしちゃってるじゃない!」
ニヤけてると、うしろから女の怒号が飛んでくる。
中央委員会所属の女子だった。
要するに、この体育祭のトップ。
彼女的には、ああいうことが起こると面白くなくなるんだろう。
リア充への憎しみか、と思うのは短絡的だとして、実際問題競技がストップし、真中と同じレーンで走ってた人たちも走るのを中断し、手を止めて二人の行く末を見守っていた。
「おぉぉぉぉぉぉ!?」とか、「うぉぉぉぉぉぉぉ! 真中さん告ったぁぁぁぁぁ!」とか、好き勝手の煽り文句が飛び交ってる。
余計に進藤は真中へ応えづらそうにしていた。珍しくどこか挙動不審になってる。動揺がわかりやすく顔に現れてた。
「えぇぇぇぇ!? 珍しくない!? 進藤くんがキョドってんじゃん!」
「やっぱ真中さんが告ったから? 告ったからなのかな!? さすがじゃない!?」
まあ、真中が告白したからってのは合ってる。
けど、周囲の連中も本当におめでたい奴らだ。
進藤のあの動揺は、告白されたところを周りに見られてたからとか、そういう次元の話じゃない。
そうじゃなくて、今のあいつの胸中で渦巻いてるのは、恐らくどうやってここを穏便に済ませるか(要は真中の告白を躱すか)だと思うのだ。
たぶん、俺のこの推測は間違ってないはず。
そもそも、進藤にとって一番つらいのは、真中から好意の有無を迫られることなのだ。
了承して付き合えば、
そりゃもちろん溢れんばかりの陽キャパワーでどうにかするのかもしれない。
けど、それはかなりどでかいしこりを残す可能性がある。
とにかく、ほぼ確実に前と同じような関係を続けるのは難しくなる。俺でさえそう思うんだから。
自分の思いを殺すか、真中の想いを殺すか。実に見ものだった。
「別に、何もしないってわけじゃないですよ」
俺は難癖を付けて来た中央委員の女子へぶっきらぼうに応える。
「何もしないのにここへ来る理由なんて一つも無いですしね。放送とか、普段なら俺死ぬほど嫌いだし。緊張するから」
「だったらどきなさいよもう!」
俺はわざとらしくため息をついてやった。
「だから、俺の出番はここからなんだって。心配ご無用。すぐに放送しますから」
言って、マイクのスイッチをオンにする俺。
怒りの表情でいる彼女をサラッと流し、声を吹き当てた。
『借り物リレーも予想外の展開を迎えてしまいました。好きな人に二年生の進藤くんを選んだ真中さん。真中さんからほとんど告白をされてしまったも同然、進藤くん。さぁ、二人の選択はどうなる!?』
どこぞのMCみたいにテンションを強引に上げ、表面上だけでマイクを使って喋り始める俺。
その声に、悪い意味でグラウンドは騒然となった。
「おい、今の声ってさ」
「うわ、暗田じゃん。性犯罪者」
「よりにもよって真中さんが告白してる時に出しゃばるとか、未だに狙ってるってことなんじゃね?」
「キモいよな。もしかして進藤に対する嫉妬?w 俺の里佳子が取られるーみたいな」
「ギャハハw それヤバすぎ! でもあり得ん話じゃなさそうなのが怖いよなー」
「おい性犯罪者ぁ! 進藤に嫉妬してんじゃねぇよ!wwwww」
「ほんとほんとー! マジキモーい!」
好き勝手にでかい声で煽って来るバカどもをシカトし、だったらば、と俺は隠しに隠してた秘密兵器を投入することにした。
まずは初動攻撃からだ。
『引いた札は絶対ですよ! 進藤くん、真中さんの要求に対するイエスノーを答えてあげてください! でないと失格になりますよ! 分団にマイナス100点!』
「は!? 100!?」
「お、おい、聞いてねーぞ!?」
「答えろ、進藤! お前ならもう一択しかないだろ!? ずっと真中さんと一緒なんだし!」
さらに周りに煽り立てられ、すぐにでも進藤は答えざるを得ない状況になる。
『さっさとしてくださいね、進藤くん。人には偉そうに裏で攻撃するくせに、自分が表でこういう状況になったらだんまり決め込むんですか?』
「「「――!?」」」
唐突な俺の煽りに、グラウンド内は一瞬シンと静まり返った。
どうも、俺の口撃がよっぽど驚きだったらしい。
だったら、もっと驚きの燃料を投げ込んでやる。
『まあでも、すぐに答えられないのは仕方ないですよね(笑) なんたって、進藤くんが本当に好きな人は…………亜月さんですもんね』
「「「「「――はぁ!?」」」」」
さっきよりも驚きの声がでかい有象無象のみなさん。
俺の口撃はよっぽど効果アリみたいだった。