進藤と大平の二人に詰められ、殴られたりした翌日。イベント執行委員の会議にて。
立てている作戦の決行において、最も重要なポジションである借り物リレーの進行係に、俺は任命された。
こっちとしては、この役割に就くことができて一安心というレベルの話だ。
が、総合的に見てみれば、借り物リレーの進行係というのは、まるで魅力的に映らない役回りらしい。
俺考案というのも影響してるのかもしれないけど、立候補者は最初、俺を除けば亜月さんだけで、他の競技進行係にほとんど集中していた。
まあ、別に何なら俺と亜月さんのでもいいんだがな。
そうは思ったものの、さすがにそれだと厳しいのも現実。
最終的には、じゃんけんに負けてやってきた三人と手を組み、合計五人でやっていくこととなった。
で、とりあえずその日は特に具体的なことも決めず、適当に競技の流れだけを確認し、お開き。
解散となった後、亜月さんが俺のところにやって来て、「昨日はどうだった?」とか聞いて来たけど、適当にはぐらかし、今日もやることがあるからと、彼女を先に帰らせる。
進藤に接近した次は、真中だ。真中里佳子。
もちろん、俺が真中に近付いてることを周囲の誰かに知られると、途端に穏やかじゃない雰囲気を感じ取られるはず。
だから、進藤の時同様、いや、進藤の時以上に神経を使って、真中の誘導を行った。
奴を呼び出す方法。それは、名無しのラブレターもどきを送り付け、指定した場所に来させることだ。
これくらいしないと奴は俺の考えたところに来ないだろうし、そもそも俺からの招集に見向きもしない。
恋愛脳の奴には、恋愛的方法で接近するってところか。
って言っても、奴は奴で、恋に恋してるってよりかは、本当に進藤のことを好いてるっぽいんだけどな。
それを思うたび、進藤のあのセリフが俺の中でよみがえってくる。
――『里佳子は俺に絶対告白してこない』
バカが。
それを言うなら、『告白してこないよう、手を回した』って言うのが正解だろうが。
奴が何かを真中に言ったのは明白だ。
そうじゃなきゃ、今頃もう、俺が策を施さずとも、真中の奴は進藤に告白してるはず。
本当、端から端までドス黒い連中だ。
表向きの平和を保つためだったら、何でもやる感じ。心の底から気に食わない。
そのせいで、俺もこんな立場にさせられたんだしな。
同情は無い。あるのは、目的の遂行のみだ。
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「よう。久しぶりだな。こうして二人きりになるのは、お前が俺に冤罪を吹っ掛けてきた時以来か?」
目の前で俺を睨み付けている真中に向かって言う。
場所は、こじんまりとした視聴覚室の物置。
ここに真中を呼び寄せ、奴が入室した瞬間に俺も入り、速攻で鍵を閉めてやった。もう、出ることはできない。
「っ……! マジ、意味わかんない……! あんた、マジキモいんですけど……! 何考えてんの……!?」
お前たちに一泡吹かせるための作戦だろうか。
そう答えそうになるも、それを抑え、俺は「別に。特に何も考えては無い」としておく。
「余計な問答をするつもりはないよ。暴力的な危害を加えるつもりもない。お前も、言うまでも無く俺と一緒の空間にいるのは嫌だろ?」
「嫌に決まってんじゃん! キモッ! キモキモキモキモッ! あんな手紙送り付けてアタシをここに呼び寄せやがって! ほんっと死ね! また言いふらしてやるよ! お前の変態行動!」
「変態行動なんてなんもしてねーっつの。またお得意の冤罪工作か? お前も飽きねーな」
ため息交じりに言ってやるのだが、真中は殺意のこもった瞳を緩めることはない。
そんなに眉間にしわ寄せてると、そのうちそのしわが常態化して、目つきの悪い顔になってしまうぞ、と忠告しそうになる。
ただまあ、無駄口はNGだ。
本来なら、俺だってこいつと同じ空間にいるのは、一秒だって耐えられない。
なるべく早めに、言いたいことだけ言ってから、返してやる。
「面倒だから、とりあえず俺の話聞け。そしたら、すぐにここから出してやるから」
「うっさい! 今出せ! 出さないとアンタ、完全に身の滅ぶようなこと、みんなに言いつけてやるんだから!」
「そういうの、もう止めといた方がいい。俺もバカじゃないからな。今回ばかりは、音声レコーダーを使わせてもらってる。さっきからお前の叫び声はバッチリ録音してあるから、もし何かをお前が言いふらしたとしても、俺は無実を証明できる。恥をかくだけだ」
「なっ……! っ~……!」
悔しそうに歯ぎしりして、俺を睨む真中。
だから、こういうやり取りこそ無駄なんだって。
もう、強引に本題へ入ることにする。
「お前、同じ友人グループにいる進藤歩のことが好きなんだよな?」
「……!? は、はぁ……!?」
打って変わって、動揺の色を顔に灯す真中。
わかりやすい奴だ。
「いきなり何キモイこと言ってんの? そんな訳――」
「いや、いい。そういうのはいいから。知ってるんだ、俺。お前が進藤のこと好きだって」
「っ……!」
諦めろ、とばかりに言ってやると、さすがに真中でも静かになった。
「……いきなり、本当に何のつもり? まさか、その事実とやらでアタシのことを脅そうとでも?」
「まあ、それもいいけどな。俺、お前のことさすがに許せないし」
でも、そうじゃない。
そんなことで、今の俺は前に進めない。
「とりあえず、話はお前らだ。告白とか、進藤にはしないのか? 付き合いたいなら、告白でもしないと前には進めないと思うが」
「そ、そんなの、アンタに言われなくたって考えてるし! 余計なお世話だっての!」
「けど、できないんだろお前?」
「――っ!」
どうして知ってるのか、とでも言いたげ表情が一瞬出た。
が、すぐにそれは消え、敵意満々な顔つきに戻ったのだが、俺はそれを見逃さない。
「進藤に何か言われたからってのも当たりだろ? お前は、進藤に告白するのをけん制されてる。……そうだな。それはさしずめ、グループ内の平和を保つためだとか」
「て、適当言ってんじゃないよ! わかったような口ぶり、ウザ過ぎでしょ! アンタ、今自分の顔鏡で見てみたら、超勝ち誇ったような顔しててほんとキモイから!」
「はいはい。で、どうなんだよ? 告白できてないのは、進藤にけん制されてるからなんだろ?」
「……答える義理なんてないし」
「何やられても、か?」
言うと、真中は自分の体を守るように体をすくめ、俺への敵意の視線を強める。
「冗談だ。言っただろ? そういうことはしないって。何もしない」
「指一本でも触れてみろ。またみんなに言いふらすからな……!」
こいつはレコーダーあるってこと、もう忘れたのか? まあ別に何でもいいけど。
「なら、わかった。お前は俺になんと言われようが、その質問に答える気はないんだな?」
「そんなの、言うまでもないし!」
「オーケー。じゃあ、俺から送る言葉はこれだけだ」
「……は?」
「体育祭本番、進藤に告白させてやる」
「………………え?」
「何を言われてようが関係ない。お前はとにかく借り物リレーに参加しろ。それだけでいい。そうすれば、あとは俺が色々手回しして、お前が遠慮せずに進藤へ告白できる環境を整えといてやる」
「……な、何を……」
「いいな? 借り物リレーだ。これに参加しろ。絶対にな」
言うと、真中は目を丸くさせ、驚いた表情を作っていた。
裏で俺が何かを目論んでいるのではないか、そんな考えを一切持たず、ただただ純粋に、俺を信じ切ったような目で。