「あれ……? 陽菜は?」
真中たちのいるところに戻るなり、席に座ることなく、軽く動揺した様子でグループメンバーに問いかける進藤。
俺も俺で、同じような質問を奴らにしたかった。
戻ったはいいものの、なぜかそこには亜月さんの姿が無くなってる。
何があったんだ……?
「あ、歩……。その……なんていうか……、な?」
「は? 『な?』じゃわかんないって。何だ、何があった?」
普段は冷静でツッコミ役の大平も上手く答えられないのか、進藤の質問にグループ内で唯一反応してくれたのはいいものの、そこから先の追及に対しては気まずい感じで無言を貫くばかりだった。
大平の視線は右へ、左へ、とゆっくり動き、やがて自らの足元あたりへ向けられ、そこで止まった。口元にはなんとも言い難い苦笑だけが浮かんでいる。表情全体から、『自分には答えられない』というセリフが聞こえてくるようだった。
「……なあ、里佳子たちもなんで黙ってる? 陽菜は? 陽菜はどこに行ったんだよ? 答えろって」
「「「………………」」」
「おい、ちょっといい加減にしてくれ。無視かよ? 里佳子、茜、美鈴!」
必死に名前まで呼び、事のあらましに対する説明を求める進藤。
が、光田と崎岡は互いに目を合わせ、おずおずと真中の方を見るばかり。
発言権は真中にある。真中以外は答えられない。答えちゃいけない。
そんな雰囲気がビンビン伝わってくる。
というか、見方を変えれば、これは亜月さんがいなくなったのは真中のせいで、すべてを話すことができるのは真中しかいないから、二人共奴の方を見やったという筋も考えられる。
そして、俺のその予想は当たっているようだった。
「……っかり」
「……? なんて? 今、里佳子なんて言った? 聞こえないんだけど?」
重苦しく、真中が一人口を開いたのだ。
自ら自首しに来た、犯罪者のように。
「陽菜ばっかりって言ったの! 歩、いっつも口を開けば陽菜、陽菜、陽菜だし!」
「り、里佳子! お前――」
「今あんたは関係ないから黙れ!」
突然爆発する真中に佐藤が止めに入るものの、それはまったく意味を成さないようだった。
奴は一喝され、すぐさまシュンとなる。
そして、周囲に人がいようと、関係なく真中は続けた。
「ねぇ、そうじゃん歩! 歩、いっつも陽菜のことばっかり! なんで? なんでなの? 他の女子じゃダメなの? 何がダメって言うの? やっぱり顔? 顔がすべてなの? 答えてよ!」
「……ちょっと待て。なんでいきなりそんな話になる? 急に陽菜ばっかりとか言われても俺はピンとこないし、このグループ内で好感度に差を付けるつもりは無い。里佳子の勘違いだよ。錯覚だ」
「そんなことない! そんなことないの!」
叫び、真中はその後テーブルの上に突っ伏し、泣き崩れてしまった。
けれど、ここまでしてるのに、この女の口から進藤に対する好意を帯びた直接的な言葉は、一つとして出なかった。
その理由が俺にはまだわからない。いや、『まだ』という表現を使ったが、永遠にわからないかもしれない。
結局、俺は真中が泣いてしまったところで家へ帰された。亜月さんがいなくなった理由はわからずじまい。
帰ってくれ。いや、帰っていい。ここにいるのは君自身も辛いだろ。
そう言ってくれたのは大平だ。
ありがたかった。
俺はすぐさまファミレスを飛び出し、亜月さんを探した。
外は晴天だったところから、曇天へ変わっており、ぽつりぽつりと小さな雨粒を世に落としていた。