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冤罪で変態扱いされ学校一の嫌われ者になった俺、なぜか学校一の高嶺の花にだけ懐かれる
せせら木
現実世界ラブコメ
2024年08月18日
公開日
128,061文字
完結
高校二年生の陰キャ男子・暗田送助はある日の朝、通学のための満員電車に乗っていた際、クラスメイトのトップカースト女子に痴漢冤罪を吹っ掛けられる。
遊びなのか、それとも別の理由があるのか。訳も分からないまま、言い訳もできず、暗田が痴漢をしたという噂は全校に出回り、同じ高校の生徒全員から気持ち悪がられ、嫌われてしまうハメに。
元々、クラスでも空気のような扱いだったが、それが敵意のようなものに変わり、真剣に自殺を考え始める暗田。
しかし、そんな折、暗田の元に校内で高嶺の花扱いされてる女子・亜月陽菜が近寄ってきて――

「私を……変態にして欲しいの……」
「いやいや、誤解ですから。変態伝道師じゃないですから俺」

イチャイチャ&甘々&ざまぁの爽快青春ストーリー、ここに開幕!

第1話 事件と高嶺の花

 事件が起こったその瞬間のことを、俺――暗田送助あんだそうすけは今でも鮮明に覚えている。


 曇り空で、今から雨が降るんじゃないかと思わせてくれるような、微妙な天候の朝だ。


 俺はその日、いつも通り通学のため、サラリーマンや同じ歳くらいの制服を着た学生に紛れて電車に乗り込んだ。


 座れるような席は当然ながら無い。


 それどころか、立っているスペースすらも怪しく、乗り込んだのはいいものの、後から入ってくる人たちにさらに押され、ぎゅうぎゅうになりながらの乗車だった。


 疲れはするが、これ自体はいつものことだ。慣れっこだし、今さら特に強い不快感を憶えたりするようなことはない。


むしろ、学校に着けばぼっちで周りに人がいない分、これは神が俺に与えた反動的圧迫。『お前、さすがに今から人肌恋しい時間過ごすだろうし、お情けくれてやるよ。はい、人肌』なんて感じで適当にくれた時間だろうと思えば、不思議と過ごせたのだ。孤独とは悲しいものである。満員電車さえも不快なものにさせなくなるほどとは。


 なんてことをこの時までは呑気に考えていた。


 まさか次の瞬間、俺の寂しくむなしい高校生活が、行きたくなくなるほどの絶望的な高校生活に変わることなど、想像もしていなかったのだ。


 それは突然に上げられた一声からだった。


「きゃぁぁぁっ!」


「「「「「――!?」」」」」


 俺の視界に入らない後方、しかし割と近いすぐ傍辺りで女の悲鳴が聞こえた。


 何の脈絡もない叫び声に、俺だけではなく、辺りでぎゅうぎゅうになっていたサラリーマンやOLたちもびっくりした様子だ。まさに何事か、という反応。


 俺も俺で振り返ることのできないジレンマを抱えながら、「何が起こった!?」と思っていた矢先だった。


「へ……!?」


 背後から何者かに手首を掴まれ、それを強引に上の方へと上げられる。そして――


「この人、痴漢です! さっきから私のお尻触ったり、股間を擦りつけてきたりしてきたんです!」


「は、はぁっ!? って、っっっ!」


 ぎゅうぎゅうで動けないとか、そんなのはもう関係ない。


 手首を掴まれ、いきなり恐ろしいことを叫ばれた。


 そこまでされれば、周りの人に多少迷惑が掛かろうが、強引に体を180度回し、背後の方を見やる。


 すると、そこに立っていたのは俺の知っている顔だった。


「お、お前……ま、真中……!?」


「……き、キモイっ! なんで私の名前知ってるんですか! た、助けてください! この人にさっきからずっと痴漢されてたんです!」


 俺に怯えたような目をくれた後、すぐ横にいた厳ついスーツ姿の男へ助けを求める真中里佳子まなかりかこ


 彼女は俺のクラスメイトだ。


 クラスのトップカーストの座に君臨しているいわゆる陽キャ女子で、俺とは接点もまるでない女子。


 そんな奴がいきなり痴漢冤罪を吹っ掛けてきた。


 訳が分からない。


 あまりの超展開に頭が真っ白になりかけてはいたものの、ここで黙っていれば事態はますます悪くなるなんてことは本能的にわかっていた。


 俺はすぐさまざわつき始める周囲の人々へ主張するよう声を上げた。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! 俺は痴漢なんてしてない! 両手でバッグを持ってたし、何よりも彼女の前に立ってたんだ! 下半身を触ったりなんてできるはずがない!」


「でも、この人が一番近くにいたんです! 電車が発車する時から気持ち悪い目線でこっち見てきてましたし、私、ちゃんとこの目で見ました! この人が触ってきてるところ!」


「嘘つくなよ! 真っ赤な嘘だろ、それは! 何が目的なんだよ! 同じクラスメイトの俺をハメて何が目的なんだ! 接点もまるでないのに!」


「今そんなのはどうでもいいです! とにかく、私、怖くて……怖くて……うぅぅ」


「泣きたいのはこっちだっつの! なんで俺がこんな――」


 言いかけていたところで、真中が声を掛けていた厳ついスーツ姿の男は厳しい視線で俺を睨んできながら、俺の肩に手を置いてきた。


「とりあえず、次の駅で降りよう。詳しいことはそこで駅員さんと話すんだ」


「話すことなんて何もないですよ! 俺が言ったことはすべて本当で、今言った通りなんだ! どう考えても冤罪なんですよ、これは!」


 叫ぶものの、もう周囲の目は完全に俺が痴漢をした奴だとレッテルを貼ってるような感じだった。


 冷え冷えした目でこちらを見つめ、やがて朝から気持ち悪いものを見たとでも言いたげにため息をつく者や、興味なさげにまたスマホへ視線を落とす者。そしてこちらを見つめてひそひそ陰口を叩く者。


 冷や汗が流れ、体温が急激に下がっていく感覚。


 頭の中では、『人生終了』の四文字がちらつき始める。


 結局、俺はその後スーツ姿の男の言った通り、次の駅で真中と三人で降車し、駅員へ事情を話すことになった。


 そして、必死に事情を話すものの、それはすべてが徒労に終わる。


 信じてもらえていたのは真中のくだらない嘘八百な主張ばかりで、俺の主張は何一つ信じてもらえなかった。


「君は今、高校生だからね。警察に言うようなことはしないけれど、親御さんと学校の方には連絡させてもらうよ。こういうのは癖になって続けることが多いんだ。今後は絶対にやらないようにね。いいね?」


 バカかと思った。


 偉そうに嘘を信じ込む駅員と、一瞬だったが、俺が詰められている様子を眺めながら笑みを浮かべて見せる真中里佳子。


 真実は奴の抱いてる謎の企みと、その笑みにしか存在しないのに。何が『いいね?』だ。


 殴りつけてやりたい気持ちになり、拳を握り締めるが、実際に殴るようなことができるはずもなく、俺は下を向き、歯を食いしばったまま「はい」と返事するしかなかった。



●〇●〇●〇●〇



 以降、俺の生活はより一層厳しいものになった。


『二年C組に属する陰キャラぼっちの暗田送助が、あの真中里佳子に電車内で痴漢した』


 この情報は瞬く間に全校に知れ渡り、それまではただのぼっち陰キャラとして空気扱いしてた連中が、こぞって俺に敵意と嫌悪を隠すこともなく罵倒してきたし、からかってきた。


 そりゃそうもなる。


 元々、真中はクラスを飛び出して、他クラスだけではなく、他学年にも先輩後輩問わず仲のいい奴が多い。


 真中は完全に犯された悲劇のヒロインで、俺は極悪の変態加害者という認識だ。攻撃対象になって当然だろう。


 加えて、教師一同からも俺は説教を食らった。


 進路に影響するだの、君の将来が心配だ、など色々言われたが、その中でも一番キツかったのは、美術の女教師で、生徒間ではアイドル扱いされてる美人な香牧こうまき先生から、すれ違いざまに小声で「気持ち悪い変態」と言われたことだろう。


 親にも死ぬほど怒られた。


 俺は何もしていない。


 訳が分からない企みによって騙されたようなものだ。


 何か証明できる術があるなら、すべてを証明してやりたかった。


 ただ、日に日にそんな思いも薄れていく。


 どんな主義主張をしようと、元からあった真中とのカースト差も手伝い、すべてがうやむやにされてしまう。


 どこかで冤罪を掛けられた者が激しく長い時間の問い詰めによって、ここから解放されたいという思いから、自分の罪を認めてしまうというのを聞いたことがあるが、まさにアレだった。


 もう何を言っても無駄。


 だから、俺は何も言わず、ただ全校の奴らから物理的にも、精神的にも攻撃を受け続けたのだ。


 死のうかと思ったことだって一回どころじゃない。


 死ぬことこそが真中への復讐にもなると思っていたが、感情のネジが外れたからか、憎いという思いさえ消えかけていた。


 そんなある日だ。


 放課後、俺は図書室に足を運んだ。


【嫌われてもいいと思える勇気】という本を読むためだ。


 学校にいても、家に帰ったって、皆が俺を変態性犯罪者扱いしてくる。


 だったらもう、そういう扱いをされても大丈夫なメンタリティを身に付ければいいだけの話。


 単純な理由だった。


 ――が、まずはここでも精神攻撃を食らう。


 扉を開け、図書室に入った瞬間、受付をしていた図書委員の地味目な女の子から怯えられ、そそくさと逃げられてしまった。


 まるで化け物扱いである。ため息が出てしまう。


 まあ、そんなことはいい。歩みを進め、目的の本を見つけに行く。


 確か、奥の方の本棚に入っていたはずだ。


「ここだな」


 見つけた。


 本棚の最上段。そこに件の書籍は並べられてあった。


 少し背伸びをし、手に取ろうと――


「ねぇ、ちょっといいかな」


 したところで、誰かから声を掛けられた。


「え……!?」


 そこにいたのは、学校一の高嶺の花とされている美少女だった。


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