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第34話 生徒会室での会話

「えーっと? 生徒会室に何か用? 提出物とか、伝言とかがある感じかな?」


「あ……え……い、いや……その……」


 ま、まま、マジか……!


 心の準備が一切整ってない状態で生徒会長様とご対面。


 会話デッキも一応考えておいたけど、唐突に話しかけられたせいでほとんどが頭の中から霧散していってしまった。


 どうにか……、どうにか会話を成立させないと……!


「ちょ、ちょっと言いたいことがあって……」


「ん? ごめん、なんて言った?」


「あっ、え、えと、ちょっと生徒会長さんにお話がありまして、やって参りました!」


 この陰キャ感溢れる対応はどうにかならないものか……。


 生徒会長は、いつも全校集会とかで見てるような爽やかな表情で俺を眺めてくれてるけど、きっと心の中では『うわぁ……(笑) この子、陰キャラ感あるなぁ(笑)』とか思ってそうだ。


 ぐぅぅっ……! 恥ずかしい……! けど、もう仕方ないよ! これが俺なんだから!


「俺に話? それで来てくれたんだ?」


「は、はい……。す、すいません。忙しいかもなのに、アポ無しで……」


 俺が言うと、生徒会長は「いやいや」と手を横に振って否定してくれる。


「それは構わんよ。確かに総会直前で暇とは言い難いけど、誰かと会話できないほどとか、そこまでのレベルじゃない」


「ほ、ほんとですか……?」


「ああとも。しかも、君は見たところ二年生だよね? 後輩くんがわざわざ俺に話をしようと来てくれたのに、それを追い返すような真似はしないさ。全然大丈夫」


 言いながら、にこやかに微笑んでくれる。


 なんてイケメンなんだ。


 こりゃこの人、女子にもさぞかしモテるんだろうなぁ……。


 もう、俺からしたら天界人みたいな感じだよ。拝まなくていいんだろうか、これ。


「じゃ、こんなところで話し込むのもなんだし、中に入ろうか。幸い、今は誰もいないしね」


「す、すいません。失礼します」


「ははっ。そうかしこまらないでくれ。気楽にでいいよ、気楽にで」


 言われて、俺は生徒会長と一緒に部屋の中へ入る。


 生徒会室内は森閑としていて、本当に誰もいなかった。


 飾られている賞状やトロフィーなどがあって、それがどこか部屋の中の雰囲気を堅苦しいものにしてるけど、先導するように前を歩いてる生徒会長は気にすることなく前進し、格式高そうな椅子に座った。


 俺はソファへ腰掛けるよう言われる。


 おずおずと座り込んだ。


「さてさて。では、話とやらを聞こうか。いったいどんなことかな?」


「あ、はい……」


 よ、よし……。一時はどうなることかと思ったけど、とりあえず会話できる状況には持ち込むことができた。


 ここからは、順を追って本題へ入っていくとしよう。


 あくまでも慎重に。この人の機嫌を損ねず。


「その……俺今、総会の設営係をしてるんです。当日とかも、色々準備が大変と言えば大変で……」


「あぁ~、そうだったんだ。うんうん。聞いてる聞いてる。割と力作業とかあるし、去年も設営係は大変だったって聞いてるよ。お疲れ様だ」


「はい。……それで、俺が話したいことなんですけど、当日は放送係にもいくつか作業しに行かないといけなくて、その請負を誰がしてくれるのか、イマイチわかってないとところがあるんです」


「……ふむ」


「申し訳ないんですけど、放送係に誰がいるのか教えて頂けないかな、と思いまして……」


 俺が言うと、生徒会長は「ん……?」と眉をひそめた。


 いきなりブッコみ過ぎただろうか……?


「そういうの、設営係内で言われたりしなかったんだ?」


「は、はい。特に何も言われてなくて……」


「あれぇ? そうだったの? おかしいなぁ」


 そりゃそうだ。


第一、 そんなもの仕事として任されてないんだから。


 あくまでも、俺たち設営係は会場内の準備をするだけで、それ以外の放送係なんてところまで手を伸ばしたりしない。


 放送係は放送係で、勝手に各々準備したりしないといけない。


 でも、そんな細かいところまで、生徒会長なんかが知ってるはずないのだ。


 設営係と放送係が連携してるとかしてないとか、知る由もない。


 だから、この人はただ俺に放送係のメンバーを教えてくれるだけでいい。


 そうすれば、会話としてはまるで不自然なところなく終わることができる。


 どうだ。上手いだろう。これでさりげなく放送係のメンツがわかるぞ。


「うん。わかったよ。そういうことなら教えてあげよう。それくらい安いもんだ」


「……! あ、ありがとうございます……!」


 ほら、見たことか。作戦成こ――


「でもさ、一ついいかい?」


「へ……!? あ、何でしょう?」


「放送係に誰がいるのかって、君それは誰かに聞いてくるよう頼まれたんじゃないかい?」


 ゾッと背筋に寒気が走った。


 気のせいかもしれないが、急に生徒会長の目の色が変わった気がしたのだ。


「……そ、そんなことは……」


 とっさに目を逸らしてしまう。


 逸らした瞬間に思ったが、バカなことをした。


 そんなことをすれば、なんか後ろめたい思いを隠そうとしてるのバレバレじゃないか。


 現に生徒会長はジッとこちらを見つめ、「ふーん」と意味深に頷いてるし……!


「……ま、いいや。よくよく考えてみれば、その程度のことで何か企むとか、普通あり得ないしね。考え過ぎか」


 言って、「はは」と笑う生徒会長。


「俺はこの会をイイものにしようと思ってるんだ。君も君で、当日設営係としてしっかり動けるように、と俺に放送係のことを聞いて来てくれたんだもんな。了解だ」


「は、はい……」


「係のメンバーは、田中くん、里井くん、畑山くん、そして欅宮さんの四名だ。全員、君と同じ二年生だね」


 なるほど。やっぱりだ。


 大方メンツは納得。俺のクラスメイトの人たちと、仲のいい畑山くん。


 彼らが欅宮さんを襲おうとしてるみたい。


「他に何か質問はあるかい? あるんなら、俺は全然聞くけど?」


「あ…………」


 ここで「無い」とも答えられたのかもしれない。


 けど、俺は不自然に思われないように、と変に気回ししてしまう。


「じゃ、じゃあ、色々聞いてもいいですか?」


「おぉ、聞きたいことあるんだ。全然構わんよー」


 生徒会長はどこか嬉しそうに、俺を受け入れてくれた。


 その後、かれこれ一時間ほど話してただろうか。


 結局、生徒会室を出たのは、外が暗くなり始めるような、そんな時間帯だった。


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