「~~~♪ ~~~~♪」
「………………」
「~~~~~~~~♪ ~~~~~~~~~♪」
「………………」
「~~~~~~~~~~~~~~♪」
「………………」
「ふぅ。…………む? ほら、拍手はどうした? 私は歌い終わったぞ。何なら、次は君が曲を入れろ」
「いや、入れませんよ……」
「どうしてだ? カラオケに来たら歌を歌う。これが鉄則であり、普通のことだろう?」
「……あのですね……」
「仕方ない。君が歌わないのなら、代わりに私が歌おう。お次は――」
「いやいやいやいや、ちょっと待って茶谷さん。ストップ。話してくださいって。生徒総会の放送委員のこと。そのために俺たち、今日こうして集まってんですから」
俺が言うと、茶谷さんはムスッとした顔でこっちを見つめてくる。なんか間違ったこと言いましたかね……?
「え……。もう、か?」
「もう、ですよ。時間なんてあっという間に過ぎますし。俺、それが早く聞きたくて仕方ないんです。話し合いしましょうって」
「話し合い、ねぇ。話し合いなんてできないとは思うんだがな」
「へ?」
俺が疑問符を浮かべてるのを見て、茶谷さんはマイクをテーブルの上に置き、立っていたところから、椅子へと腰掛けた。
「だって考えてみてくれ。正直なところ、私は状況解決の一手を持ち合わせてるわけじゃない。あくまでも、持っているのは少ない状況説明の情報のみだし、だったら、それを話すためにこんなデートの初っ端から飛ばさなくてもいいと思うのだよ」
「……はぁ……」
でも、俺は色々気になってるんですが……。
「ただ、それは決してケヤちゃんを助けたくないとか、助けたいという気持ちが弱いというわけではない。言いたいのは、今するべきは私と君の仲を深めるべきだってことなんだ。私たちはまだ会話して間もない。だから、連携をスムーズに行うためにも、こういった遊びが必要なのだよ」
「……でも、連携が必要だからって、カラオケで何歌う人なのか、とか知らなきゃいけないってことありますかね?」
「それはわからない。いざという時に役立つ情報になるかもしれない」
「……うーん」
とてもそうは思えない。
みたいな表情で俺がジト目を向けると、茶谷さんはため息をついて呆れ顔。
「まったく。そういうところだぞ、君の悪いところは。金曜日、わざわざ家の前まで送ってくれたから、心優しい奴だと思ったのだがな。ウィークポイントだ」
「ウィークポイントて」
言うと、俺の方を対面してるところから指差してくる茶谷さん。
「何にでも言えることだ。目先の利益だけに縛られてはダメ。一見して利益が無いと思われることでも、自分に降りかかった物事は、何でも役に立つ時が来るかもしれない、と。そう考えるべきだな」
「……そのために、茶谷さんの歌唱力を知る必要がある、と……?」
「やれやれ。何もわかっちゃいないみたいだな」
言って、茶谷さんはマイクを手にし、ピコピコと曲のセッティングを開始。また歌うのか……。
「私の知ってることくらい、すぐに教えてやるから。まずは聴け。私の【ヘビーローテーション】を」
「……へぇへぇ」
俺、ほんと何しに来たんだろ……。
若干今日こうして出掛けたことを後悔しつつも、お世辞にも上手いとは言えない茶谷さんの歌を聞く俺だった。
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その後、互いにカラオケで歌を歌うこと二時間ほど経って――
「ふぅ。そろそろだな。では、話すとするか。私の知ってることについて」
ようやく、本題へ入ることができそう。
持ってきてたドリンクで喉を潤し、軽く咳払いをして、彼女は語り出してくれた。
「放送委員に唯一立候補しているケヤちゃんが、私たちと同じ二年の男子に襲われそうになってる。これは前に言った通りだ。覚えているな?」
問われ、俺は頷く。
「そして、残念ながら私が知っているのは、その男子共が二年生であるということだけで、名前を聞き出そうにも、生徒会長がそのことについて喋ってくれず、名前がわからない。これも言ったよな?」
「言いました。その生徒会長が怪しい。そう俺自身思いました」
「うむ。萩尾会長はとてもそういうことに手を貸すタイプではないのだがな。どうも、放送委員に立候補してる男共の名前を伏せる理由がわからない。知らない、ということはあり得ないだろうし」
「表と裏の顔ってのはどうしたってありますからね。あの生徒会長だって温厚そうですけど、結局のところ男なんで」
「……男は皆獣。大きいおっぱいにしか興味なし、か……」
「い、いや、全員が全員そう言うわけではないと思いますけどね!? 小さくても、その人のことが好きになれば全然魅力的に映ると思いますし……。落ち込む必要はないと思いますよ、うん!」
「そうか。ただ、君がそうやって貧乳を肯定する時、どこか私を励ましてる風に見えるのだが、これは錯覚か? 錯覚じゃないのだとしたら、今すぐ処分対象に加えるが」
「そ、そんなわけないですよ! なんで慎ましやかな胸を肯定するのに、茶谷さんを励ます必要があるんですか! ひ、必要ないですよ、そんなの!」
「それならいいのだがな」
けん制するような瞳に睨まれ、俺は思わず体をすくめてしまった。
言えるわけがない。「そりゃ、茶谷さんが慎ましやかなお胸してるからですよ! ナハハ!」なんて……。
「話を戻そう。個人的に思うこと、なのだがな?」
「は、はい」
「この二年の男子共は、いつもケヤちゃんに注意されたりしてる奴なのではないか、と私は推測付けてるんだ」
「ふむ」
「つまり、ケヤちゃんのクラスメイトという可能性が高い。ケヤちゃんのクラスメイトということは、当然――」
「俺のクラスメイトでもある、と」
「そういうことだ。まあ、現状予測事項であることに間違いはないのだがな」
でも、その推測はあながち間違ってないと思う。
教室内で、欅宮さんに注意されてる男子と言えば、大体すぐに思いつく。
彼らならやりかねない、とも思える。
「どうだ? 心当たりのある人物はいるか?」
茶谷さんからの問いかけに、俺は頷く。
「ただ、これはまだ不確定事項に過ぎないんですよね? 情報として確定してるわけじゃない」
「ああ。けれど、そいつらに絞って話を進めていくのは得策だと思ってる。同時に、その男共と生徒会長とのつながりなども調べておかないといけない」
「ですね。なら、次は会長への接近方法を考えていく感じですか?」
「そうだ。萩尾会長は――」
話はスムーズに、けれども中身のあるようなものとして進んでいった。
ただ、茶谷さんが何度も言っていた通り、確定事項は一つとしてない。
だからこそ、俺たちは力を合わせ、情報を確かなものにしていかないといけないのだな、と強く思えた。
考えてみれば、そうやって一緒に行動するのなら、互いの趣味趣向くらい知っててもいいのかもな。
「茶谷さん」
「む、なんだ?」
「アレだったら、場所変えてもいいですよ? スイートカフェに移動しても全然構わないですし」
言うと、茶谷さんは笑みを浮かべて、
「ようやく私の言いたかったことがわかったか」
「おかげさまで」
その後、俺たちはまた移動する。
今度はケーキ食べ放題のお店に入り、そこで話し合いをするのだった。