「案外高いところまで上がるよね……観覧車って」
「だね。欅宮さん、もしかして怖い?」
「う、ううん! 大丈夫。大丈夫だけど……こんなに高かったかなぁって」
「まあ、外で見るのと、実際に乗って見るのとじゃ、体感的にも違ったものがありそうだよね」
若干怯え気味の欅宮さんを心配しつつ、俺は苦笑する。
わからないことはない。
俺も凄く久しぶりに観覧車に乗ったけど、割とこれ、高いところまで上がるのだ。
幸い俺は高所恐怖症じゃないから、どうにかこうにか耐えてるけど、高所恐怖症の人からしたら、だいぶ怖いと思う。
しかも、まだ一番高いところに到達していないのに、これだ。
今ここで落下でもしたらと考えると……いや、やめとこう。怖くないとか言いながら、そんなこと考えだすとこっちまで怖くなってきた。ダメだ。思考停止。
「とりあえず、下は見ないで。何なら、目隠ししといてもいいと思うし」
言うと、欅宮さんは俺の言った通り、手で目の部分を隠した。
なんかちょっとエロい。
そう思った俺は、たぶん末期だ。お願いだから触れないで欲しい。
「……ねぇ、宇井君?」
「あ、はい。なんでしょう?」
「宇井君は、さ……、私のこと、どう思うかな?」
「…………え?」
ドキッとした。
あまりにもいきなりで、突っ込んだような問いかけだったから。
「え、えっと、変な意味じゃなくてね? 散々、胸のことについて色々言われてる私だけど、ここ最近ずっと一緒に居て、宇井君的にどうなのかなぁって思ったっていうか……」
「……」
「あっ、あああ……や、やっぱり答えづらいよね!? ご、ごめん! 聞かなかったことにして――」
「いや、大丈夫。答えづらくない……こともないけど、答えられないこともない。大丈夫」
「そ……そう……?」
「うん」
驚きはしたが。
「一応、あやふやな回答になるかもだけど、そこは勘弁して欲しい」
「う、うん」
頷く欅宮さんを見て、俺は一息に思っていたことを言った。
色々と言われながらも、自分のスタイルを崩さずに委員長職を全うしてて、尊敬してるってことや、何事においても一生懸命なところがカッコいいこと、あと、俺なんかと一緒に居てくれてありがとうっていうこと。
全部言い終えると、欅宮さんは案の定照れながら、頬を抑えたりしてもにょもにょ何かを呟いてた。
それを見て、言った俺も恥ずかしくなる。完全に自爆だ。
「――っていう感じかな。以上です」
「あ、う、うん……ありがとう……。ありがとう……なんだけど」
「……?」
「……そ、そのっ…………お、女の子としては……どうかな?」
「…………へ?」
「お、女の子として……私は……宇井君から見て…………み、魅力的に……う、映ってますか?」
そんなの、魅力的に決まってるだろうがよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!
そう叫びかけたけど、いったん心の中で深呼吸して落ち着く努力をする俺。
もう、思ったよね。欅宮さん、それわかってて聞いてます? って。
欅宮さんは魅力的だ。
正直に言って、学校中のどの女子よりも。
そりゃ、顔とかで言えば、肩を並べるか、それ以上の女の子ももちろんいはするけど、魅力ってのは何も顔だけとか、何か一つだけ、で決まるわけじゃない。
色々なものをトータルして、俺はその人の魅力が決まると思ってる。
だから、そういうのを全部踏まえたうえで、欅宮さんが一番だと考えてるわけだ。
「……それは……もちろん、はい。魅力的、です」
「む、胸が無くても……かな?」
「あ、当たり前だよ! お、俺はその……む、胸なんてどうでもいいし!」
神様、ごめんなさい。普通に今俺、嘘つきました。
本当は胸も込みで、欅宮さんのことが好きです。
「じゃ、じゃないと、貧乳ヒロインが多いラノベなんて読まないし! 女の子の魅力は胸だけで決まるものでもないし!」
「……そ、そうだよね。宇井君は……そこだけで見ないよね。ごめんね、疑って」
「謝らないで。大丈夫だから」
あぁ、罪悪感。
本当は俺、普通に大きい胸が好きなのに。
「……にしても、その質問の仕方。また誰かに何か言われた? 胸関係で」
「え?」
「こうして聞いてると、誰かから心無い言葉を投げかけられたんじゃないかって思ったりする。大丈夫? 何か言われたりしてない?」
「……」
欅宮さんは黙り込んだ後、「実は」と語り出してくれた。
やっぱりだ。
聞けば、生徒総会の放送委員関係のことで、なぜか女子から嫌味を言われてる、とのこと。
胸がでかいだけのビッチだとか、胸関係での陰口がひどいらしい。それが突然で、どうしてなのかわからない、と。
だとすれば、なるほど、だ。
茶谷さんの言った通り。
連中の魔の手が忍び寄ってる証拠だろう。
さしずめ、裏で放送委員の席を狙ってる男子が居て、その男子のことを好いてたり、とにかく好意的に思ってる女子が、嫉妬心から欅宮さんへ攻撃してるかとか、その辺りな気がする。
恐らく、彼女らはその男子たちと共謀関係にはない。
思いを隠し続けている、健気な片思い女子ってところか? よくはわからんけども。
「なるほど。ありがとう。色々話してくれて」
「ううん、こっちこそごめんね。こんな時なのに、暗い話して」
いや、と俺は首を横に振った。
欅宮さんは悪くない。
悪いのは、どう考えても放送委員の席を狙ってる男子たちだろう。
本当にどうにかしないと。
下手をすれば、欅宮さんの心に深い傷を負わせてしまう。
「ずっと楽しみにしてた日だったのに。今日は……宇井君に…………言うつもりだったのに」
「……言うつもり、だったのに?」
「あ、う、ううん。こっちの話。だ、ダメだね、私。最近、色々ツイてないや。全部空回りっていうか」
「……」
「あ、あはは……! もうこうなったら、せっかくなんだし観覧車からの景色を眺めよ! ……って思ったけど、た、高い~……!」
後ろめたい何かを隠すみたいにして、欅宮さんはその後も気丈に振る舞っていた。
俺はその『何か』が気になってはいたものの、最後までそれを彼女から聞き出すことができなかった。