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第26話 エッッッッッッッッッッ

「いらっしゃい、宇井君。今日はわざわざ私の家まで来てくれて、ありがとうね」


「い、いえいえ、そんな。こちらこそ招いてもらって、ありがとうございます」


 遂にやって来た欅宮家訪問の日。


 俺は朝から心臓をバクバクさせながら、ぎこちない足取りで彼女の家へと辿り着き、今こうしてなんとか歓迎されてる。


 これが手放しにワクワクドキドキできれば、本当に平和で楽しい一日になるんだろうな、とは思ったけど、そこに関しては仕方ない。


 欅宮さんの胸を狙うファッキン野郎たちのことは一旦忘れよう。


 今ここで悩んでても仕方ない。


 持ってる情報量の少ない俺ができることなんて、たかが知れてる。


 悩むよりも、楽しむことが一番だ。


 下を向いてたら、それこそ欅宮さんに心配されるかもしれない。


 それだけは避けたい。一番俺が望むのは、彼女が楽しく生活すること。


 そのためだったら、ある程度は何でもしたい所存。


 いつも委員長職で欅宮さんは苦労してるんだから。


「本当にごめんね。言ってた通り、お昼の二時頃にお父さんとお母さん、帰って来るみたいで」


「あ、うん。全然。気にしないで。俺からしたら、ちょっとでも欅宮さんちにお邪魔できたこと自体光栄なので」


 階段を上り、二階にある彼女の部屋へ向かいながら、やり取りする俺たち。


 本当にその通りだ。


 欅宮さんの家の中に入れるだけでもありがたい。


 こう言ったら変態っぽく聞こえるが、これはまごうことなき本心だ。あと、別に変態的意味も特にない。純真な思いです、俺の。……いや、そうは言っても説得力はやっぱ皆無だな。もう何も言わないようにしておこう。


「はい。なら、ここが私の部屋」


「お、おぉ……ここが……」


 謎に感動してしまった。つい、大袈裟にリアクションしてしまう。


 壁紙に混ざった白の扉に、『あきね』と書かれた木製のプレートが掛けられてた。


 それがまた、どこかロリっぽい感じって言ったら変だけど、いつも教室内で凛とした雰囲気を醸し出してる彼女とは打って変わった印象を受けるため、謎にグッとくるものがある。


 そう言えば、小さい時の欅宮さんってどんな感じだったのかなぁ。アルバムとかあったら見てみたい……。


「う、うん。それは……別にいいよ。アルバム、今から見せてあげるね」


「……え? あ、あれ、も、もしかして今俺、心の中の声……」


「……漏れてた。しっかり、ばっちり」


 お邪魔して早々何やってんだァぁぁぁぁぁぁ!


 扉のノブに手を掛けたまま、頬を若干朱に染めてる欅宮さんに対し、罪悪感しか湧いてこない。


 本当にごめんなさい。こんな変態ロリコンで、本当に……。


「と、とりあえず入ろっか。そ、その、汚いかもですけど、どうぞっ」


「すいません……。本当に、お、お構いなく……」


 自分に失望し、ぺこぺこと謝りながらも、オープンされた扉の先を見る。


 そこには、いかにも女の子らしさあふれる雰囲気が漂いに漂っていた。


 家具は白基調で、所々、薄ピンクの家具が混ざっており、全体的にゆるふわガーリー雰囲気。


 白色のベッド上には、いくつかぬいぐるみが転がっており、その中に欅宮さんの好きなマスコットキャラ【たぬさん】のものも並べられていた。本当に好きなのが伝わってくる。


 とにかく圧倒された。女の子らしさに。


 ここ、俺が入っていい場所なんでしょうか?


 実は見ることだけしかできなくて、透明の壁が張ってありました、とかいうオチないよね? 進みますよ、僕。


「ど、どうか……した? 入って来ても……いいよ?」


 先に部屋の中へ入った欅宮さんに手招きされ、俺はハッとして恐る恐る入室。


 おぉ……透明な壁とかなかった。俺、この空間と一体になれてるよ……。


「お、お邪魔……します」


「うん。適当に、ベッドの上でも座ってくれて構わないよ」


「べ、ベッッッッ!?」


 エッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!


 べべべべべ、ベッドォォォォォォォォ!?!?!?


「そそそ、そんな、ベッドなんて俺には一億年早い……じゃなく、もったないよ! 全然床で構わない! いや、何なら部屋の隅っこでもいいです! 隅っこに座らせてください!」


「え、えぇ!?」


 俺の言葉に驚き、戸惑う欅宮さん。


 だってそうだ。いくら何でも、ベッドは無理。


 ベッドとか、もう色々といかがわしいことが始まりそうなフラグでしかない。うん。これはさすがに考えすぎとかじゃないはず。自意識過剰とか、勘違いでも何でもない。ベッドは卑猥な場所なのだ。


「だ、だったら……ここに一緒に座ろ? モフモフの二人用座布団」


 言って、用意してくれたのは、細長くてモフモフ座布団。


 ……まあ、これならいいのか? しかし、二人用にしてはどこか小さい気もするが……。


「宇井君、座ってて。私、そこから宇井君ご所望のアルバム取ってくるから」


 言われ、もうごちゃごちゃと余計なことを考えるべきじゃないと悟る。


 俺は指示通り、モフモフ座布団二人用へと大人しく腰掛けた。


「アルバム、何歳くらいのがいいかな? って、そうやって自分で聞くの、すごく恥ずかしいんだけど……」


 押し入れの中に置いてある収納ケースを探りながら、俺に背を向けた状態で、欅宮さんが問いかけてきた。


「あっ、えっ、な、何歳でもいいよっ! そこら辺は欅宮さんに任せます!」


「そう? ……なら、小学校一年生とか、二年生くらいのところでいいかな?」


「も、もう全然! ありがとうございます!」


 何の感謝だよ、と、俺の中のもう一人の俺が毒づいたけど、仕方ない。


 ありがたいものはありがたいんだから。ロリ欅宮さんの可愛い御姿を拝見できるなんて、それこそ感謝もんだろ、JK。


「それじゃあ、これ今から見せますね」


 手に持ったアルバムを俺に見せ、言いながら、こっちに向かって歩いてくる欅宮さん。


 そして――


「お隣失礼します。よいしょっと」


 ちょうど空いていた座布団のスペースに、彼女も腰を下ろす。


 薄々感じていたが、これはどうしたって距離が近くなった。


 二人用とはいえこの座布団、密着想定のカップル向け座布団ではあるまいな? 絶対そうだよな、これ?


「一ページ目――」


 俺のドギマギを無視し、欅宮さんはアルバムの表紙を開いていった。


 これは……遊園地でのドキドキ展開があると思ったけど、その前にも一波乱あるのかもしれない。


 俺は戦々恐々としながら、とりあえずは彼女の開くアルバムに目を通すのだった。


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