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第12話 支えられるのは俺だけです

「集中してるところごめん。そしたらですけど、一応ここまででいったん気付いたこととか、言っていくことにするね。いくつか、なんとなく見つけられたので」


『あ、うん。時間は……昼の十五時。なるほど』


 自主勉強中で、メガネをかけた状態の欅宮さんは、時計を確認してから頷いてくれた。二人でいる時にはあまり出さない教室内モードっぽい見た目をしてる。


『学校での生活はだいたい朝からこれくらいの時間ほどだもんね。納得だよ』


「察してくれてありがたいです。勉強してるところ悪かったんだけど、そろそろ二時間ぶっ通しだったからさ。声掛けなきゃと思って」


『うんうん。いいよいいよ。それで、どんなところに気付いてくれたかな?』


 若干身を乗り出し、欅宮さんはかけていたメガネを外した。


 朝の八時ころから始めた監視も、かれこれ七時間ほどが経過していたのだ。


 その間、俺はずっと欅宮さんの一日を彼女の部屋を通して見ていたわけだが、思った以上に体力を……いや、精神力を試されてたような気がする。


 今やってた自主勉強以外に、趣味の音ゲーをプレイすることや少女漫画を読むこと、そして昼ご飯を食べる時も時間を共有していたから、同棲してるような感覚に陥ってずっとドギマギしてた。


 加えて、これは任された仕事だから当然だけど、ずっと彼女の胸を見続けないといけないわけだ。


 男子高校生的に色々とアレになるのもおかしくはない。白状しますけど、ずっと悶々としてました。


 最高のきゅうz……いや、最高に過酷な休日だな、とそう実感するばかりだ。ふぅ。


「まず一つ目だけど、これは今もやってる……かも。机を挟んで人と会話したり、誰かの話を聞いてる時、欅宮さんは胸を机の上に乗せがち……です」


『へ!? ほ、本当に!?』


 俺に言われてパッとスマホのカメラから後退する欅宮さん。


 その勢いで胸も机の上から離れたが、これは指摘する方もだいぶキツイ。めちゃくちゃ恥ずかしいぞ、これ。堂々と「おっぱい監視してました!」って暗に言ってるようなものじゃん。まあ、本当に監視してたんだけどさ……。


「……もしかして、無意識だった?」


『……む、無意識……でした……』


「……っ。あ、な、なる、なるほどね……! 無意識だったら仕方ないか……! うんうん……! 仕方ない……仕方ない……! あ、あははは……はは……は……」


 ――なんて返すのが正解なんだこれ!?


 自分で聞いといて何言ってんだって感じだが、率直に言ってどう返答するのがベストなのかわからなかった。なにこれ。「おっぱいは重いもんねぇ! うんうん、わかるわかる!」とかわかり手の振りしとけばいいのか!? てか、気持ち悪くないか!? 男なのにおっぱいの重みなんてわかるわけないだろ! もちろん抱えてみたら多少はわかるかもしれんけれど、こちとら正真正銘そういうの未経験な側の人間なんだから! わかり手を装うのは無理してる感が伝わっちゃうだろ!


 気まずさと恥ずかしさと困惑のせいで、心の中では饒舌になってしまう俺であった。苦しすぎる。


『で、でも、宇井くん? 私、聞いて欲しいの。この胸の……困ったところ……』


「は、はい……」


『すっごく重くてね……? 短い時間ならいいんだけど……長い時間になってくると……肩とかも凝っちゃうんだ』


「それは……はい。なんとなくですけど……想像できます」


『うん……。だから……私もたぶんそれを回避するために無意識でやってたんだと思う……』


「『………………』」


 何とも言えない沈黙がそこに流れた。


 欅宮さんは恥ずかしさのあまりうつむいて耳まで真っ赤にさせてるし、俺はどこをどうフォローしていいのかわからず、ひたすらに黙るしかないような状況だ。


 ただ、胸が重いことを想定して、一応できそうな対策ってのを考えてはいた。


 俺の大好きなラノベ【ちっぱいでも愛してくれますか?】のメインヒロインである日向ひなたしらすちゃんが、恋のライバルである巨乳ヒロイン鹿観かなみサクちゃんに言ったセリフで、


『堂々と机の上に胸乗せて巨乳アピールしないでよ! 重いからって言っても、そんな胸してる自分が悪いんじゃない! あと、主人公くんに持ってもらおうとするのも絶対にダメ! 絶対!』


 てのがある。


 欅宮さんの机上胸乗せを見て、俺はまずこのセリフを思い出した。


 そして、一つの対策に行きついたのだ。


 そう、それは――


「欅宮さん」


『……はい。なんでしょう……?』


「やっぱり俺たち人類がこの地球で生きる限り、重力からは逃れられないんだよ」


『……? う、うん……?』


「そうなると、重いものはひたすらに下へ下へその体重をかけていくしかないわけであって、何かの支えが無いとそれを解消してもらうことができないんだ」


『そう……だけど。宇井くん、今私たち――』


「だから、俺はもう思うんだ。欅宮さんが自分の胸を重いと思うなら、それを支えるのは俺しかいないんじゃないかなって。支えさせてください。俺に。そのお胸を!」


『……ふぇ……?』


「大丈夫! 全身全霊で役目は全うするつもりです! 日々の生活でも、学校でも、絶対に『あ、胸机に乗せてる』って思われないようにするし、俺の力があれば悩みも解消して――」




 ぶちっ。




「……あれ……?」


 おかしいな。


 熱弁の最中だったけど、画面に映ってた欅宮さんがいなくなったぞ……?


 ていうか、俺、今自分でなんて言ってた? 混乱しすぎて、伝えたいことをちゃんと伝えられてたか不安になって――


【秋音さんが通話から退出しました】


「え……!? あ、あれ!? な、なんでだぁ!? なんでなんだぁぁぁぁ!」


 結局、その日はそれ以降欅宮さんに通話を掛けてみてもつながらなかった。


 絶望である。これは完全に嫌われた。


 まだ監視して気付いたことの一つしか言えてなかったのに……。


 俺は一人、部屋の中で死体と化したかのようにうつ伏せになって倒れるのであった。


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