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第5話 朝デートと放課後の約束

 たぬさん像の前に集合した俺と欅宮さんは、それからすぐに学校へ向かうということをせず、少しだけ駅前に並ぶ店々を眺め歩いていた。


 まだ朝も早く、店自体開いていないところだって多いのだが、それでもどんなジャンルのものが並んでいるのか、くらいは確認できる。


 俺たちは互いに行ってみたかったあの店や、この店はこれが美味しいんだよ、などと教え合ったりして、またそこで趣味の共有や、興味関心事についても少しだけ知ることができたような気がした。


 何度も言うが、本当にこれは現実なのか、と改めて思ったりもした。


 教室内での欅宮さんは厳格な委員長だし、俺は教室の隅っこで座ってるようなザ・陰キャだ。まるで対等じゃない二人なのに、ひょんなことから朝を共にし、こうして並んで歩いてる。


 現実感がまるでない。本当に、本当に。


 ……あ、そうだ。現実感が無いと言えばもう一つ。


 色んな店を軽く見て、じゃあ学校に向かいましょうってなったタイミングで、欅宮さんから新たにこんな提案をされたということも報告しておかなければならない。


「……宇井くん。予定があったり、嫌だったら全然断ってくれて構わないんだけど……、放課後、ここで私と遊んでくれたり……しない?」


「え?」


「あ、も、もちろん嫌なら断ってくれて構わないんだよ!? 急な話だし、私も何いきなり誘ってるんだろうって自分でも思うし! せ、せっかちすぎだし!」


「いいですよ、全然」


「だ、だよね……! やっぱり突然過ぎて宇井くんにも計画が――って、へっ!? い、いいの!?」


「うん。全然大丈夫。俺なんかでよかったら、お供します」


 そうやって俺が言うと、また欅宮さんは背を向けた。


 そして、ひそやかにガッツポーズして、横にちょっとだけ嬉しそうに揺れてた。


 そんな姿を見て、俺も言いようのない嬉しさに包まれ、胸がいっぱいになる。


 いっぱいになってたところで、またクルっと体の正面を俺の方へ向け、幸せそうな笑みを浮かべながら、欅宮さんは続けてくれた。


「行きたいところは二つほどあるのっ。お洋服屋さんと、カフェ!」


「了解です」


「二つの中でも、特にお洋服屋さんは宇井くんに色々見てもらいたくて……。私、胸のせいで着ちゃうと太って見えるものとかあるから……」


「な、なるほど」


「ごめんね、利用するような真似して」


「いいです、いいです。利用してください。そもそも、俺は欅宮さんに協力する立場でもあるんですから」


 そう言うと、欅宮さんは申し訳なさそうに、そしてどこかもどかしそうにしてるような表情を作った後、最後は笑顔で――


「じゃあ、放課後また楽しみにしてるね」と一歩だけこっちに接近して言ってくれた。


 俺の方は、どうしても一瞬胸の方に目が行ってしまったのだが、すぐにそこから視線を切り、彼女の顔を見やって頷いたのだった。

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