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第2話 告白

「あ、あの……、今……欅宮さん……なんて……?」


「っ……! だ、だから、その、私のお、おっぱい……について相談したいことがあって……う、うぅぅ……!」


 恥ずかしすぎるのか、赤面しすぎて言葉が出なくなり、その場でもじもじする欅宮さん。


 とりあえず一つ言えるのは、「なにこれ、どういうこと?」の一言。


 おっぱい……? 相談……? 欅宮さんが俺に……? なぜ……? ていうか、おっぱいの相談ってなに……!?


 頭上に疑問符が浮かびまくり、完全に混乱状態だ。俺はひたすらに微妙な顔をするしかない。


「と、とにかく、これは他の誰にも相談できないことなのっ! 私のおっぱいのことは、宇井くんにしか話せないんだよぅ!」


「いや、なぜに!?」


「なぜにって、決まってるじゃん! 私、宇井くんがいつも自分の席で読んでる小説のタイトル知ってるんだもん!」


「へ……!?」


 虚を突いてくるかのような欅宮さんの発言に、俺は思わず冷や水を掛けられたかのように体をビクつかせる。


 そして、冷や汗が頬を伝った。


「え、えーと……その本のタイトルっていうのは……?」


「【ちっぱいでも愛してくれますか?】」


 タイトル名を聞いた途端、俺は膝から崩れ落ちた。


 ――終わった。


 俺は明日から変態エロラノベ読みの称号を手にすることになる。で、クラス中からちっぱい好き変態男とか好き勝手なあだ名で呼ばれるんだ……。


「で、でも、安心して大丈夫だよ、宇井くん! 私は宇井くんがどんな本を読んでたってバカにしたりしないし、誰かに言いふらしたりしないもん!」


「そんな根拠どこにもないじゃないですか……。欅宮さんからしたら俺は学校でぼっちしながら教室の隅っこでエロラノベ読んでる陰キャに変わりはないわけで……」


「い、いいじゃんそんなの! 読んでるのは休憩時間にでしょ? 別に授業中に読んでるわけじゃないし、ほ、ほら、宇井くんはブックカバーで表紙を隠しながら読んでるから、あんまりそういうエッチな本を目にしたくない人たちにも配慮してるし!」


「それでも欅宮さんにはバッチリバレてましたけどね……」


「そ、それは仕方ないことだよ! だって、私が一方的に宇井くんのことを――」


 ――と、何かを言いきろうとして途中で言葉を飲み込む欅宮さん。


 俺は彼女が何を言おうとしたのか気になって、下げていた頭を上げる。


 欅宮さんは赤面し、耳まで真っ赤にして、自分の手で顔を仰いでいた。


「俺のことを……なんですか?」


「う、ううん……! な、何でもないの……! 何でも……!」


「……? いかにも何かありそうな感じですけど?」


「な、何でもないのっ! そ、それ以上は聞いてきちゃダメ! 禁止っ!」


「うぉっぷ!?」


 勢いよくかがんできて、俺の口を華奢な両手で物理的に塞いでくる欅宮さんだったのだが、見逃さなかった。


 今彼女がかがんだ刹那、二つのビッグマウンテンズも一緒に元気いっぱいお揺れなさっていたのだ。


 その震度は恐らくマグニチュード7くらい。大災害級である。ついでに言えば、俺の心も別の意味で大災害。目の前にその大災害を起こした犯人が二つあるわけだけど、もうどうしていいのかわからない。見つめていいのこれ!?


「……ねえ、宇井くん?」


「ふぁい? ふぁんふぇひょ――」


「ひゃっ」


 反応しないわけにもいかず、口を塞がれたまま俺はどうにか喋ったのだが、どうにもそれがくすぐったかったらしい。


 欅宮さんは可愛らしい声を上げ、俺の口から手をどける。


「……あ、す、すいません……」


「…………い、いいよ……だいじょぶ……」


「「………………」」


 気まずすぎる空気がそこには流れていた。


 本当に何なんだ、これは……。


「あの、ね……」


「は、はい……」


「その……私ってクラスでは正直に言ってあんまり好かれてないでしょ? いつも校則違反した人を取り締まって、高圧的にしてるし……」


「そ、それは……」


「いいの。私だってわかってる。でも、それはいいんだ。それはいいの。もう、仕方ないことだし」


「……」


 何も言えない。事実ではあるから、余計に。


「問題はね、何よりも……私のおっぱいにあるの」


「ぶっっっ!」


 吹き出してしまった。笑う方向ではなく、どちらかというと驚いたという方向で。


「じょ、冗談じゃないよ? これ、本当のことなの!」


 プンスコ怒ったように一生懸命言ってくる欅宮さん。


「は、はぁ……。それで、お、おおお、おぱーい……にどういった問題があるんですか?」


「……うん。このおっぱいのせいで、注意する男子たちの目線が全部私の胸元に行ってるし、陰で色々変な呼び方されてるの知ってるんだ」


「呼び方?」


 しらばっくれてみる。首をかしげてわからないふり。


「お、おっぱい委員長とか……ち、乳……女神様……とか……」


「…………な、なるほど……」


 欅宮さんもこのことには気付いてたらしい。


 でもまあ、そりゃそうだよな。デリカシーが無くてお調子者の男子とか、結構教室の外とかで声に出してる時あるし。


「ね、ねえ、宇井くん。どうしたらいいかな? 私、どうしたらこんな呼び方されなくなったり、胸の方に視線をやられなくて済むと思う?」


「え、えぇぇぇ……?」


 ズイっと体勢を前のめりにし、切実な表情で言ってくる欅宮さん。


 そんなこと、俺に言われてもなのだが……。と、というか、ち、近い……!


「自分で色々考えたりもしたの……。けど、もう何も浮かばなくって。そしたら、小さいおっぱいの女の子たちがたくさん出てくる小説を宇井くんが読んでるのを知って、宇井くんにお願いしてみるしかないかなって思ったから……」


「う、うん。そこでなんでそんな小説読んでるだけの俺に白羽の矢が立つかはまったくわからないけど、ちょっとお願いですからいったん少し離れて。この距離、さ、さすがにやばいから……! 誰かに見られたら勘違いされちゃうから……!」


 ついでに言うと俺の意識の方もヤバい。


 近距離から見る欅宮さん、控えめに言って可愛すぎる。隠していた挙動不審癖がこれでもかというほどに出てるのが自分でもわかった。


「い、いっそのこと……宇井くんが私と……つ、つつ、つ……付き合ってくれたら……いいのかなー……とか思ったり……」


「へ!? つ、つき!?」


「――! あ、あひゅ、あうっ、も、も、もしもの話だよ! か、家庭を作って、じゃ、じゃなくて、仮定を作ったらって話! ほ、ほら、恋人がいたら、あいつはあいつの彼女だからー、とか思われて変な視線も減るかなって思ったので!」


「……な、なんだ。そういうことか……って、いやいや! そうはなんないよ! 仮に一億分の一の確率で俺と欅宮さんが付き合ったとしても、きっと変な視線が減ることは無いよ! 根本的な解決になってないし!」


「そ、そうかな……? というか……い、一億分の……一……」


「そうだよ! そりゃね、俺としてもね、欅宮さんと付き合えるなんてことになれば、う、嬉しいですけどもね!?」


「……でも、一億分の一なんだ……?」


「うっ……。ま、まあ、俺となんかじゃどう考えても釣り合わないし……。それに、今は問題の解決が先って状況だし……」


「……っ」


「へ……?」


 タジタジになりながら言うと、欅宮さんは突如として俺の右手を大事そうに両手で握り締めてきた。


「あ、え、け、欅宮さん……? て、手が……」


「……めし……です……」


「え? め、めし?」


「お試し、です。ものは何でも試してみないとわからないと思うもん。私と、つ、付き合ってみて……!」


「えぇぇぇぇっ!?」


 その日の放課後の記憶は、きっと一生消えないものになるだろうと思った。


 これはいくらなんでもトンデモ展開過ぎるから。本当に。


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