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第7話

 一度、確認に行ったとき、盗聴器とサーモグラフィーを仕掛けて置いていた。

 熱探知機は、今彼が部屋にいる人の熱を捕まえている。

 約一時間ほど沈黙の中、車を走らせると、サティーブの家に到着した。

 二軒ほど離れたところに車を止める。     

 ミツキはサーモグラフィーを確認して、違和感があるのに気付いた。

 体格が違うのだ。

「誰だ……?」

 そのままの襲撃は避けて、車内で様子を見ることにする。

 サティーブが一人暮らしをしている家の場所は、すでに調査済みだった。

 そこへ、ぶらりとサティーブがフロントガラスの向こうに現れて、家に向かった。

 なんの警戒心もない様子だった。   

 家は木造マンションである。

 六部屋の内、三部屋しか埋まっていない。

 二階の奥がサティーブの部屋で、彼は鍵を開けて中に入っていった。



 サティーブが玄関を開けると、部屋に電灯がともっているのに気付いた。

 すぐに、グラス・ショットを口に含む。

 ゆっくりと、だが何時でも動ける態勢で、リビングのドアを開ける。

 そこには、銀髪で瞳の黄色い青年が、ソファーに腰かけて、疑似ビールを飲んでいた。

「やっとお帰りか」

「誰だ、あんた」

 警戒心丸出しで、サティーブは相手の語尾にかぶせた。

「名前はフォロイ。サイロイド協会の者だよ」

「それが、なんの用で俺の家に来ている?」

 フォロイは疑似ビール缶を煽り、彼を見た。

「おまえがやっている実験だがな。いわゆる、禁忌というやつだ。早急に止めてこいといわれてな」

 サティーブは、思考を抜き取られているかのような感覚に陥った。

 盗聴器で会話を聞いていると、ミツキにはチャンスができたと思った。

「実験?」

 あえてサティーブはとぼけて見せる。

「とぼけるか」

 フォロイは嗤った。

「おまえが、サイロイドを乗っ取れるかどうか試しているのはわかっている」

 平坦でつまらなそうな口調だったが、サティーブには十分効果があった。

「止めるって、どういうことだよ? 俺を始末にでもきたのかい?」

 彼は今にもカプセルを砕こうとするような雰囲気をまとった。

「この件から手を引け。学校に帰るんだな」

 サティーブは一気に怒りに火がついたのを自覚した。

 無理やり自分の感情を抑えて、なんとか平静を装う。

「せっかくですがね。冗談じゃない」

 フォロイは聞くと、缶をもうひとあおりして、ため息交じりの息を吐く。       「そうなると、始末しなければならなくなる」

「サイロイド協会が、どうしてロータ・システムの話に介入するんだ?」

「そりゃ、サイロイドを乗っ取ろうとするからだろう」

「迷惑をかける気は毛頭ない。サイロイドといっても、ドロップスが使っていたものを利用させてもらう予定だし」

「それが、ロータ・システムを怒らせるんだよ。引いてはサイロイドの管理・管轄を行っているサイロイド協会に巡り巡ってくる」

「それが仕事だろう。頑張れよ」

「決裂だな」

 フォロイは、空の缶を放り投げて、壁にぶつけた。

 その時、玄関のドアが開いた。

「フォロイ・ミルガン、動くな!」

 リビングに少年と少女が飛び込んできた。

「なんだ……!?」

 フォロイは、邪魔くさそうに眼をくれただけだった。

「あんた、たしかミツキとイロイ……」

 サティーブが二人を視止めてつい、声にだした。

 彼女の前面には、今にも刀を抜きそうに構えたイロイが立っていた。

「久しぶりね、サティーブ。元気が有り余ってたようで安心したわ」

「まったく。邪魔が入る」

 フォロイは不機嫌そうに呟いた。

「フォロイ、サティーブ。二人とも、付いてきてもらうわ」

「そんな義理はない」

 フォロイが即答する。

 だが、いつの間にかイロイの刀が彼の首筋にそえられていた。

「……飲み込む前に、斬る」

 静かだが、イロイの言葉には異様な迫力があった。

「どこに連れていかれるのかな?」

 フォロイは、驚いた風もなく訊いた。

「それは、着いてからのお楽しみ」

 フォロイはミツキの言葉に、仕方がないとばかりな顔でサティーブに向ける。     「待ってくれ、俺はただリズリーを救いたいだけなんだ。あんたらの争いになんか、興味はない」

 少年は真摯に訴えかけるような声だった。

「リズリーを、救いたいのかい」

 ミツキの短い答えにサティーブは首を振った。

「ああ。今日の昼間、サイロイドで試してみたんだ。そして、リズリーは地上に落とすことができる。リズリーがロータ・システム内にいることはイレギュラーだが、それを望んだ奴がいたせいだよ。問題は、そいつだ」

「何者だ?」

「わからない。だが、そいつをやれば、試す価値はあるし、リズリーの事件も解決する!」

「楽観的だな。まあいい。うるさいからもう黙れ」

 ミツキは、二人にグラス・ショットを吐き出させて、ストッキングの猿轡を噛ませると、後ろ手に手錠をはめた。持っていたカプセルも全て没収する。

 そして、二人を外に出すと車のトランクに放りこんだ。

 後部座席にイロイを乗せると、ミツキは車を発進させた。


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