アンドロイド。それは完璧なモノ。人間の補助となる存在。
そのはずだった。
不良品というのはどんなものでも出てくるもの。当たり前のように、はじき出されて捨てられる。
人間でさえそうなのだ。障害のレッテルを張られて、生きながら殺される。
排水機能の不全という欠陥を抱えたわたしも、同じだ。判明した時点で、ますたーに失望された。ますたーの親御さんには嘲笑われて。
「お前なんて、買わなきゃよかったよ」
だから、捨てられた。粗大ごみのシールを貼られて。
けど、しにたくなかった。
あの家の前から逃げだして、ボロボロの服を、体に張られたゴムを、破いて、壊して、動かなくなるまで、逃げて、逃げて、逃げて。
逃げられなくて。
誰も、拾ってくれなくて。
どうすればいいかなんてわからなくて。
所詮、わたしは
打ち捨てられて。
さびた機械がうなりを上げた。
雨で躯体が冷えていく。
人工知能を駆動させる回路の塊が、一部機能停止してる。
エラーエラーエラー。
でも、死にたくない。
わがまま。
わがまま。
わかってる。
叶わない。
けど。それでも。
叶うことのない奇跡に縋った。
「たすけて」
不完全な言語野、かろうじて発声した四文字。
金髪のガラの悪そうな女に、一目見られ……けど、すぐにどこかに行った。
神様なんていない。わかってる。
ああ、もうだめだ。
ないものねだりももうここまで。
けど。
……希望、捨てられないや。
「たす、けて」
応答願ウ。
「タス、ケテ」
応答願ウ。
ダレカ、タスケテ。
ナンダッテスルカラ。
ヒトリニシナイデ。
フリョウヒンデゴメンネ。
ダカラステナイデ。
ヒトリキリハヤダヨ。
ソバニイテクレルダケデイイカラ。
オウトウネガウ。
タスケテ。
タスケテ。
ヒトリニ、シナイデ――。
壊れかけた思考回路で。
壊れかけたこころで。
手を伸ばした。
見えない光が視えた、気がした。
低下していくメモリ。シャットダウンしていくソフトウェア。エラーを吐き続けるCPU。きっともう、わたしは長くない。
人間の概念として学習された『死』を
――なにも、かんがえられないや。
けど、さっきより、怖くなくなっていた。
五感の代わりだった、鈍った触覚センサーが告げる。わたしの身体に触れる、ひとのぬくもりを。
聴覚はもう機能してない。カメラももう動かない。自己修復が働かない限り、動くことはない。
そして、きっと次に目覚めた時は、もう内部のハードディスクのクリーンアップ後。人格データのある程度の修復が行われて、記憶領域もリセットされる。
わたしは、わたしじゃなくなる。
それでも。
最期は、人といれて幸せだったよ。
きっともう参照されることのない最後の記憶領域に、わたしはメッセージを記す。
《次のあなたは、きっと幸せでありますように》
ハードディスクの駆動音。内部の音だけを最後に聞いて。
わたしは、シャットダウンした。