白い花の咲き乱れる丘に聳える巨大な合同碑の前に、数人の人間が並んで立っていた。同じ顔を並べた少女たちは、下ろしたてのシワひとつない軍服を着せられている。
「ありがとうございます。この子達の形をのこしてくれて」
小さな箱を抱えたクピドが、振り返って微笑んだ。その視線の先では、ユリウスとコンラート、そしてユウが鎮痛な面持ちで俯いてる。クピドはゆっくりと三人に歩み寄り、箱の蓋を開けた。中に納められた4枚のプレートを見た青年たちの表情が、一様に歪んだ。
「ありがとう、ゼロスリー。君が見つけてくれたのに、死なせてしまった。ごめん、ゼロフォー。君の言う通りにしていれば君を死なせずに済んだ」
ユリウスがそう言いながら、2枚のプレートを手に取る。ユウも黙ってプレートに手を伸ばしかけたが、指を掛けたそれをコンラートが横から奪い取った。残った1枚に顎をしゃくって、コンラートが苦々しげに吐き捨てる。
「お前はそっちだろうがよ」
ユウは唇を噛んだ。彼女達を番号で呼びたくなかった。消耗品として扱うのが嫌で、弾除けのように先行させたくなくて、とにかく自分がやらなくてはと思って、大した指示さえも出さなかった。その結果がこのざまだった。自分は彼女達を尊重していたのではなく、目を背けていただけだった。4機編成の
「ごめん」
一言そう呟いて、ユウはプレートをそっと持ち上げた。視線が刻まれた文字をなぞる。Bat13-15。15という数字を、きっと一生覚えている事になるのだろうなと思った。
プレートを天国行きの名簿の列に加えて、扉を閉めると一行は碑の前面に回った。碑の前ではアサクラとシキシマが、花束を包んだジャケットを抱えて碑の表面に新たに現れた4つの文字列を眺めている。
「揃いで着て貰うのを楽しみにしていたんだが……残念だ」
揃いの制服に身を包んだ少女たちを見て、シキシマは眩しそうに目を細めてからQPの一人にジャケット包みの花束を手渡した。QPは渡されるがままに受け取ったが、それをどうしたらいいのか分からずに固まっている。目線だけを動かし、シキシマの制服と、自分の制服と、胸に抱えたそれを順繰りに見て、少女は口を開いた。
「何故、花を?」
シキシマは少し眉を上げて少女を見た。
「それは君の――姉妹が着るべきものだったからだ。それはノクティス迷宮で散った彼女たちに捧げる花だから、そこにあれば間違わないだろう?」
少女は首を傾げる。
「死んだ個体に衣服は不要です。これは軍の備品なのでは? 破損や汚損を考慮して、予備倉庫に入れるべきでは」
「あはっ、いーのいーの。それはノブがポケットマネーで作らせた制服だからね。備品とかじゃないない」
「キリヤ、そういうのは黙っておいてくれないか……」
「……?」
少女はただただ困惑したように、黙って再度首を傾げた。コンラートが眉間に皺を寄せて唸る。
「予算、降りなかったんスか」
「
コンラートはくしゃりと顔を歪めて、笑った。
「カッケーじゃねぇっすか。お前らが認めなくてもウチの隊は認めてるんだぞ、って大声で叫んだようなものでしょ、それ」
そう言ってコンラートはばしんとQPの背中を叩く。QPは驚いた風もなく、「すみません」と一言謝った。コンラートは一瞬目を見開いたが、何が彼女にそうさせたのかを理解して再び表情を歪める。
「いいか、覚えとけ。お前たちは使い捨ての道具じゃないし、誰かの感情の捌け口でもない。お前たちはこの隊の一員で、同じ重さの命を持った人間だ」
「よく、わかりません」
「分からなくてもいい。分かんなくていいから、覚えとけ」
少女は曖昧に頷いた。コンラートは少女の手に自分の手を添える。幼さの残る華奢な手は、手どころか掌ですっぽりと包めてしまうほどに小さい。
「花は、お前の姉妹のためのものだ。ここで手向けられる花は死者のためのものだ。死は不可逆で、近しいヤツが死ぬってのは悲しいものだってことを覚えろ。
「覚えて、おきます」
コンラートの手にいざなわれて、QPは花をそっと碑の前に置いた。その様子を眺めていたアサクラが、クピドに歩み寄る。
「クピド。君が供えるかい」
「いーえ! やりません」
花束を差し出したアサクラを、クピドはじろりとねめつけた。
「それはあなたの役目です。
「いやぁ、手厳しいなぁ」
「当たり前でしょ。あなたには感謝してますけど、同じくらい恨んでます。少なくともわたしは。なんだって今になって迎えに来る気になったんです」
「来ない方がよかった?」
「来ないとは思ってました。あなたの顔を思い出す時なんて副菜にマヨネーズ掛かってた時くらいなんですからね」
アサクラは苦笑する。普段の彼からは考えられないほど、感情の乗った笑顔だった。アサクラはふくれっ面で睨みつけてくるクピドから視線を外すと、碑へと向き直る。その顔からは既に笑みが消えていて、昏い瞳にはいつもの濁った色が凝っていた。花を置くその動作は優しいものだったが、表情からは胸の内をうかがい知ることは出来ない。何も言わずただ佇んでいる