「あの、うち、今度からゲーム関係の本も一部取り扱うことになったんですよ。攻略本とかゲームのノベライズの本とか。それで、来月仕入れる本の最終確認をするためにこちらのお店に来たんですが」
あかりちゃんが、丁寧に説明してくれる。
「確認って……あかりちゃんがやるの? 店長と奥さんは?」
「お父さん、転んで足をくじいちゃって、いま病院です。お母さんはその付き添いで。……リストと商品が合っているかどうかをチェックするだけならわたしでもできるので、今日だけは特別にわたしがお仕事してるんです」
「なるほど。そういうことか……」
今朝、『ゲームショップ もちづき』が開店していなかったのも、そういう理由だったわけね。
「……で、石川さんのほうはなんでここに?」
「そりゃバイトだよ、バイト。このお店、時給がいいからね。金になるなら、どんな仕事でもやるべきっしょ」
そちらも分かりやすい理由だった。
「で、山田はなんでここにいるの? って聞くまでもないね、買い物か。……なに? 望月さんと山田は知り合いなの? ちなみにうちと山田は同じ学校の同じクラスで、けっこう仲良しなんだけど」
「わ、わたしは先輩とは同じ中学校だったんですっ。うちのショップにもよく来てくださる常連さんなんですから! ……山田先輩、石川さんと仲良しなんですか。意外です」
「い、いや、仲良しっていうか、まあ知り合いっつーか、クラスメイトで……」
「あー、ひっでえなあ。うちと山田はこのあいだ、保健室でさんざんイチャつきあった仲じゃーん!」
「保健室で!? い、イチャつき……!?」
「誤解を招くようなことを言うな!」
純粋なあかりちゃんは、石川のタワゴトも真に受けてしまっている。
「違うからね、あかりちゃん。俺と石川さんは、ほんとにただの知り合いだ。初めてしゃべったのもつい最近だし――」
「でも濃厚な保健室タイムを送ったのはマジじゃん? 知り合いあつかいはひどいよなー。うち、あんたに告白までしたってのにさあ」
「告……白……!? や、山田先輩、本当ですか!?」
あかりちゃんは、いよいよ目を見開いて驚愕の表情を見せる。
石川め!
いや嘘は言ってないけど、ないけどさあ!!
なにもお前、こんなところで……!!
「――あかりちゃん、詳しい話はまた後日しよう。ただひとつ言えるのは、俺と石川さんは別に付き合ってなんかいない。それは本当だ」
「あ、なんか強引に話を打ち切ろうとしてるねえ。あーあ、でも山田もスミに置けないんだなあ。うちはてっきり、ライバルは姫だけだと思っていたのにな〜」
「姫? ……山田先輩、姫って誰のことです?」
あかりちゃんは完全に、怪訝顔になってしまった。
石川め、話がどんどん複雑化していくじゃねえか!
無駄口叩いてないで、バイトしろよ、バイト!!
と、俺が心の中で怒号をあげた、そのときであった――
「山田くーん! 見つけたばい、『スクメモ』の攻略本! えへへっ、あたしが先に見つけたけんね! これはとんこつラーメン1杯おごりくらいしてくれても、よかっちゃないと――」
博多弁全開できた。
弁解のしようもないほど、ぐいぐい来られた。
「……カンナさん……?」
「姫……?」
あかりちゃんと石川は。
信じがたいものを見るような目で。
やってきたカンナに視線を送る。
「……………………………………え?」
カンナは笑顔のまま固まった。
右手には、ギャルゲーの攻略本を持っている。
「カンナさん……。えっと、山田先輩とここに来たんですか? 『スクールメモリアル』――攻略本買うほど、ハマったんですか?」
「……なんか、さすがにうちでも理解できない流れになってきたんだけど。姫、いまなんて言った? とんこつラーメン……?」
「……………………………………………………………………………………………………………………」
笑顔のまま、汗をだらだら。
例えるなら、とんこつラーメンに、辛子高菜と紅しょうがとコショウをてんこ盛りにして食ったら、これくらい発汗すると思う。滝のような汗という表現がぴったりだった。
「どうも……うちが想像してた以上に、事態はなんだか複雑みたいだね?」
石川は、顔をひくつかせていた。
「そろそろうち、バイト休憩なんだよねえ。……ね〜みんな。ちょっとお茶でもしにいかない?
い ろ い ろ お は な し し た い し
」
「…………山田く〜ん…………」
迫りよってきた石川。
涙目になって、俺を振り返るカンナ。
「山田く〜ん……どげんしよ……」
どげんもこげんもない。
もう、どうすることもできない。
バレてしまったのだ。
博多弁が。さらにはきっと、カンナと俺の関係まで。
よりにもよって、クラスでカースト上位の石川に――