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第22話 夢みたいやし。山田くんとこうして、駅前でデートの待ち合わせができるとか

 翌日。

 すなわち土曜日の、午前10時。

 駅前にある『ゲームショップ もちづき』の前に向かうと、臨時休業、の4文字が書かれたチラシが貼られていた。


「土曜日なんて、稼ぎどきなのにな。どうしたんだろう?」


 なんかあったのかな、店長。

 それか奥さんかあかりちゃん。

 ちょっと気になったけれど……。


 まあ今日の俺は、まずカンナとアキバに行かねばならない。

『ゲームショップ もちづき』にはまた明日、寄ってみよう。


 で、そのカンナだが――

『ゲームショップ もちづき』のすぐ横にある電柱の陰に、彼女は確かにいた。


「お……」


 当たり前だが、カンナは私服姿だった。

 ピンクのサマーセーターに淡い白のスカートを履いたその格好は、控えめながらも清楚な美しさに満ちあふれていた。


 そのうえ、頬を赤らめながら、そわそわとしつつ、長い金髪をときどき所在なげに触っている。それだけでなんだか、もう可愛い。


 カンナの容姿の端麗さは、街をゆく同世代の少女たちとは別格に輝いていた。事実、通行人はときおりチラチラとカンナに視線を送っている。


 無理もないぜ、あんな金髪美少女はそうそういねえ。

 美少女はどんな服を着ていても、どんなところにいても美少女なのである。ずるい。顔がいいってやっぱ無敵だ。


「あっ、山田くん! ここよ、ここ!」


 こちらに気付いたカンナ。

 笑顔でぶんぶん手を振ってきた。


 何人かの通行人が俺を見てきた。

 かと思うと、嘘だろ、みたいな顔をする。


 失礼な、と言いたいがまあ気持ちは分かる。

 カンナみたいな美少女と待ち合わせをしているのが俺みたいな男だったら、たぶん俺でも驚くと思うし。――ただ、


「あははっ! 山田くん、なんか辛子高菜みたいな色の服着とるねえ! ええち思うよ! 男らしかーっ! あたし好き!」


 可憐な外見の下にある、この博多っ子ぶりを街のみなさまが知ったら、さてどんなふうに思われることか。辛子高菜みたいな服て。


「褒めてんのか? その表現」


「もっちろん! とんこつラーメンといえば辛子高菜やないね。博多っ子にとって高菜みたいいうのは最高の褒め言葉やし!」


 たぶんそんなのはカンナだけだぞ。

 博多のひとに謝れ。


 まあ確かに今日の俺は、なんか薄黒い生地にちょっと赤のポイントが入ったシャツを着てるけど。……唯一ちゃんと洗濯していた服がこれだったんだよ。


「でも夢みたいやし。山田くんとこうして、駅前でデートの待ち合わせができるとか」


「そうか? ……いや、アキバにゲームの攻略本買いに行くだけだが……」


 我ながら白々しい。

 分かってるはずだ。

 同級生の女の子とふたりで出かける。

 それがどういう意味をもつか。デートと呼ぶのがまあ、普通だろうな。


「山田くんとふたりやったら、どこでんデートやし、楽しかと! 近所の公園でん楽しかよ!」


「そ、そうか。そりゃよかった。――よし、そろそろ電車乗ろうぜ!」


「うんっ! いこいこっ! ……あ、手ぇ、繋いでもよか?」


「ば、馬鹿言うなよ。付き合ってんじゃないんだぞ、俺たち!」


「あはは、そう言うち思うとったよ。……ならさ、……山田くんの腕、指先でつんつんはしてもよか?」


「は? つ、つんつんって」


「えい、つんつん」


 カンナの白い人差し指が、歩行中の俺の二の腕をつついてくる。……や、やわっこい……。って、そうじゃなくて!


「だからそういうのよせって! ひ、ヒカリたちに申し訳ねえから!」


「あはは、そのヒカリを攻略するための本を買いにいくんやし、大目にみてもらえんやろか〜? ……うん、駄目やね。でもどうしても、山田くんに触りたかったけん……うん……」


 ふと隣を見ると、笑顔ながらも顔を赤くしているカンナがいる。

 彼女なりに勇気を振り絞りながら、俺にアプローチを仕掛けてきているのが分かった。


 くそ、なんか調子狂うぞ……!

 こんな気持ちでアキバに行くのは初めてだ!




「ふっふっふ。ばっちり使えたばい。我が福岡の交通マネー、ヒモカ……」


 アキバへと向かう電車の中、カンナはドヤ顔で交通系マネーのICカードを掲げていた。


「それが福岡の交通マネーなのか?」


「そうよ。福岡西鉄道がやりよるやつ。これが使えるとは、ふふん、東京もなかなかのもんやね。認めちゃってもよかばい」


 やたら上から目線のカンナだが、なお彼女はほんの3分前に電車の乗り換えをしたときには、


「えっ、ここで乗り換えると!? 待って待って、あたしを置いていかんで、迷子になる〜! 山田くんカムバーック!」


 と、涙を流しながら大騒ぎをやらかして、周囲の目が痛かったことは何度でもお伝えしたい。


 そんなカンナと共に電車に乗って、東京の街並みを眺めていたが、やがて俺たちは目的地に着いた。




 秋葉原だ。




「ふわあああああっ!」


 カンナは瞳をキラキラさせて絶叫した。


「な、なんかすごかっ。福岡よりずっとおっきいビルあるし! あ、あれロボットアニメのガムダン! あれあたしでも知っとうやつ!」


「ああ、ありゃガムダンカフェだな。ガムダンにちなんだメニューが置かれてある店で、店内ではガムダンが放映されているぞ」


「そうなん!? あっ、あっちじゃアニメみたいな服着た女のひとがチラシ配りよるよ。あれもしかしてメイドカフェってやつ?」


「いや、あれは――見たことあるな。確か売出し中の声優さんだ。……ふうん、この近くのカフェで夕方からミニライブやるからチラシ配ってるみたいだな」


「カフェでミニライブ! しゃれとる! 福岡で声優さんがミニライブとか、なかなかお目にかかれんよ!? 昭和のころに、『唱和』っていう歌がうたえる喫茶店から歌手のタキダテツヤとか永渕剛が出てきたりはしとるけど!」


「話をことごとく福岡にもっていく話術はもはや芸術的だな。……で、どうする? さっそく『スクメモ』の攻略本、買いにいくか?」


 そう切り出すと、カンナは「んー」と首をかしげて、


「せっかく来たんやけん、もう少しいろいろアキバ巡りしたいかなぁ」


「そうか、そうだよな。よし、分かった。アキバなら任せとけ」


 オタクとして、かつ東京人として、ここはカンナにアキバの面白いところを見せてやろう。メシも美味いところ連れてくぞ。牛カツの店とか美味いんだが、さてカンナは喜ぶかどうか――


「えへへ。山田くんといっしょ。1秒でも長くいっしょいっしょ! えっへっへ〜」


 ――なんかどこに連れていっても喜びそうな感じだけどな。


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