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第13話 女やけん、細かいところに気がつくっちゃけんね

 そして、さらにゲームを進めると――


「あ――」


 カンナが呆けたような声を出した。



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 これから体育の時間だ。

 クラスの誰かとペアを組んで、柔軟体操をしなければならない。

 ペアを組む相手は、教師の意向でくじ引きで決まったのだが……。


【山田くん。あなたがわたしのペアの相手?】


【あ、日野さん。そうみたいだな。よろしく】


 彼女の名前は日野ヒカリ。

 同じクラスの女子生徒だ。

 あまり話したことはないけれど、おとなしめの子という印象だ。


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「これがボスキャラってやつなんやね!? よし、倒そ! 山田くん、どげんしたら、この敵をくらすことができるとね!? こう? こう!?」


「待て待て待て、ボタンをそんなに強く押すな! そういうゲームじゃねえから、これ!」


 くらす、という言葉が博多弁で言うところの『ぶっころす』みたいな意味だということを、俺はうすうす感づいたわけだが、とにかくカンナは画面の中にいるセミロングの女の子――そう、俺の嫁である日野ヒカリのことを敵がい心に満ちあふれた眼差しで睨みつける。


「なんね、このいやらしか女は。体育でペアになった男相手に色目ば使つこうてからくさ。あばずればい。淫乱ばい。尻軽たい!!」


「落ち着け、罵倒がいちいち昭和のオバちゃんみたいになってるぞ。……まだヒカリはあいさつしてきただけだろ。いくらなんでも、こき下ろしすぎだ」


「むうう。……だって、だって、この子が、この子が山田くんの奥さんやと思うと。毎晩愛をささやき合って乳繰りうとると思うと、あたし、あたし……」


 カンナはうっすら涙目になって『ぐぬぬ』とくちびるを噛みしめた。


「まあとにかくプレイを続けろよ。ヒカリの良さはまだまだこれから出てくるんだから。文句をつけるならエンディングまでゲームをしてからつけてくれ。まあ俺はヒカリへの苦情はいっさい受け付けんが」


「悪口言う前から進路を防がれたっ!? ……見つけちゃる。絶対、山田くんでも気付かんようなヒカリの欠点を見つけてから、ふたりを破局させちゃるけん、覚悟しときんしゃい。女やけん、細かいところに気がつくっちゃけんね……?」


 ひ、ひ、ひ、とカンナは邪悪に笑いながらボタンをしてゲームを進める。

 恋のライバルというより、もはやおしゅうとめさんのようだった。



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【じゃあ、まずはわたしから開脚前屈かいきゃくぜんくつするね】


 日野さんは、そのまま体育館の床の上に座り込むと、両脚を八の字に大きく広げる。

 そして、上半身を前にペターッと倒したのだ。顔が床にひっつきそうだ。


【すごいな、日野さん。身体が柔らかいんだね】


【えへへ、これだけがわたしの取り柄なの。……子供のころ、わたし身体が弱かったから。少しでも強くなろうと思って、大きくなってから体操とかよくやるようになって】


 日野さん、身体が弱かったのか。

 確かに、どちらかといえば線が細い子だとは思っていたけれど。


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 うーん、このくだりだけで俺はすでに泣けちゃうぜ。

 ストーリーの後半で、ヒカリは病気がまた再発してしまい、学校をよく欠席するようになるわけだが、その伏線はこの時点ですでに張られているわけだな。


「はいはいはーい! 山田くん! あたし! あたしも身体が柔らかいとよ!」


 博多っ子がまた自己アピールしてきた。


「日野ヒカリ破れたり! あたしのほうが絶対身体ぐにゃぐにゃやけん! 勝てるけん!」


「いや、別に俺は身体の柔らかさが理由でヒカリに惚れたわけじゃねえから――」


「あたしも前屈してみる! 見とって見とって!」


 って、聞いちゃいねえ。

 金髪博多弁女子は、着ていたブレザーを脱ぎ捨ててカッターシャツとスカートの姿になると、画面の中のヒカリと同じように、地べたにぺたりと座り込んでから、両脚をそのまま八の字に広げて、上半身を前に倒し――


「……あれ?」


 カンナの上半身は、中途半端なところで止まってしまった。

 背中が、曲がりきれていない。


「あれ、あれ、あれ? おかしか。なんであたし、身体が曲がらんっちゃろ? ちょっと前まで……中学のころまで余裕でできたとに……? ぐぐぐぐぐ! ま、曲がらんっちゃが……!?」


 カンナは困惑しきった表情だったが――

 俺は気が付いていた。なぜ彼女が座ったまま前屈いきれないのかを。




 おっぱいが。

 床につっかえているんです。




「ぐにににに! なしてよ! なして曲がらんとよー! これじゃあたし、ヒカリに負けてしまうやんか~!!」


 汗を垂らしつつ、悲しみと怒りで顔を真っ赤にしているカンナ。

 それを前方から眺めている俺は、む、胸が、彼女の丸いふたつの膨らみが、ぎゅうぎゅうに床にくっついているのを目の当たりにして……。ま、マジで? こんなにおっぱい大きいの? カンナ……。す、すごい――


「山田くん!」


「は、はい!」


 なぜか敬語になってしまう俺。


「あたしの実力、まだこんなもんやないっちゃけん!」


「そうでしょうとも!」


「背中、ちっと押してくれる?」


「はい?」


「せ・な・か! 押してくれたら、もっときっと曲がるけん!」


「は、はい!」


 そう言って、カンナの背後に回り込んだ俺であったが、いや前屈ってあんまり無理しないほうがいいんじゃね――なんて常識論が脳裏をよぎったそのときだ。


 彼女の白いカッターシャツが、汗でべったりと背中に貼りついていた。

 そして、ブラのラインがくっきりと浮き出してきていて――あ、ブラ……ピンク色――

 背中をそっと触ると、シャツ越しだというのに彼女の柔らかな皮膚の感触が指の腹に伝わってくる。その上、うなじのあたりからほんのりとしたシャンプーの香りが漂ってきて、お、お、おおおおお――




 むにゅ。




「え?」




「あ……」




 気が付いたとき俺は、背中どころか彼女の前方を。

 そうすなわち、カンナの豊かな胸囲をわしづかみにしてしまっていた。


「おっ……おッ……!?」


 俺としたことが。

 なんてことだ! やってしまった!

 我を失い……エロハンド……!! 強制わいせつ……!!


「す、すすすすすす、すまんっ! お、俺、なんてことを……!」


 滝のように、汗が滴り落ちる!!


「本当にすまん! 殴ってくれ! いや警察を呼んでくれ! 俺はとんでもねえことを――」


 むにゅん。


「……へ?」


 また、やわっこい感触が手のひらにきた。


「……ど、どうぞ……」


 カンナは、顔を耳まで真っ赤にしながら、おのれのバストをつかんでいる俺の両手を、さらに自分の手のひらで覆って――むしろ、もっとやれとばかりに、グイグイと押しつけてきて――お……お……!?


「な、な、なにを? カンナさん……?」


「ど、う、ぞ。……って言いよると。……山田くんやったら……全然OKなんやけん……」


「ほ、ぅ……あ……!?!?!?!?!?!?」


「前も言ったやん。……10分くらいなら……いいんやけん……」


 カンナは、そっと目を閉じた。


「気の済むまで……しちゃりやい……」


 NOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!


 サラサラの金髪&うなじから漂ってくる女の子の匂い。

 両手全体に伝わってくるむにゅんむにゅんした感触。

 すべてが俺の理性をドロドロに溶かした。あかん。あかんぞ、俺。ヒカリを裏切るな。



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【山田くんって、優しいんだね。いままではあまり話したことなかったけれど、これからよろしくね!】


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 NOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!


 テレビ画面ではよりにもよって『スクールメモリアル』でヒカリが出てきて笑顔のシーン。

 ヒカリの前でこんないけないことを! ネトラレものはさんざん見てきた俺だったが、ヒカリ視点で見ればこれはまさに旦那をネトラレ。まさか俺がネトラレもののヒロイン的立場になるなんて。


 ああ……

 でも……

 しかし……


「か、カンナぁッ!!」


「あ――や、山田くんっ!!」


 俺がけだもののような声をあげた、そのときであった。




「山田先輩、さっきからなにをされているんですか――え?」




 あかりちゃんが。

 部屋の扉を開けた。

 俺はカンナを押し倒しています。




 おっふぁあぁぁぁぁあぁああ!?!?!?!?!!?!?!?




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