――必ずあんたの一番になれるごと、ちかっぱ頑張るけん!
「……はぅ」
思わず、吐息が漏れた。
あたし、なんちゅうこと、言ってしもうたっちゃろ。
あたし、二次元の世界に宣戦布告しちゃる――そんなことも言うてしもうた。
あの言葉は、山田くんの好きなアニメ――だっけ? ゲームやったっけ? あれを否定することになるんやなかろうか……。
そんなことしたら、山田くんに本当に嫌われてしまう。あたし、山田くんにだけは嫌われとうない。
でも、でもでも。……あたし、言わずにおれんかった。
だって、だって、本当に好きやけん。
山田くんと付き合いたいけん。
フラれておしまいだなんて、絶対に嫌やけん。
だから、二次元の女の子が好きだって言われても……。
あたし、その二次元の子に負けたくないけん!
山田くんの一番になりたいけん!
やけん、やっぱり宣戦布告。
あたし、絶対山田くんを振り向かせてみせるし!
でも、どうしたら振り向いてもらえるっちゃろ?
アニメとかゲームの子にできんで、あたしにはできることを探さな。
………………。
色じかけ?
『山田くん。あたし、あんたにやったらなにされてもよかとよ? ……もう準備できとるけん。女に恥ばかかせんで……』
『チューして、チュー。ほら、はよ。こんなに待っとうっちゃけん。ほら、はよ。はよはよ。……あっ、もう。……えへへ、くすぐったかあ……』
『もう……なして、そげなところ触ってくると? そこはお・へ・そ。……あっ、女の子のおへそ触るの好きなん? 変わっとお……。あっ、やらしか手つき……好かん。いっちょん好かん。……うそ。……好いとうよ……』
う、わーーーーーーーーーー!
ちがうちがうちがう、なん考えようとあたし!
あたしとしたことが、あたしとしたことが……!!
こういうんじゃなくて、もっとこう、ピュアーな感じの作戦やないと!
いかん、いかんよ。えっちな子はきっと嫌われるけん!
……でも……
山田くんと……ちょっとくらいなら……そういう関係に……
ちがーーーーーーーーーーう!
いやらしかっ! ほんなこつ、いやらしかっ!!
もうあたし、どげんしたっちゃろうか!? たまらんちゃん!
もう、山田くんが好きすぎてどうにかなっとるごたる!!
………………。
心臓が破裂しそうなほど、バクバク言いよる。
……あたし、いつも教室じゃクールな顔をしとるけど。
今日に限っては、表情を保つだけで必死だった。
山田くんのほう、思わずチラチラと見てしもうて。
山田くんから、ときどき妙な目で見られた。
やっぱり、変な子と思われたばい。
どげんしよ。
……いまちょっとだけ、中学3年生のころを思い出しよった。
東京に転校してきたあたし、博多弁を同じクラスの子にからかわれて。それで自分がうまく出せんようになって、ひとりぼっちになって。
さみしかった。誰からも相手にされんで、辛かった。クラスの女の子たちが、ときどきこっちをチラッと見てはクスクス笑ってくるのが、腹立たしいやら悲しいやら。あたし、人間そのものを嫌いになりかけよった。自分のなにが悪いのか、どうしてそこまで嫌われなきゃいけないのか、どうしたらみんなに笑われずに済むのか。そればかり考えよって……。
――高校に上がって、博多弁をやめてからは、いじめはなくなった。男子からはいっぱい告白された。好きだって言われた。やけどそんなの、ちっとも嬉しくないけん。あたしに近寄ってきた男子、ほんの少しもあたしのことを知らんくせに。それで好きだと言われても、困るだけやん?
でも山田くんは
人間って、たったひとりのひとが、一緒にいてくれるだけで、こんなにも嬉しくなれるんやね。こんなにも、あったかい気持ちになれるんやね。
……あたし、山田くんが好き。大好き。本気で好き。
アニメやゲームの子がライバルでも、負けたくない。
やけん、頑張る!
絶対、あたし、彼女になってみせるけん!
ゲームの女の子が相手でも、勝つけんね!
…………。
でも、山田くんは、どうやったらあたしを好きになってくれるやろ?
むむむ。
……やっぱり、色じかけしかなかやろか?
『ふふ、山田くん。案外、敏感なんやねぇ……? 耳たぶに、ちょーっとだけ、ふ~ってしただけやのにね? ……したら山田くんも、あたしにしてくれる? ほら、ふ~って。……あは、もう、どこに息吹きかけよるんよ。くすぐったかぁ――』
ち・が・うッ!!
なんでそこで変な妄想でてくるん!?
あたしの馬鹿。ばかばかばか。ほんなこつ、アホやなかろうかっ!?
と、とにかくいまのあたしは山田くんの好きなゲームとかアニメの女の子に勝つことが目標! 二次元の子よりあたしのほうがいいって思わせな!
敵国降伏、敵国降伏! どうか神風ば吹きますようにっ!!