「あなたと一緒に未来を作るため、かな」
西崎が真顔で言う。
「地震の緊急アラートに疑問を感じて調べた結果、ここに辿り着いたんです。そしてあなたが地学会を動かし、多くの人の命を救ったことを知った」
「…………」
「これまでいろいろと調べてきたんです。人類の未来はやはり絶望的なのかもしれない。そして考えたんです。普通に生きようとしていた僕にできることはないかって。その結論があなたでした。あなたや良助くんのような強い意志がなければ、人類の運命は変えられない。滅亡をまぬがれない。そう思ったんです」
「…………」
「人類の未来を築くためには高橋さん、あなたのような強い力が必要なんです」
西崎の言葉に霞は目をつぶり、微笑みながら、答えた。
「その口説き文句、とってもうれしいんだけどさ、半年前に言ってほしかったな」
「え?」
「あなた『西崎さんであって、西崎さんではない存在』ね。そうでしょ?」
「意味がわからない。僕は僕だけど?」
「残念だけどあなた、異次元の臭いがプンプンするのよ」
「……どういうことかな?」
「全然西崎さんになりきれてないもの」
「…………」
(もし本当の西崎さんであれば、ピンチのわたしをほっとくわけないし)
「…………」
(というか一般人がどうやってこんなところに入るのよ……)
「予想以上に、疑り深いな」
(やっぱり人の考えを読めるのね?)
「…………」
(あなた未来のアシュレイでしょ? 草吹の研究で、少し蓋が開いちゃったのかしら?)
「!」
(どこでひねくれちゃったのかしらね?)
西崎はにやりと笑った。
(どうせめんどくさくなったんでしょ? 人間の管理が。早いうちから歴史を変えてホログラムに置き換えれば楽だもんね。それとも教育を徹底して、けだもののように見境なく交尾させればいいじゃん、とか思ってる?)
「ダメかな?」
(……最悪)
霞の眼が光り、西崎に銃口を向けた。
彼を見据える冷徹なまなざしは、霞の心の奥底に封印されていた
「物理攻撃が僕に通用するとでも?」
笑みを浮かべたまま、西崎が不敵に問う。
(あなたにじゃない。後ろのシステムタワーごと吹っ飛ばす)
当然自分の命も吹っ飛ぶが、承知の上だった。
「おやおや、入院患者全員を避難させたとでも思ってるのかな?」
(何?)
「このタワーを介し、人工知能につながることでしか生きられない患者もいるのですよ」
(…………)
「植物状態で意識は仮想世界の中、だけどね。それでも生きている人間です」
(…………)
「ここですよ」
(なにっ‼)
瞬間的に距離をつめた西崎に、霧はまったく反応できなかった。
――ボスッ!
「グハッ」
ひざで腹を蹴られ、腰が折れ曲がる。衝撃が背中を突き抜けた気がした。
かろうじて西崎の足にしがみつき、歯を食いしばって顔をあげた霧の瞳に、彼のにやけ顔が映る。
「弱いな」
言葉とともに伸びてきた西崎の手が霧のひたいを掴んだ瞬間、精神攻撃が頭を貫いた。
(しまったっ! 身体がっ!)
「いうことをきかないだろう?」
西崎が蹴り足をゆっくりと下げると、霧は目を見開いたまま、彼のひざから力なく崩れ落ちた。手にしていた銃が冷たい音を立てて床を転がっていく。
「僕は草吹のようなオールドタイプとは違うのですよ」
霧の横腹を蹴り上げ、仰向けに転がす。
「ノバスコシアから派生したシステムロック、あれを解除すれば命だけは助けてあげましょう」
(そんなの知らないわよ!)
声の出せない霧の目線に西崎の顔が下りてきた。
「興味があったのですよ。リアルな人間の生殖行為とエクスタシーに」
そう言って霧の上にまたがると、服に手をかけ、凄まじい力で引き裂いた。
(うっ……)
「どうですか? 神に肉体も精神も支配される気分は?」
西崎の手が霧の股間に伸びる。
(あ……ああっ!)
突如、システムタワーが青白い光を発し、部屋の床全体をぼんやりと照らす。周囲は、煙のように立ち昇る青いオーラに包まれた。
「ん?」
霧にまたがったまま振り返った西崎の背後に、目をつぶった少女が青白い光に包まれ、立っていた。
「な、なんだ? う……うわっ!」
透き通るような少女の右手が向けられ、西崎の顔が引きつる。
――あなたの役目も終わりです。行きなさい、次元のはざまに
部屋に少女の声が響くとともに、西崎の身体も青い炎に包まれた。
「きっ……貴様だったのかぁっ……うわああぁぁっ‼」
驚愕の声を上げた西崎の体は虹色の線に分解されながら徐々に薄れ始め、少しずつ消えていく。
(なっ、何が? あっ!)
意識を呪縛から解放した霧は、その光景を目の当たりにし、絶句した。
そびえ立つシステムタワーの右角にあるコア、その直径5cmほどの赤い光に、自分にまたがる西崎が虹色の幻影となって吸い込まれていく。
――彼をこの世界に残してはダメ。あの赤いエネルギー源を破壊して
霧の脳に聞き覚えのある声が響いた。
(そんなことしたら、あなたも!)
――あたしは大丈夫。早く、この世界の未来のために
霧の目に涙がにじむ。体は起こせない。
だが迷う暇はなかった。
左手で髪の結び目からダーツを引き出すと、歯で安全ピンを抜く。
(ごめん……)
心の中でそう謝ると、霧は目標に向けて手を振った。
放たれたダーツは虹色の線の上を綺麗な弧の軌跡を描いて飛び、赤い光源に命中する。
――ピンッ
――ボン!
ダーツの信管から中に仕込まれたプラスチック爆薬が破裂し、光源を破壊した。
虹色の光線が消えると同時にシュッという音を立て、自分にまたがる西崎がその重さを失うとともに、軽くはじけた気がした。
姿を消した西崎の引き絞るような声と少女の言葉がかすかに脳裏にこだまする中、霧の体を電流が走る。
そのショックで