「えっ! お父さん……なんで!? かっこいいんだけど!」
びっくりした霞は思わず口に手を当てた。
いつも見慣れているはずの聡の顔が、眼鏡でキリッと引き締まって見えたのだ。知的さが際立ち、霞はドキッとした。
「だからそんなキャラじゃないから……」
メガネを返しながら聡が渋い顔をする。しかし霞は京子の言葉の意味がわかった気がした。ギャップや意外性に人は心を動かされる、ということを。
「というかお母さん、この聡さんを
「違うわよ! ただ単に今のあんたのような、モテモテ感を味わいたいだけよ」
「そんなもの、少しも味わっておりませんが‼」
京子に反論しながら霞は、女の欲望に際限がないこともわかった気がした。
「だからあんたはダメなのよ! あんたの代わりに私が玲くんと雅也くんを調査してあげてもいいのよ? っていうかむしろ、代わりなさいよ」
「なんていうか、笑えない……」
再び暗い顔を腕にうずめる霞。
「まあ、相手に黙って撮影するのは一般的に良くないことだしな」
聡が無理やり話を変えようとする。
「わたしらが言っても説得力ないけどね」
自分を棚に上げて霞が答えた。
「だけどもし、霞に似たキャラクターがいたら、三人ともどうしてたと思う?」
眼鏡をかけなおし、動画を三回見終わった京子が、にこにこして口をはさんだ。
「やめてよお母さん、そんな気持ち悪いこと言うの」
顔をあげた霞が心底嫌そうな表情で手を振る。
「絶対盛り上がっていたと思うわよ、彼ら」
「……考えたく、ない」
「あんただって良助くんにするでしょ? スキンシップ」
「自分がするのはいいけど、男の人からされるのは嫌なの」
「自分勝手よね~」
「それは……そうなんだけどさ」
「でも、されたことないんじゃないの? 最近」
「そういえば、ないな……良助からも」
「あんたの、男を寄せつけようとしないオーラって、強烈だもの」
「そうなの?」
「そうよ。だから言ったじゃない。昔の方がまだ可愛げがあったわよ。実際、何か言われたんじゃないの? 西崎くんに」
「えっ?」
西崎の言葉を思い出した霞は、赤面した。
「だからもし、その『B級アダルトチャンネル』のリストの中にあなたみたいなキャラクターがデレデレ状態でいたら、あの子たち、相当興奮していたに違いないわ! 間違いなく全会一致で指名されていたと思うわよ!」
「ちょっとやめてよお母さん! そんな話、聞きたくない!」
しかし霞は、自分の最初の任務のことを思い出し、その時の中学生と今日の三人の行動を照らし合わせて考えてしまっていた。
「だけど、いつの時代になっても、ヘッドセットかぶってるところを他人に見られるのは、恥ずかしいもんだな」
聡がもう一度話題を変える。
「絵的にありえないものね。そのインパクトが強すぎるから私、今でも組織にいるのかも」
「どういう意味?」
テーブルの上にあごをのせた霞が京子に聞いた。
「ほら、うちって仮想世界は対象外じゃない? だからうちの一般職は仮想嫌いが集まってるのよ。もちろん仮想世界担当部署もあるけど、どっちかっていうと変わり者の集団で……って、思い出した! 沢口靖乃!」
「あっ! 『仮想研』の沢口か!」
聡も声をあげる。
「そう、仮想研の女! でも彼女はリストアップされてなかった!」
「いや、確かに何かある。俺もその線であたってみるよ」
そう言って立ち上がると、聡は自分の部屋に戻った。
「ええっ? なになに? どういうこと?」
意味がわからない霞が顔を上げる。
京子は少し考えて答えた。
「尾崎くんの事件、手がかりがまったく見つからなかったの。それこそ『来訪者案件』かも? って思うほどに。けどもし、西崎くんと聡さんの推測が当たってたら、解決するかもしれないわ!」
「そっか、そうだよね……」
小さくうなずきながらも、浮かない表情の霞。
「西崎くん、どこでその情報を掴んだのか知らないけど、凄いわ」
「そうだね。かっこいい」
「……あんた、人の話聞いてる? 私たちの任務の話なのよ」
「だって関係ないもん。わたし今、外されてるしー、そもそも全然知らされてなかったしー」
「しょうがないじゃない。あんた、試験に集中しなきゃいけない状況でしょ?」
「でもさー、良助だって知ってたのにさー」
霞はふてくされたままだ。
「まったくこの子は。言っときますけどねー、西崎くんだってあの三人と同じようなことしてんだよ?」
「いやいや、それはない、全然違うよ。彼女さんだっているし」
手を振って否定する霞に京子はため息をつくと、メガネをくいっとあげて言った。
「あんたがそう思いたいのは勝手だけどさ、良助くんだってあっという間にあんたを追い抜いて、その先にそうなってるわけだよね?」
「…………」
「男なんてみんな一緒なの! 西崎くんだって絶対エロ動画見てオナ○ーしてるんだから」
「娘に向かってそんな話するなーっ‼」