「以上です」
霞は自分の部屋のベッドに腰を下ろし、西崎のことを署長に報告した。
『では西崎司をターゲットから外してもよい、ということか?』
「はい。もちろんわたしが会った時点で彼が
カムチャッカという組織に所属する人間が特別に許される行為、それは「嘘をつくこと」だ。一般人が他人をあざむいたり、害そうとする気持ちを抱けば、程度に応じて悪意センサーが反応し、場合によってはターゲットリストに入ることになる。だが霞は自分のような例外が存在することも理解していた。西崎が組織から
『それは問題ない。リストから外しておく』
「よろしくお願いします」
そう言って霞は連絡を切った。
「ふー」
ベッドの上で横になり、ため息をつく。職務上やむを得ないとはいえ、嘘がつける相手とずっと応対しなければならないのは疲れる、と思った。なんせ自分は猜疑心の塊で、しかも所属している組織のメンバーみんながそうなのだ。結局、良助といるのが一番楽なのだ。
――こんこん
ノックの音が響いた。
「はい」
「霞ちゃん、どうだったの?」
「あ、すぐに行きます」
部屋から出た霞は京子とテーブルをはさんでお茶を飲みながら、経緯を説明する。
「というわけで、西崎さんは白ということになり、署長からもターゲットから外すと言われました」
「そう。何事もなくてよかったわ」
「ご心配をおかけしました」
「霞ちゃんが悪いわけじゃないわ。時代が悪いのよ」
「時代、ですか?」
「うん。なんでこんな時代になっちゃったんだろうね」
京子は心底不満そうだ。
「昔はもっといい時代でした?」
「うーん……なんとも言えないけど、人間らしい生活をしていたかな、みんな」
「今はそうではないの?」
「なんていうか、幸せかもしれないけれど、健全ではない、ってところかな。
そう言って京子がお茶をすする。だが、霞は彼女が童顔に似つかわしくない話をするのがおかしく思えた。
「京子さん、最近どんなことしているんですか?」
「えっとね、『来訪者』の調査」
「来訪者?」
「雲を掴むような話なんだけど、人間のように見えて人間じゃない者っていうか、正体不明の存在。人類の敵かどうかもわからない」
「そんなの、いるんですか?」
「よくわかってないの。上層部からもあまり情報流れてこないし。ほら、最近ターゲット設定の基準だってあいまいでしょ?」
「そうですね……え? それと関係あるんですか?」
「ううん、実際はまだターゲットの対象とかに降りてきてはいないみたい。けど、いるらしいのよ、どこから来たのかわからない、未知の存在が」
「
「わかんない。どう思う?」
「検討もつきません。というか、もしそんな相手と戦うことになったら、どうすりゃいいんだろ? 一般人と判別つかないのかな?」
霞が真顔で考えるのを見て、京子の表情がくもる。
「本当は霞ちゃんにそんなこと言ってほしくないんだけど、って矛盾してるよね」
「あ、すみません。つい――」
「ううん、いいの。愚痴になっちゃった。今日は疲れたでしょ? 早めに休んだら?」
「そうですね。おやすみなさい」
「来訪者……か」
自分の部屋で霞は一人、つぶやいた。