そのまま涼音をメンバーに加え、円卓でのミーティングが続く。
「スカンディナビアが仮想世界の技術とつながっている点については、どう考える?」
玲が次の議題を提示した。
「博士の話では、仮想世界の研究は公開されてないってことだったよな? プライバシーの問題で」
片肘をついた良助が聞き返す。
「そうだ。だからもし、仮想世界の技術をスカンディナビアが取り入れていたとして、それが大学病院側に流れているとしたら――」
「やっぱり草吹って医師の発言に矛盾がある、ってことかな?」
真奈美が思ったことを口にした。
「……博士……も」
「そうだな。博士も仮想世界の技術が転用されていることを知り得たはずだからな」
良助がつけ加える。すると雅也が手を挙げた。
「そうなんだよ。けど僕は仮想世界はやっぱり、公開されてないと思うんだ」
「ん?」
「なんでだ?」
玲と良助が反応した。
「仮想世界やホロの人工脳の研究を本格的に進めているのは、実はアシュレイじゃないか? って疑ってるから。スカンディナビアではなくて」
「まてまて、アシュレイってマスターだろ? システム全体の意思決定とか、判断基準を示すためのものだろ? 自分で動くか? 他の機関に作業を割り振るのが仕事じゃねーのか? 言ってみればオレらの中での玲の役割だよな?」
「あら、玲ちゃんは自分でも動いてるわよ?」
真奈美が口をとがらせる。
「わかってるさ。だが合理的にできているからこそのシステムだよな? マスターがそんなことするか?」
「以前、博士が僕たちに人口問題について話してくれたんだ。『減った人口分をアシュレイは仮想世界のホログラムで埋め合わせようとした』って」
雅也がそう答えたところで玲が口をはさんだ。
「確かにその話は俺もまなみんも聞いていた。だがそれは『アシュレイが仮想世界システムにダミーを作るよう
「それだとさっきの矛盾が生じるだろ? けどもし、アシュレイが脳波解析の技術を持っていて、それをブラックボックスのままスカンディナビアに渡しているとすれば、そしてそのブラックボックスを大学病院が解析しようとしているのであれば、
雅也が力説する。
「さすがにそれは性善説に立ちすぎじゃねーか?」
「まあ、あくまで仮説だから。ただ性善説ではなくて、むしろ性悪説なんだけどね」
良助に笑って答えたそのとき、顔をあげた涼音と玲がほぼ同時に言った。
「……そこに……ノバスコシアが……つながったら……」
「そこだったのか!」
「だーかーらー! なんでお前ら、それだけで会話が成り立つんだよ!」
いつものやり取りを前に、雅也がまとめて説明する。
「二人が考えたのは『ノバスコシアの未来予測能力』がもし、スカンディナビアにも大学病院にも無いもので、それを大学病院が秘密裡に手に入れようとしているとしたら? ってことさ。僕たちが泳がされ、狙われる理由として。だって今僕たちがやってる『時をつなぐ演算』って、もろに大学病院のターゲットになりそうな話だよね? 博士が消えた理由、博士のデータを回収したかった理由にもつながりそうだし、ソフトを作って未来予測を立証しようとしていたこととも辻褄が合ってくる。彼らが裏の機能付きで僕らにソフトを渡したってことは、少なくとも博士の存在を認識していたってことだから」
「お前もそんな怖いこと、よく、しれーっと言えるよな!」
「なんで? ぜんぜん怖くないよ。だって、演算が終わるまではまだ時間あるし。それまでは手は出してこないだろうしね」
「いやいや、相手がすでに未来を予知できていたら、怖いじゃねーか!」
「どうして? 予知できてないと思うよ。もし確実に予知できているんだったら、わざわざこんな手の込んだことする必要ないじゃん。中途半端な予測なら、またぶち壊せばいいだけだし」
「お前のそのテキトーな感覚、ついてけねーよ! ってかオレら、どこからどこまで泳がされてんだよ!」
「とりあえずまなみん、これまでの仮説を簡単にまとめてもらえるか?」
玲が二人の会話を切るように真奈美に話を振った。
「オッケー! って、ぜんぜんオッケーじゃないわ‼ むちゃくちゃ話が膨れ上がっちゃってるじゃない! どう簡単にまとめろってのよ! っていうか、演算結果が出る前に守りを固めなきゃいけないってこと?」
「……大丈夫」
「え?」
「……六人だけなら……セキュリティに……ぬかりは……ない」
すました顔で涼音が答えた。