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(60)ま た お 前 か

「ふー、やっと帰って来れたぜ」


 雅也と良助が大学の正門まで戻ってきた。


「そういえば、初めてここに来た時、いろいろ行ったなあ」


「え? お前、ほかのセクションに立ち入ったことあるのか?」


「うん、ちょっとだけどね。今から行ってみようか?」


「そりゃ興味はあるが、早く帰らねーと玲やかすみんが怒るんじゃね?」


「大丈夫だって。ちょっと寄ってくだけだから」



 ◆◇◆



「……ん?」


 第4演算室でモニターを見ていた涼音が突然顔をあげた。


「どうした?」


 寄って来た玲がモニターをのぞき込む。


「……違うの……何か……音が……したような……爆発音?」


「なに?」

 固まる玲。


「なにか聞こえたっけ?」

「確かに何か音がしたかも。外から」


 そう言って真奈美と霞が演算室の外に出る。しかし特段何かが起きたような形跡はなかった。


「気のせいだったのかしら?」


 そのまま演算室の周りを歩く二人。構内に人の気配はない。


「けど雅也遅いなぁ」


「やっぱり気になる?」


「うちらの中でバカやってるのって、あの二人とあたしだけじゃない? 今日はみんなあんまりしゃべらないから間が持たないっていうか」


「そんな悩みがあったのね。サーバーの音しか気にしてなかったわ」


「いやいや、悩みなんて大げさなもんじゃないけどさ」


 そんなことを話しながら二人とも演算室に戻る。


 中では引き続き涼音がモニターとにらめっこしていた。


「……ん?」


「どうした?」


「……大学に……該当する情報……ないみたい」


 振り返った涼音が玲に向かって答えた。


「あのソフトは大学病院のオリジナルの可能性が高い、ということか?」


「……そう……みたい」


 その涼音の言葉に玲が考え込む。


(研究のやり取りがまったくない、となると大学病院はスカンディナビア経由のみで博士の存在を特定した、ということか? そんなことが可能なのか?)


 ちょうどそのとき、雅也と良助が帰ってきた。


「お帰り! 遅かったわね。どうだった?」


 真奈美が二人を出迎える。


「こいつ、完全に大学病院に喧嘩売ってきやがった!」


「いや、その方が相手の態度がはっきりするんじゃないかな、と思って」


「どういうことだ?」


 玲の言葉をそのままに、二人は荷物をおろすと、ゆっくり椅子に座る。そして、


「単純にリアルホロって存在すると思いますか? って聞いたんだ。そしたら、聞いたことないって。大学病院では研究されてないと思うって」


 雅也がシャルロットをほおばりながら話し始めた。


「ふーん。それで?」


 そう言って真奈美が二人にコップを手渡す。


「ホロと視覚映像については、ヘッドセットを装着して見る世界は視覚記憶に残るんだってさ。仮想世界、学校もだけど、現実世界のホロとは技術的には別物なんだって」


「ほかには?」


「いや、待て、スカンディナビアの学校世界は、仮想世界をベースに作られているってことか?」


 真奈美を手で制して玲が聞いた。


「ん? 何かおかしいか?」


 良助が聞き返す。


「仮想世界の技術はブラックボックスのはずだろ? スカンディナビアが同じ技術を使っているってことは、スカンディナビアはそこに切り込んでいるってことじゃないのか?」


「そこまではわからないんだ。アシュレイ経由かもしれないし。あと、僕らが借りたソフトのことについては、何も言ってこなかった」


 シャルロットを食べ終え、水を飲みながら雅也が答えた。


「こいつ、敢えてソフトを解析してることをにおわせながら言ったんだよ。ヘッドセットかぶれるようなリアルホロってないですか? って」


「うわっ! 担当者ってあの草吹先生?」


 霞が顔を引きつらせた。


「ああ。顔色一つ変えなかったぜ」


「ってことは、アシュレイが容認しているってことなのかな?」


 真奈美が良助のシャルロットに手を出しながらつぶやく。


「そりゃまあ、ソフトを開発するだけなら問題にはならないと思う。何らかの権利侵害がなければ。大学病院にしたってスカンディナビアから生徒のデータを受け取ってるって証拠が表に出なければ痛くもかゆくもないはずだよ」


 水を飲み終えた雅也が一息つきながら答えた。


「でも安心したわ。雅也くんのことだから、いきなり今回の本質を切り出すんじゃないかと思っていたのよ」


「そりゃ僕だってほかにもいろいろ言いたいこと聞きたいことはあったよ。だけど――」


「まあ、事前にオレが釘刺しちまったからな。でも実際、冷や冷やしっぱなしだったぜ」


 良助が口をはさんだそのとき、サーバールームの音が急激に静かになった。


 立ち上がった涼音がデータを取り出しにかかる。


「……結果が出た……9割の部分……推測通り……だった」


「おおっ、やっぱお前らすげーな!」


「……残りの……1割……時刻測定機能……みたい」


「は? なんだそりゃ?」


 良助の言葉の後、涼音が振り向いた。


「……雅也くん」

「はい」


「……この1割の……ライブラリ……端末に……落とせる……かな?」


「うん、いいよ」


 涼音のデータを受け取り、作業にかかる。


「……二つ目の……動画のヘッダー……読み込んで」


「わかった」


 雅也が操作すると、画面に十桁の数字が表示された。


「なんだこれ? 28210956……」

「……西暦……換算」


 良助の言葉が終わらないうちに涼音が言う。


「あ、なるほど!」


 そう言って雅也が関数にその数字を入れると、


『2059/05/25 13:41:33』


 と表示された。


「そういうことだったんだ……」

 雅也がつぶやく。


「およそあと二年ね?」

「ほぼ一致するな」


「待て待て待て! なぜかオレだけ話についていけてないようなんだが?」


 良助には真奈美と玲が何を言っているのかわからない。


「さっきまで一つ目の動画から二つ目の動画までの間の期間も調べていたんだが、演算の結果、ほぼ二年間ということが判明した。そして、この二つ目の動画は西暦2059年5月25日の予定らしい。つまり時間軸的には一致する、ということだ」


 玲が良助に説明する。


「いやちょっと待て。ありえなくねーか? 普通はその動画を『イメージした時の日付』が表示されるはずじゃね? 動画自体は予知された未来だとしても、その場合だって予知を行った日時、つまり今回なら博士がヘッドセットをかぶったあの日の晩の時間が表示されるんじゃねーの? いくらなんでも予知能力を前提に――」


「そのまさかだよ」


 雅也が答えた。


「は?」


「このソフトは『博士の予知能力を想定してプログラミングされていた』ってことさ」


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