真奈美たちが夕飯の準備をしている間、玲、雅也、良助はソファに座って考えていた。
「ところで雅也、明日大学病院で何を聞くつもりだ?」
おもむろに良助がたずねた。
「そりゃリアルホロの存在だよ。そんなものがあるのかどうか」
「やっぱ博士がロボットかもしれないってことか?」
「考えたくはないけど。ただ、博士の場合はロボットっていうのとも違うと思うんだ。あの状況から
「でもよ、人間じゃないのにリアルな人間っぽいってことは、ロボットって言えるんじゃねーのか?」
「デックの言わんとすることもわからんではないが、大学にある人体ロボットでピンとくるものがあるかっていうと、ないだろ? 受付ホロの方がよっぽど雅也のイメージに近いんじゃないか? 現れたり消えたりできるところとか」
「そう、まさにそんな感じ!」
玲に雅也が答えたそのとき、キッチンのドアが開き、真奈美が出てきた。
「おまたせ! 運ぶの手伝って~」
「はいはい、今日は何かな?」
「雅也の好きな、ビーフシチューよ~♪」
(しっかり餌づけされてるな)
玲がそう思う中、良助が苦笑いして言った。
「なんでも出てくるな。この家は」
◆◇◆
「そういえばかすみんの部屋、どうなってた?」
シチューを食べながら良助が聞いた。
「完全につぶれてたわ」
「マジか! 大丈夫かよ?」
「荷物はここに避難してたから問題ないけど、少しショックね」
「ということは、あの占いの塔のカードは、やっぱり、地震だったのかなぁ?」
スプーンをくわえながら真奈美がつぶやく。
「なんの話?」
「実は涼音がかすみんのこと、占ったのよ」
「わたしのこと?」
「そう。頑張っていれば、最終的には道が開けるんじゃないかって結論」
「涼音にそんな趣味があったの? そのほうが驚きだわ」
「おっとそうだ、こないだオレら四人で自分のこと語り合ったんだけどさ、雅也とまなみんからは聞いてなかったんだ、お前らどんな感じで生きてきたんだ?」
良助が話題を変えた。
「え? あたし? 見たまんまだよ。植物育てたり、料理したり、ピアノ弾いたりするのが好きかな。平和主義っていうか」
「男にとっての理想の女の子って感じか?」
「そうかな? 好きでやってるだけなんだけどな」
(そこまで一般化して言うのは詐欺に近いな)
玲は内心そう思ったが、口には出さなかった。
「玲ちゃん、さっきから黙って食べてるけど、お口に合わなかったかな?」
「い……いや、うまいぞ」
玲が食べながらそう答えたとき、雅也が思い出した。
「あ、そういえばこいつさ、料理するんだよ」
「「「ええっ?」」」
真奈美と霞と涼音が同時に声をあげる。
「ばか! ばらすな!」
顔を赤くして玲が怒った。
「いいじゃん別に。かっこいいじゃん、男の料理」
気にせずシチューをほおばる雅也。
「それこそ意外すぎだろ、お前。無駄なことはしない主義かと思ってたぜ」
食べ終えた良助が感心したような表情を向けた。
「いや……単に……趣味だ」
「(知らなかった!)女子にとって理想の男ね」
霞が目を輝かせる。
「えっ?」
玲が固まった。
「今度うちで作ってよ、食材はいっぱいあるからさ~」
真奈美が無邪気に言う。
「あ、ああ……まあ、そのうちな。というか、まなみんの料理の方が全然おいしいぞ」
「じゃあ、あんたの得意料理はなんなのよ?」
「得意料理というか、本当に好きなのはお菓子作りだ」
「マジで!?」
「素敵!」
真奈美と霞の声色が変わった。
「……明日……よろしくね」
涼音が付け加える。
「……はい」
◆◇◆
真奈美・霞・涼音の三人がキッチンで食器を片づけていたとき、
「まなみん、ごめん、今日も泊っていいかな?」
霞が真奈美に手を合わせた。
「もちろんよ! 涼音はどうする?」
「……今日は……帰る……お父さん……心配してるし……」
「そっか、そうだよね」
「……今度……ドラムセット……持ってきても……いいかな?」
「もちろん! いつかみんなでバンドやろうよ」
「うん!」
「わたし音楽とかわからないんだけど、良助のバイオリンってどうなの?」
盛り上がる真奈美と涼音の横で皿を洗いながら霞が聞いた。
「これまでどれだけ練習してきたのかわかんないけど、上手よ」
「そうなの?」
「あいつはなにを目指してるのかな?」
「わたしも知りたいわ。それ」
そう答えながら、霞は同じ皿を延々と
◆◇◆
みんなが帰宅した後、風呂から上がった霞と真奈美が布団に入る。電気を消して目をつぶった真奈美に霞が話しかけた。
「まなみん、最近怖い思いしたことない?」
「ううん、ないよ。いつも誰かいてくれるし。なんで?」
「いや、なんとなく。わたしたちがここに常駐していたら、相手に狙われちゃうんじゃないかな、って思って」
「大丈夫だよ。こんな余震がひどい中、誰も外、出歩きたくないと思うし、そんな気にする必要ないと思うよ~」
「でも気をつけて。博士がいなくなった後、狙われるのはあなたのような気がするから」
「どうして?」
「なんとなく、だけど」
「かすみんこそ気をつけて。玲がむちゃくちゃ心配してるよ?」
「え?」
「あいつなにも言わないじゃない? きっとかすみんに、全幅の信頼をおいているのよ」
「…………」
「だけど、内心、心配でたまらなそうだもの」
「…………」
「今日だってかすみんのこと、ずっと見てたし」
「…………」
「うちで倒れた日とかもそうだけど、かすみん単独行動が多いじゃない?」
「…………」
「あいつはああ見えて人情派だし、ちょっとしたことにも気を遣うから――」
「zzz……」
「寝てたのかよ……」