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(57)それぞれの思惑

 真奈美たちが夕飯の準備をしている間、玲、雅也、良助はソファに座って考えていた。


「ところで雅也、明日大学病院で何を聞くつもりだ?」


 おもむろに良助がたずねた。


「そりゃリアルホロの存在だよ。そんなものがあるのかどうか」


「やっぱ博士がロボットかもしれないってことか?」


「考えたくはないけど。ただ、博士の場合はロボットっていうのとも違うと思うんだ。あの状況から影形かげかたちなく消えることが不可能なのは人間もロボットも一緒だし」


「でもよ、人間じゃないのにリアルな人間っぽいってことは、ロボットって言えるんじゃねーのか?」


「デックの言わんとすることもわからんではないが、大学にある人体ロボットでピンとくるものがあるかっていうと、ないだろ? 受付ホロの方がよっぽど雅也のイメージに近いんじゃないか? 現れたり消えたりできるところとか」


「そう、まさにそんな感じ!」


 玲に雅也が答えたそのとき、キッチンのドアが開き、真奈美が出てきた。


「おまたせ! 運ぶの手伝って~」


「はいはい、今日は何かな?」

「雅也の好きな、ビーフシチューよ~♪」


(しっかり餌づけされてるな)


 玲がそう思う中、良助が苦笑いして言った。


「なんでも出てくるな。この家は」



 ◆◇◆



「そういえばかすみんの部屋、どうなってた?」


 シチューを食べながら良助が聞いた。


「完全につぶれてたわ」

「マジか! 大丈夫かよ?」


「荷物はここに避難してたから問題ないけど、少しショックね」


「ということは、あの占いの塔のカードは、やっぱり、地震だったのかなぁ?」


 スプーンをくわえながら真奈美がつぶやく。


「なんの話?」


「実は涼音がかすみんのこと、占ったのよ」


「わたしのこと?」


「そう。頑張っていれば、最終的には道が開けるんじゃないかって結論」


「涼音にそんな趣味があったの? そのほうが驚きだわ」


「おっとそうだ、こないだオレら四人で自分のこと語り合ったんだけどさ、雅也とまなみんからは聞いてなかったんだ、お前らどんな感じで生きてきたんだ?」


 良助が話題を変えた。


「え? あたし? 見たまんまだよ。植物育てたり、料理したり、ピアノ弾いたりするのが好きかな。平和主義っていうか」


「男にとっての理想の女の子って感じか?」


「そうかな? 好きでやってるだけなんだけどな」


(そこまで一般化して言うのは詐欺に近いな)


 玲は内心そう思ったが、口には出さなかった。


「玲ちゃん、さっきから黙って食べてるけど、お口に合わなかったかな?」


「い……いや、うまいぞ」


 玲が食べながらそう答えたとき、雅也が思い出した。


「あ、そういえばこいつさ、料理するんだよ」


「「「ええっ?」」」


 真奈美と霞と涼音が同時に声をあげる。


「ばか! ばらすな!」

 顔を赤くして玲が怒った。


「いいじゃん別に。かっこいいじゃん、男の料理」


 気にせずシチューをほおばる雅也。


「それこそ意外すぎだろ、お前。無駄なことはしない主義かと思ってたぜ」


 食べ終えた良助が感心したような表情を向けた。


「いや……単に……趣味だ」


「(知らなかった!)女子にとって理想の男ね」


 霞が目を輝かせる。


「えっ?」

 玲が固まった。


「今度うちで作ってよ、食材はいっぱいあるからさ~」


 真奈美が無邪気に言う。


「あ、ああ……まあ、そのうちな。というか、まなみんの料理の方が全然おいしいぞ」


「じゃあ、あんたの得意料理はなんなのよ?」


「得意料理というか、本当に好きなのはお菓子作りだ」


「マジで!?」

「素敵!」


 真奈美と霞の声色が変わった。


「……明日……よろしくね」

 涼音が付け加える。


「……はい」



 ◆◇◆



 真奈美・霞・涼音の三人がキッチンで食器を片づけていたとき、


「まなみん、ごめん、今日も泊っていいかな?」


 霞が真奈美に手を合わせた。


「もちろんよ! 涼音はどうする?」


「……今日は……帰る……お父さん……心配してるし……」


「そっか、そうだよね」


「……今度……ドラムセット……持ってきても……いいかな?」


「もちろん! いつかみんなでバンドやろうよ」


「うん!」


「わたし音楽とかわからないんだけど、良助のバイオリンってどうなの?」


 盛り上がる真奈美と涼音の横で皿を洗いながら霞が聞いた。


「これまでどれだけ練習してきたのかわかんないけど、上手よ」


「そうなの?」


「あいつはなにを目指してるのかな?」


「わたしも知りたいわ。それ」


 そう答えながら、霞は同じ皿を延々といていた。



 ◆◇◆



 みんなが帰宅した後、風呂から上がった霞と真奈美が布団に入る。電気を消して目をつぶった真奈美に霞が話しかけた。


「まなみん、最近怖い思いしたことない?」


「ううん、ないよ。いつも誰かいてくれるし。なんで?」


「いや、なんとなく。わたしたちがここに常駐していたら、相手に狙われちゃうんじゃないかな、って思って」


「大丈夫だよ。こんな余震がひどい中、誰も外、出歩きたくないと思うし、そんな気にする必要ないと思うよ~」


「でも気をつけて。博士がいなくなった後、狙われるのはあなたのような気がするから」


「どうして?」


「なんとなく、だけど」

「かすみんこそ気をつけて。玲がむちゃくちゃ心配してるよ?」


「え?」


「あいつなにも言わないじゃない? きっとかすみんに、全幅の信頼をおいているのよ」


「…………」


「だけど、内心、心配でたまらなそうだもの」


「…………」


「今日だってかすみんのこと、ずっと見てたし」


「…………」


「うちで倒れた日とかもそうだけど、かすみん単独行動が多いじゃない?」


「…………」


「あいつはああ見えて人情派だし、ちょっとしたことにも気を遣うから――」


「zzz……」


「寝てたのかよ……」


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