自分の端末に時系列の図を書きこみ、玲が説明を始めた。
「まず、俺たちがここに集まる前から博士はなんらかの予知をしていたとうかがえる節があった。それが何かはわからないが、自分が消えることを涼音に事前に伝えていたことからも以前から予知能力を有していたと思われる。
次に博士はスカンディナビアにもノバスコシアにも関係があった。そもそも仮想世界を立ち上げた張本人だから、もっと多くの機関と関係があってもおかしくはない。ただ、そういった痕跡はすべて消えている。
そして最後、行方不明となった。この段階で考えられるのは、博士は何かの事件に巻き込まれていたのではないか? ということ。そしてそれに今、俺たちも巻き込まれている」
できるだけシンプルに事象をつなげられるよう、図に線を引いてつなげていく。そこで雅也が手を上げた。
「じゃあ僕らが博士に脳波測定を依頼したことは、関係がなかったということ? 別々に考える必要があるのかな?」
「そういうわけじゃないんだが、いったん博士にフォーカスして単純に整理したほうがいいと思った。確かに脳波測定も原因の一つかもしれないが、それだけだとそれ以外のことの説明がつかない。いろいろと見えにくい気がしたんだ」
「だけどさ、こうやって整理しても、わからないことだらけだわよ」
真奈美が困惑した表情を浮かべる。
「これからどうするよ?」
良助が聞いた。
「どこに手掛かりを求めるか、だが――」
「……私……演算したいものが……ある」
玲の言葉をさえぎるように突然、涼音が口を開いた。
「なんだ?」
「……二つの動画の……時間間隔……割り出さ……なきゃ」
二つ目の動画が意味するものが人類の滅亡なのであれば、自分たちには
「でもよ、それ結構時間かかるだろ? これだけ
「大学の演算室なら、きっと大丈夫よ」
「え?」
霞の言葉に驚く良助。
「演算室なら大丈夫。あそこの非常電源、しっかりしているもの」
「本当か? だがこれだけの規模の地震だぜ? 大学もかなりやばいんじゃね?」
「いや、いずれにしても明日一度行ってみよう。研究室がどうなっているのか、気になる」
玲がそう言ったとき、真奈美が思い出した。
「そういえばあたしらの研究室が爆破されたって話だったけど、かすみん見てきたの?」
「ええ。直ってたわよ。元通りに」
「マジでか? オレが逃げる前にあの変な女にめちゃくちゃにされたはずだぞ?」
平然と答えた霞を玲がじっと見つめるなか、おもむろに雅也が言った。
「僕はもう一度大学病院に行きたいんだけど」
「それはだめだ! 危険すぎる」
「さすがにやめた方がいいわ!」
玲と霞が反対した。
「けどさ、このままじゃ
「ならオレがつき合うぜ。お前だけだと、うまく丸め込まれそうな気がするからな」
良助が雅也の肩に手を置く。
「まあ待て、あわてるな。ほかのアプローチも考えてからにしよう」
「それなんだけど、実は僕ももう一つ演算にかけたいものがあるんだ」
玲の制止を振り切るように雅也が付け加えた。
「なんだ?」
「ソフトのソースコードだよ。これを人間用と思われる部分とリアルホロ用と思われる部分に分けて並列的に演算し、僕と涼音ちゃんが分析した内容を立証したいんだ。それと、似たコードがないかを大学のデータベースから検索したい。もし何か見つかれば、このソフトの出所が判明するかもしれない。スカンディナビアのデータとリンクするかもしれないし、博士が消えた理由もわかるかもしれない」
「なるほど」
玲がうなずいた。
「ただ、それを調べたとしても、核心には辿り着けない気がする。大学病院に行くのは今しかないんじゃないかな?」
「それは少し、考えさせてくれ」
自分の意見を通そうとする雅也に対し、玲は結論を出すのを渋った。
「ちなみに、さっきのコードの件、涼音ちゃん、両方ともお願いできるかな?」
「……大丈夫……演算室が……二つ……空いてたら……だけど」
「じゃ、今のうちに予約しておこうか」
雅也が端末を開こうとしたとき、
「それあたしがやるわ。どーせあんたはずっと大学にいるかわからないんでしょ? 明日の朝には道も歩けるようになってるだろうし、早朝出発しようか?」
真奈美が提案した。
「そうだな。そうするか」
やれやれ、という感じで玲が同意する。
「わたしの方は各機関の稼働状況を確認しておくわ。地震のダメージで機能停止している機関がないとも限らないから」
玲に向けて霞が言った。
「頼む」