――ぐらぐら……ぐらぐら……
「来た」
雅也がつぶやく。
――ぐらぐら……
地震が止まった。
「今回は本震よりも小さかったわね……」
真奈美の言葉とともにみんなが一息つく。
「で、どーするよ? しばらく何もできそうにねーが」
良助の言葉に真奈美がにやりと笑った。
「こんなこともあろうかと、昨日準備しておいたのよ! 究極の暇つぶしを!」
「は? なんだ?」
「ちょっと待っててね」
そう言って真奈美は自分の部屋に戻ると、何やら小さな箱を持って戻って来た。
「これよ!」
「なんだ? トランプか?」
玲が箱を手に取って見る。
「ブー。あたしがあんたたちにコテンパンにされそうなゲームを選ぶわけないでしょ?」
「いや、そんなことはないと思うけど――」
「その猫かぶりがあたしに通用するとでも? むしろあんたの心理学者としての適性をはかるゲームよ! 覚悟してね!」
雅也に上から目線でそう言うと、真奈美が玲から箱を受け取り、開封する。
中には絵の描かれた22枚のカードが入っていた。
「
「やっぱゲームなのか」
良助がカードを一枚一枚眺める。
「連想ゲームなの。親は手持ちのカードを一枚場に出してみんなに見せ、なにかキーワードを言うの。そしてそこから導き出される言葉を各自がインスピレーションを働かせながら自分の紙に書く。そして一人一回ずつ親を回した時点で各自の紙を開示して、点数を決めるの。例えばあたしが親で『A』という言葉をキーワードとして言って、答えが『B』だったとする。ほかに『B』と書いた人がいたら、書いた人に人数分の点数が入るの」
「じゃあ誰もがイメージできるわかりやすい言葉を選べば高得点ってこと?」
雅也が真奈美にたずねた。
「もしも全員が同じ答えだったらノーゲームでその時の親はマイナス3点なの。だから、ヒントは簡単すぎてもダメだし、難しすぎてもダメなのよ」
「……そう……なんだ」
「ちなみに自分の紙に同じ言葉を二度書いちゃダメだからね。書いたらマイナス1点」
「なるほど。わかった」
玲がうなずくのを確認し、真奈美はカードをシャッフルして全員に4枚ずつ配る。
カードにはタロットの絵柄が描かれていた。
「最初は練習だから一回ずつ見せあいっこして点数をつけていくわよ。親はあたしからいくわね。キーワードは『あたしの理想の女性像』」
そう言うと真奈美は手持ちのカードの中から「女帝」のカードを出した。
真奈美も含め、みんなが自分の紙に言葉を書く。
「全員書いた? じゃあ答えを確認するわよ」
みんなが答えを開示すると、真奈美の答えは「かすみん」だった。玲の紙には「高橋霞」、雅也の紙には汚い字で「腐女王」と書いてある。良助と涼音は「かすみん」だった。
「一字一句違ってもダメなのか?」
玲が聞いた。
「残念ながらそうなの。っていうか雅也、その答えなによ!」
「え? みんなだったらこう書くかな、と思ったんだけど……深読みしすぎたかな?」
しまった、という顔で雅也が頭をかく。
(こいつ、あたしのこと、本気でそんな風に見ていたのか!)
真奈美3点 玲0点 雅也0点 良助3点 涼音3点
「次は俺か。そうだな……キーワードは『白衣』」
そう言って玲が「隠者」のカードを出した。すぐにみんなが答えを書く。
答えを開示すると、全員の答えに「博士」と書かれていた。
「うっ!」
「玲ちゃん、ひねりなさすぎ!」
あきれる真奈美。涼音も玲にジト目を向けていた。
「雅也なら別の何かを書くと思ったんだが……」
「さすがにそんな度胸はないよ」
真奈美3点 玲△3点 雅也0点 良助3点 涼音3点
「次の親は僕か。じゃあ『玲以外』」
そう言いつつ雅也は「王様」のカードを出した。みんな少し悩んで答えを書く。
開示すると、良助は「雅也」、それ以外は「デック」だった。
「やった! 最高得点」
「え? オレ? 雅也じゃねーの?」
喜ぶ雅也の前で良助が驚く。
「たぶん、さっきのバイオリンのインパクトが強かったのね」
真奈美7点 玲1点 雅也4点 良助3点 涼音7点
「すでに紙に書いた言葉をキーワードに使うのは問題ないんだよな?」
「いいわよ」
「わかった。じゃあ『雅也』」
そう言いながら良助は「愚者」のカードを出した。
「ちょ、なんだよ、それ! 僕になんて書けと!」
しかしみんなは
開示された紙に書かれていた言葉は、雅也は「非常識」、真奈美は「天然」、ほかの三人は「電波」だった。
「みんな僕のこと、そう思ってたのか!」
「……ごめん……勝負……だから」
涼音が容赦なく言った。
真奈美7点 玲4点 雅也4点 良助6点 涼音10点
「最後の親が独走の涼音か。勝負、決まったな」
玲がつぶやいたが、涼音は慎重に考える。そして、
「……地震の……預言者」
そう言って「魔術師」のカードを出した。
みんなすぐに答えを書く。だが良助だけは手が止まっていた。
(そうか! デックは書けないんだ)
そう思った真奈美が右に座る涼音に目を向けると、彼女はさらに右隣の良助をじっと見ていた。良助は、しょうがない、という顔で最後に紙に書きこむ。
答えは全員同じ「雅也」だった。
「えっ? どういうこと?」
良助の紙に二度目の「雅也」が記載される意外な展開に、真奈美が思わず声をあげた。
「だってしょうがねーだろ? ノーゲームにしなきゃ、オレ、ビリ確定じゃねーか」
「でもペナルティあるよ、マイナス1点」
「それでも大差つけられるよりましなんだよ。計算してみろ。オレ3位だから」
真奈美7点 玲4点 雅也4点 良助5点 涼音7点
「あれ? あたし涼音と同点だ。ひょっとして涼音、あたしに花を持たせてくれたの?」
「……違うの……手堅い方法……とっただけ」
涼音はにこにこしながら言った。
「鬼……だな」
玲の言葉にみんなが黙った。