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(52)涼音の直感

 翌日、地震発生予定時刻は午前10時だった。避難警告のサイレンが鳴り響く。


「みんな準備は大丈夫? そろそろ来るよ!」


 二階の博士の部屋に集まる。

 家財道具はすべて低いところに置き、電気も消していた。


 ――ぐらぐら……ぐらぐら……


「来た」

 雅也がつぶやく。


 ――ぐらぐらぐらぐらっ!


 大きな揺れが来た。みんな窓から離れてしゃがみ込む。


「こりゃでかいな!」

「ガラスに気をつけろ!」


 良助と玲が叫ぶなか、外から何かが倒れる音、ガラスが割れる音が聞こえる。


 大きな揺れが数十秒間続いたように感じた。


 やがて、待ちに待った静寂が訪れた。


「おさまった?」

「そのようだ」


 玲の返事に真奈美の口から安堵の息がもれた。


 そのまま窓際に立ち、外を眺める。


 そこには果たして、昨日モニター越しに見た光景が広がっていた。


「見事なもんだな、これだけ当たるとは」


 玲がつぶやく。みんな、自分たちの周りに博士が立っている気がした。


「そうだ、みんな、家に壊れたところがないか確認をお願い。余震警報に気をつけて」


 振り返って真奈美が言った。


 各自、至るところをくまなくチェックする。外からは巡回ロボットが走り回る音が聞こえた。涼音は各機関の損害状況報告をチェックしていたが、


「……あ」

「どうしたの?」


 真奈美が近寄ると、涼音は少し考えて答えた。


「……二つ目……防がなきゃ……」



 ◆◇◆



 応接間で全員が涼音の近くに集まり、モニターをのぞき込んだ。


 涼音は博士の未来予知映像の一つ目と先ほど撮った写真を比べていた。


「ほとんど差がないな」


「ああ。『予知が現実になった』わけだよな」


 玲の横から良助が口を出す。


 涼音がうなずくと、今度はモニターに二つ目の動画が映し出された。


「こっちはよくわからんな、何を伝えたいのか」


「確かに同じ場所だとは思うけど、結局倒壊した建物を片づけて更地にしたってこと?」


 玲と雅也が言ったが、それ以上のことはわからない。



 涼音がもう一度動画を再生する。


「おい……今、何かが動かなかったか?」


 良助が言った。


「え? 何も見えなかったけど?」


 真奈美がもう少し画面を拡大したが、やはりそれ以上のことはわからない。



 もう一度動画を再生する。


「……もしかして」


 みんなが涼音の次の言葉を待つ。


「……画面に……映っていない……何かが……ある」


「画面に映ってない何か?」


 良助が目をこらした。


「何かしら? それ」


 霞もモニターを見つめる。しかしそれ以上のことはわからない。



 もう一度動画を再生する。


「……あ……そうか」

「え? わかったのかよ!」


 良助に涼音がうなずき、モニターを指さす。


「……いる……ホログラム」

「ホロ?」


「……ホログラムが……歩いてる……けど……博士の……記憶では……見えない」


「どういうことだ? あっ!」


 玲の言葉でほかの四人も気がついた。


 ――ホロは視覚映像に映らない――


 画像の色彩が幽霊屋敷のような不気味さを帯びて見えた。


「ホロだけが住む町、ってことかな?」


 言いながら雅也が顔をかく。


「どうなったらこうなるのよ。というかこれって人類滅亡ってこと?」


「わからないわ……」


 真奈美の言葉に霞がこめかみをおさえた。モニターには亡霊の街が映し出されたままで、みんな無言になる。



「おいおい、暗いぜお前ら。景気づけに余興でもすっか!」


 そう言うと、良助は荷物からバイオリンを取り出した。


 外では廃墟と化した街並みを巡回ロボットと警察の作業車が走り回っていた。


 そんな外部の喧騒の届かない部屋のなか、良助は音合わせもそこそこに肩にバイオリンを構える。



 その場の空気が変わった。良助がゆっくりと弓をあげる。



 🎼.•*¨*•.¸¸🎶🎼.•*¨*•.¸¸🎶


 優しい流れから徐々に激しい旋律を奏でていく中、時間が止まったかのように玲は目をつぶり、涼音もうっとりと聴きほれる。良助の話を知らなかった雅也と真奈美は意外な展開に唖然としていた。


 しばらくして曲調が徐々に緩やかになると、みんなの気持ちを落ち着かせるようにエンドを迎えた。



「わー、ベース持ってくりゃよかった!」


 良助がバイオリンを置くと、興奮したように雅也が言った。


「あたし、ピアノ練習しよっかな~」


「そういえば俺もギター、長いこと弾いてないな」


「……久しぶりに……叩きたいな……たいこ」


「お、おい、お前ら、拍手とかねーのかよ!」


「「意外すぎだってば‼」」


 雅也と真奈美が口を合わせて言った。


「あの、みんな楽器とかできるの?」

 霞が驚く。


「じゃあかすみんボーカルね!」

「やるか? オレらでバンドの練習」


「そんな暇って……あるのかしら」


 真奈美と良助の言葉に眉をひそめる霞。


「町の機能が停止してる時ってやることねーだろ? ただこの状況で楽器を持ち出してくるのはさすがに無理か」


「そうだ。わたし、自分の部屋を見てこなきゃ」

「お、気をつけろよ!」


 良助に声をかけられながら霞が外に出た後、余震警報が流れた。


「みんな! 二階に避難するわよ!」

「この家は二階の方が安全なのかよ!」


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