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(50)警察

 しばらくして玲が戻ってくると、それまで考えていた良助が切り出した。


「玲よ、ひょっとしてオレたちはアシュレイと戦っているんじゃね?」


「ん? なぜだ?」


「一昨日からいろいろと信じられねー事ばかりだが、とてもじゃねーが人間の成せる技とは思えねー。だってまるで仮想世界を現実にしたような話ばかりじゃねーか? ひょっとして仮想世界を現実世界に投影させる実験を始めているんじゃねーか?」


「アシュレイが? 何のために?」


「それはわからねーが。ただ、そんなことができるのはアシュレイだけじゃね?」


「お前。雅也に似てきたな」

「あいつと一緒にするな!」


「でもさ、さっきかすみんが言ってた黒幕って、いったい誰なのよ? 人為的な組織ってほかに――」


「……警察」


 真奈美に言いかけた涼音にみんなが注目する。


「……………………だったら嫌だな」


「びっくりさせんな!」


 良助が立ち上がって言ったとき、


 ――ピンポーン♪ 


「はい……はーい」

 インターホンに答えた真奈美が外に出て行った。


「なんだ」

「雅也か」


 玲と良助が口にする。



 ――ガチャ


「みんなおはよー。あれ? 霞さんは?」


 そう言いながら入ってきた雅也は、少しふらついていた。


「警察に呼ばれて出て行った。っていうかお前、昨日寝たのか?」


「いや、全然寝てない」


 良助に聞かれ、赤い目をこする。


「おいおい、大丈夫なのかよ?」


「うん。ある程度区切りがついたし、とりあえず涼音ちゃんに引き継いでから寝ようと思って」


 涼音がこくっとうなずく。

 その横でそれまで黙っていた玲が、涼音のモニターを指さして雅也に言った。


「とりあえず博士が残したデータを一度見てみろ。それで何かがつながるかもしれん」


「わかった」



 ◆◇◆



 雅也を中心にもう一度みんなで動画を一通り確認する。再生が終了したところで、


「この動画なんだけど、場所はあのあたり、二階のおじいちゃんの部屋から見た景色だと思うの」


 そう言って真奈美が窓の外を示した。


「なるほど。ちょっと博士の部屋に上がってもいいかな?」


「どうぞ」


 雅也がふらふらと立ち上がると、真奈美も気づかうように付き添い、二人で応接間を出て行った。


 二階に上がった雅也は博士の部屋の窓際に立つと、外を眺める。


「ここからの風景か」

「なにかわかる?」


 真奈美が仰ぎ見ると、雅也は黙ったまま外を見つめていた。


 もう一度真奈美が外に目をやったとき、雅也がつぶやいた。


「時間がない」

「えっ?」


「行こう」


 そう言って雅也は部屋を出た。


「ちょっと、待ってよ!」



 ◆◇◆



 応接間に戻った二人がソファに座ると、雅也が切り出した。


「博士の予知が正しければ、大きな地震が来る。それもかなり近い将来。おそらく、ここ数日」


「何?」


 玲が雅也の赤い目を見据えた。


「でも警報とか出てないよね? 玲、デックとまなみんでその動画と今の状況から地震規模と震源地、特定できないかな?」


「わかった。確認する」


「は? っていうか、地震なのか? 本当に未来の話なのか? データ化できるのは過去の視覚記憶だけじゃなかったのか?」


「可能性は0じゃない。涼音ちゃんには今から僕の考えを説明するからよろしく」


「……了解」


 涼音がうなずいた。



 ◆◇◆



 真奈美は玲と良助とともにもう一度二階に上がる。その間、雅也は応接間で涼音に自分の端末モニターを見せながら説明を始めていた。


「解析の終わったここまでが『一般の人間の脳波測定』に関する部分。それ以外がまだ不明なんだけど、おそらく『博士の動画』を取り出した部分」


「……はい」


「被験者を切り分けるところと最終的な出力に関わる部分は共通だから、そこを手掛かりに比較しながら見るしかないけど、できるかな?」


「……了解……やってみる」



 ◆◇◆



 博士の部屋に上がった玲と良助は、先ほどの雅也同様に窓の外を眺めた。


「あいつの言う通りかもしれない。あそこの植木の形状変化を考えると規模は相当でかいな」


 そう言いながら玲が端末で写真を撮る。


「だけど本当にここ数日の予定なら、警報が出てもいいころだと思うんだけど?」


「大学の地学会に確認した方が良さそうだな。あ、かすみんが担当か?」


 良助が真奈美にそう言い終わる前に、玲が撮影した写真データを転送した。


「デック、この画像とさっきの動画の静止画像とで比較演算にかけて、暫定の震度規模を出してくれ。まなみんは地学会の最新地震予測データを調べてくれないか?」


「わかった」

「オッケー!」



 ◆◇◆



 三人が応接間に下りると、涼音はソフトの解析を始めていた。


「ごめん、さすがに限界が来た。少し休んでも、いいかな?」


 ふらっと立ち上がった雅也が玲に言った。


「ああ、お疲れさま。何かあったら起こすからお前は今のうちに休め」


「あたしの部屋で寝てていいよ。おじいちゃんの部屋、まだ使うかもしれないし」


「ありがとう。お休みなさい」


 そう言って雅也は出て行った。


 そのドアが閉まるのを見計らって良助がスイッチを入れ、サーバーのファンの音が再び大きくなる。そのとき、


「あれ?」


 自分の端末を見ていた真奈美が声をあげた。


「どうした?」


 騒音の中、玲が近づいて聞く。


「地学会の地震調査のデータ……死んでる」


「どういうことだ?」


「ここ数か月更新されてないの。ありえなくない?」


「地震探知システムに故障が発生した、ということか?」


「大学に確認してみなくちゃ!」


 真奈美が答えたそのとき、サーバーの音が急に小さくなり始めた。


「震度規模『特定不能』だとさ」


 処理を終えた良助が演算結果を告げた。


「なにそれ?」


 怪訝そうな顔を向ける真奈美に良助は首を振って答える。


「『これまでにない規模』らしい」


「そうか」


 玲は立ち上がると、窓際に向かって歩きながら霞に連絡した。


『どうしたの? 何かあった?』


「さっきの動画が正しければ、ここ数日で大規模地震の可能性が高いことがわかった」


『あれってやっぱり未来の話だったってこと?』


「映っている光景からすれば、そういうことになる」


『地学会の予測情報は?』


「それなんだが、ここ数か月ほど、地震探知自体が機能していないようなんだ」


『何それ?』


「霞のパスで地学会に問い合わせてもらえないか?」


『わかった。行ってくる』



 真奈美と良助が見守る中、連絡を切りながら玲がつぶやく。


「ここも危ない。避難先を考えないと」


「それなら大丈夫よ」


「ん? どうしてだ?」


 自信満々な真奈美に良助がたずねた。


「この家耐震構造はしっかりしてるし。それにさっきの動画の視野、二階のおじいちゃんの部屋からだったわよね? あそこに立った視野角だとしたら、この家はつぶれないってことになるじゃない? おじいちゃんの部屋の窓枠、一部入ってたし」


「そこまで信用できるのか? そもそも予知を信用するかどうかって話だが――」


「とりあえずフードデリバリーで水と食材、大量に仕入れておくわ!」


 そう言って真奈美が冷蔵庫を確認しにキッチンに向かった。



 ――2時間後


「そうか、わかった」


 そう言って玲が霞との連絡を切った。


「かすみん、どうだって?」


 ちょうどキッチンからできてきた真奈美がたずねる。


「地震予定は明日だそうだ。アラートがあと数時間後に流れるから町中まちなかのパニックに気をつけろ、って」


「うわーマジかー! っていうか雅也、やべーな。あいつが今朝そのまま寝てたら――」


「終わってたかもしれんな」


「本当にそうね。そろそろ起こしてこようか」


 そう言って真奈美は二階に上がった。


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