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(49)疑惑のねごと

 良助は真奈美の部屋のベッドに霞を寝かせると、ふうーっと一息ついてその場にあぐらをかいた。


「かすみん、なにかあったのかな?」


 布団をかけながら心配する真奈美。涼音も不安そうだ。


「ひょっとして犯人の仲間にやられたとか?」


「いや、それはないと思うぜ。外傷もねーし」


 雅也に良助が落ち着いて答える。


「……疲れた……だけなの……かな?」


 涼音がつぶやいたそのとき、霞の寝言が聞こえた。


「れい……」


「「「え?」」」


 一同、沈黙。


 そして一斉に玲に目を向ける。


「な、なんだよ! なに黙ってんだよみんなで」


「そういえばお前ら、最近わりと仲いいよな?」


 あわてる玲に良助が冷ややかな言葉を浴びせる。


「いや、あれは霞さんが俺に気を使ってくれてるだけであってだな――」


「いやいや、いいと思うよ、全然」


 そう言って雅也が玲の肩をたたく。真奈美と涼音もにやにやしながら玲を見ていた。


「と、とにかくだ、これからのことだが、霞さんが起きるまでは下手に動けん。明日には博士の視覚記憶データの復旧は可能だから、朝、みんなでここに集まろう」


 嚙みそうになりながら玲が言った。


「確かに、オレら昨日帰ってねーしな」


 良助が自分の腕をにおいながらまゆをひそめる。


「僕、どうせ今晩解析続けるから、ここに泊ってもいいよ」


「ダメだ! 家でやれ!」


 玲が雅也に強く言った。


「え、なんでだよ?」


「俺もここに残らにゃならんだろうが!」


「なんで?」


 二人のやりとりを真奈美と涼音はにやにやしながら聞いている。


 良助が一つため息をついて言った。


「玲が泊まるんだったらみんな残らざるを得ねえ。今日のところは家に帰ろうぜ」


「そうね。かすみんはあたしが見ておくから大丈夫よ」


「そう? わかった」


 良助と真奈美の意見に雅也が折れた。


「カードキーのこともある。戸締りだけはきっちり頼むぞ」


「わかったわ。任せて!」


 玲に真奈美がそう言ってベッドの側に立つと、他のみんなも立ち上がった。



 ◆◇◆



 真奈美の自宅を四人が出た時には、あたりは真っ暗になっていた。


「じゃあ、オレはここで」


「ああ、お疲れさま!」


「また明日!」


「……バイバイ」




 玲や良助と別れ、涼音と歩いて帰る雅也。


 ふいに涼音が顔を見上げ言った。


「……雅也くん……ソフトの……解析……どうかな?」


「今理解できてるところが半分くらいかな」


「……私も……見ようか?」


「ありがとう。僕の方で今日中に整理するから、明日お願いしても、いいかな?」


「……わかった」



 ◆◇◆



 ――ピンポーン♪


 翌朝、真奈美の自宅の玄関で玲が呼び鈴を鳴らす。


「あ、おはよう! どうぞー」


 真奈美に招かれて玲が応接間に入ると、演算が演算が終了したせいか、サーバーの音が小さくなっていた。


「まだ誰も来てないのか?」


「来てないよ。玲ちゃんが最初」


「霞さんは?」


「お風呂だよ」


「そうか」


 にやにやしながら玲を見る真奈美。


「なんだよ……」


 玲がソファに座り、サーバーを眺めていると、真奈美がお茶を持ってきた。


「あれからどうだった?」


「特に何も。かすみんと朝ごはん食べたけど、食欲もあったし普通に元気そうだったよ」


「そうか」


「やっぱり、心配?」


「そりゃ……そうだろ」


「そうよね」



 ――ピンポーン♪


「涼音たちかな? はい……わかった」


 インターホンを戻し、真奈美がそのまま外に出る。


 玲はなんとなく風呂場の方を見た。


(いやいやいや、何考えてんだ俺)


 ――ガチャ


 真奈美に連れられ、良助と涼音が入ってくる。


「おー、お前早いな」


「データの復旧、終わってるようだ。すぐに見れるか?」


 良助の声を無視するように涼音に聞く。


「……準備……するね」


 涼音はさっそくサーバーからデータを取り出し、端末で読み込み始めた。



 ――ガチャ


「あ、みんな、おはよう」


 風呂上がりの霞が入ってきた。


「お、大丈夫かよ、昨日いきなり倒れた時はびっくりしたぜ!」


「わたしは平気よ。あれから何か進展あったかしら?」


 良助にそう答えながらソファに座る。


「……博士の……データの復旧……完了した」


 端末をいじっていた涼音が言った。


「あれ? 雅也くんは?」


「ソフトの解析を自宅で進めている。たぶん昨日遅くまでやってたはずだ。きっとまだ寝てるんだろう」


 隣に座る霞に玲が説明する。


「じゃあとりあえずその復旧データ、見てみましょうか? まなみん、いいかしら?」


「もちろん!」


 涼音もうなずき、端末モニターを起動させる。


 映し出された映像には、倒壊した家屋の続く街並みが広がっていた。


「いつの時代かしら? 災害にみまわれた後のようだけど」


「相当古い時代っぽいな」


 見慣れない光景にとまどいながら答えた良助の、その言葉を打ち消すように玲が言った。


「いや、違う! 現代だ。巡回ロボットが今、ちらっと見えたぞ」


「え? あ、本当だ!」


 玲の横で反応した真奈美が画面に映った巡回ロボット指さす。


「どういうことかしら?」


 霞がつぶやいたところで画面の表示が切り替わり、次の動画に移る。




 そこには、さらに荒廃した土地が広がっていた。


 動画というよりも静止画。

 何もない世界。




「これって、時間的にさっきの動画よりも後の時代ってこと……よね?」


 霞が涼音にたずねた。


「……うん」


 そのまましばらく静止画を見つめる五人。


「やっぱりこれ、さっきと同じ、おじいちゃんの部屋からの風景だ」


「何?」


 真奈美の言葉に今度は玲が目を凝らす。


「つまり、将来この近辺はこうなる、ってことかしら?」


「は? どういうことだよ?」

「博士は『未来の光景』を見ている、ということか?」


 良助と玲が同時に聞き返し、顔を見合わせた。


「で、でもよ、取り出せるのは視覚記憶だけなんだろ? 想像は掘り起こせねーんじゃね?」


「そうよね。雅也の話だとそうだったわよね」


 良助の疑問に真奈美もうなずく。


「じゃあ、ここから考えられることって、何かしら?」


 そう言って霞が玲に顔を向けた。


「『このデータを始末したい奴がいた』ということを前提とすれば、博士はこの動画を俺たちに見せようとしていて、始末したい奴はそれを阻止したかった、という構図が浮かび上がる。そいつが博士を消した犯人、という可能性が高い」


「ということは、わたしたちは今後、どうすれば良いのかしら?」


「これだけじゃ、情報が足りない。霞、昨日手掛かりになるようなもの、本当に何もなかったのか?」


 玲の言葉に霞が頭をかきながら答える。


「それが……昨日の犯人だけど、脳が破壊されていたの」


「は?」


 良助の目が点になった。


「自分で壊したのか、他人から壊されたのか、わからない。詳細は警察もまだ解析中らしいけど、玲の言う通り、黒幕に操られていた可能性があるわ」


「その黒幕が真犯人ってこと? 組織的な犯行なの?」


「そこまではわからないわ。警察には博士のことも含めて事情を説明したんだけど――」


 そこまで真奈美に答えたとき、霞の端末が鳴った。聡からだ。


「もしもし……はい……その件でわたしも話があります。これからうかがってもよいでしょうか? ……では後程」


「警察からか?」


 連絡を切ると、良助が聞いた。


「うん。ちょっと行ってくる。すぐ戻ってくるわ」


「大丈夫なの?」


「端末はいつでもつながる状態にしておくから」


 真奈美にそう言って霞が部屋を出ていく。その後をすぐに玲が追いかけた。


 真奈美と涼音がにやにやしながら見送る。良助は微妙な顔をしていた。


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