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(48)なにがなにやら……

 応接間に玲と真奈美が戻ってくると、涼音と良助がソファに並んで座っていた。


「あんた、大丈夫だったの?」

「ああ、なんとかな」


 良助が手を広げて真奈美に答えた。


「拷問とか受けなかったの?」


「受けるわけねーだろ! どんな研究所だよ」


 そんな会話を聞きながらも、涼音はにこにこしていた。そのとき、


 ――ピンポーン♪


 呼び鈴が鳴り、真奈美がインターホンを取る。


「はい……うん」


 そう答え、真奈美は玄関に走って行った。


 座り直した良助が玲の方に向き直る。


「ちょっとやばいことになってるみてーだ」


「何があった? セキュリティチームとかいう組織、大学にはないはずだぞ?」


「だろうな」


 ――ガチャ


 真奈美とともに雅也が入ってきた。良助を見つけると、笑顔で言う。


「あ、よかった! ムショから出てこれたんだ」


「まだ入ってねえ!」



 ◆◇◆



 騒音が響く応接間だと話しにくいため、全員で二階の真奈美の部屋に上がる。輪になって座る中、あぐらをかいた良助が口を開いた。


「ありのまま起こったことを話すぜ! オレは、変人を見た」


「恋人ではなくて変人?」


「お前のそういう意味不明ネタに突っ込む余裕がなくなるくらいの変人だ」


 真奈美に答えた良助の顔は真剣だった。


「それって、僕を超えるくらいの?」

「あんた、自覚してたのね」


「ああ。雅也とタメを張るくらい、いや、それ以上かもしれない」


「なぜそう思った? それと俺たちとどう関係がある?」


 向かいに座る玲が追及する。


「順を追って話すぜ。オレはあのセキュリティチームの奴らに、取調室に連れていかれたんだ。そこで、そいつに会った。境井さかい翔子しょうこっていう30歳前後の女だ」


「美人?」


 自分のベッドに腰掛けた真奈美が、興味深そうに良助の顔をのぞき込む。


「見た目はまあ……美人だな。俺らの中のイメージでいうと少しかすみんに似てる」


「大学にそんな人いた? あたしの記憶にはないけど?」


「一度見たら絶対に忘れられねーような格好してたからこれまで出会ったことはないんだと思うぞ。ゴージャスなフリル付きの服を着てた……ってことは正直どーでもよくてだな、オレは奴の取り調べを受けることになったんだ」


「もっと手短に言ってくれる?」


「わかってるよ。で、やつが言うには『ホロが視覚映像に残ることは絶対にない』そうだ。だからきっとクローンだろうと――」


「すまんがまったく話が見えない」


 玲がまゆをひそめる。


「オレだってそうさ。やつの言うことはちんぷんかんぷんだった。クローンとか知らねーしよ。で、その動画の存在をどこで知ったのか、オレが問いただすと『タレコミがあった』とか言いやがる。そして守秘義務があるから誰からの話かは言えない、と」


「盗聴したやつからの情報ってことか?」


「たぶんな」


「それで? どうなったの?」


「話がかみ合わないまま平行線をたどり、結局オレらの研究室にいっしょに行くことになったんだが、ドアを開けた瞬間、やつは『証拠を隠滅しなきゃ』とか言ってオレらの研究室を爆破した」






「「「「なん……だと?」」」」



「部屋の中を見たあいつはあわてて爆弾みたいなものを取り出し、部屋に放り込みやがったんだ」


「……それでその後、どうしたんだ?」


 玲がソファにもたれかかりながら良助を見据える。


「爆風に目をつぶったオレが気がついた時には、なぜか一人で大学の校門のところに立っていた」


「……で、どうした?」


「しょーがねーからお前に連絡とった」


「は?」

「夢でも見てたんじゃないの?」


「いやマジだって! あいつの最後の言葉がまだ耳に残ってるし」


「なんて言ってたの?」


「『あぶないところだった』って。さすがに突っ込む余裕もなかったが」


 それまで良助の話をじっと聞いていた雅也がほおをかきながら涼音と目を合わせる。


「催眠術かなにかをかけられてたんじゃないの? さすがに理解が追いつかないわ」


「と、とにかくだ、大学にはしばらく近づかないほうがいい。あいつはやばい」


「あ、爆発の話で思い出したんだけどさ」


 突然雅也が口をはさんだ。


「なあに?」


「昨日の晩のことをもう一度振りかえってみたんだけど、僕には涼音ちゃんの段取りに落ち度がなかったように思えるんだよ」


「それって、ブレーカーが落ちた件のこと?」


「うん。サーバーは今、二台とも動かしてるんだよね?」


「さっき使用可能な電力量を増やしたばかりだがな」


 玲が口をはさむ。


「元々ここの電力はそんなにギリギリだった?」


「いや、メーターでは確かに余裕があった」


「ということは、問題はおそらく過電流で、電力不足のせいじゃないんじゃない?」


「……確かにそうだな」


 玲が答えたとき、突然玲の端末が鳴った。


『玲、わたし。そっちはみんな無事なの?』


「ああ、全員まなみんの家にいる。演算サーバーとメディアカードも持ち帰った」


『よかった……こっちは手掛かりになりそうなこと、まったくないの』


「どういうことだ? そっちに期待していたんだが」


『とりあえず今から一度研究室に行って、そちらに向かうわ』


「いや、研究室には近寄らないほうがいいらしい。爆破されたそうだ」


『……どういうこと?』


「デックを尋問した相手が相当いかれた奴だったらしい。大学セキュリティチームの境井翔子っていう30歳前後のゴージャスな女がやったそうだ」


『良助は? 無事なの?』


「ああ、傷一つついてない。心配するな」


『わかった。今から向かうわ』


 そこで玲が連絡を切ると、


「どうだって?」


 途中の経緯を知らない良助が聞いた。


「手掛かりになるようなことが、何もないらしい」


「そんな! 動機やら盗聴器やら脳波やらあるんじゃないのか?」


「さすがに脳波の視覚記憶はまだ捜査には使われてないでしょ」


 真奈美が雅也につっこむ。


「……カードキー……この家から……盗まれたの……かな?」


 涼音がぼそっと聞いた。


「それはどうかなー……っていうか、あたしたちが大学に入った時ってどうだったっけ?」


 真奈美が聞き返したそのとき、


 ――ピンポーン


 呼び鈴が鳴った。


「……霞が戻ってくるにしては早すぎないか?」


「玲が連絡切ってから5分もたってないよね?」


 玲と雅也の言葉に緊張が走る。


「そこからのぞけばいいじゃない。ちょっと待って」


 立ち上がった真奈美が薄暗くなってきた窓の外を見る。


「あれ、かすみんよ!」


「うっそ、もう来たのかよ! 警察署ってこのあたりだっけか?」


「いや、違うけど。迎えに行ってくるわ」


 良助にそう言いながら真奈美が振り返ったとき、


「玲と涼音ちゃんが飛び出していったよ」


 雅也が答えた。


「あ、そう」



 ◆◇◆



「霞!」


 玲がおそるおそるドアをあけると、そこにもたれかかるようにして霞が立っていた。


「ただいまー」


「お、おかえり……なんかやけに疲れてないか?」


「……大丈夫?」


 玲と涼音に声をかけられながら、霞がよろよろと入ってくる。


「いやー、確かに異常に疲れた気がするわ。お邪魔しま……」


 ――バタン


「霞!」


 突然倒れた霞を玲があわてて抱きかかえた。


「熱は……ないみたいだ」


「……デック! ……かすみんが!」


 涼音に呼ばれ、上からあわてて良助が下りてきた。


「おい、どうした!」







「zzz……」


 霞は眠っていた。


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