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(46)ドライな世界

「デックゥゥゥ……うわああぁぁん‼」


「お、落ち着いて、涼音、デックなら大丈夫よ。きっと」


「……私の……私のせいでー……デックがぁーっ!」


 まったく泣き止む気配がない。


「玲ちゃん、かすみんに連絡!」

「あ、ああ」


 真奈美にうながされ、玲が端末を開ける。


『玲、どうしたの?』

「そっちは大丈夫か?」


『まだタクシーの中だけど、何かあったの?』


「セキュリティチームという奴らが来て、涼音を連れて行こうとした」


『えっ?』


「名目は内部規律違反の嫌疑。クローン作製行為に抵触する、ということらしい」


『で、どうなったの?』


「デックが身代わりになって連れて行かれた」


『は?』


「『オレが涼音に指示した』とか『涼音には責任はないから』とか『オレが説明するから』とか言って自分から身代わりになって行ったんだ」


『ああ、そういうこと――』

「ただ、涼音がパニックだ。どうすりゃいい?」


 玲の言葉に霞は一瞬間を開けて答えた。


『じゃあ、涼音に代わってもらえる?』

「わかった」


 玲が端末モニターを渡すと、涼音は泣きながら受け取った。


『涼音ちゃん、どうしたのかな?』


 暗いモニターから霞の優しい声が響いた。


「……かすみん……デックがー……デックがー……私のせいでー!」


『大丈夫よ。あいつを信じてあげて』


 霞はいつもより落ち着いた声で涼音に語りかける。


「……でも……何されてるか……怖いよ……」


『安心して、涼音。良助は「責任」って言ってたんでしょ?』


「……うん……言ってた」


『なら大丈夫。あいつ何気なにげに常識人だから』


「……大丈夫……なの?」


『そうよ。良助だってまだ13歳。責任能力って14歳からだから、ひどい目になんか絶対合わないわ』


「……大丈夫?」


『大丈夫よ。あいつを信じてあげて』


「……わかった」


『玲に代わってもらえるかしら?』


「……うん」


 涼音は霞の言葉で少し落ち着きを取り戻すと、玲にモニターを返した。


『玲、大丈夫?』


 涼音の時と同じ調子で問いかける。


「ああ、ただ、俺もまだ状況を理解できていない」


『そうよね。おそらく良助には何か考えがあるんだろうし、下手を打つとは思えないけど、そこでずっと待ってるのは危険だと思うわ。誰に狙われているのかわからない以上、避難した方がいいかもね』


「そうだな」


『それと、わたしが戻るまで、まなみんからは離れないで』


「(狙われているのは涼音じゃないのか?)わかった」


『玲、大変だと思うけど、あなたにかかってるわ』


「そっちも、何かわかったら連絡をくれ」


 端末モニターを閉じると、玲は立ち上がって全員に言った。


「今から引っ越すぞ」


「は?」


 涼音についていた真奈美が振り向く。


「俺と雅也でもう一度このサーバーをまなみんの家に運ぶ」


「え? 僕ら二人で?」


「いつこの研究室が使えなくなるとも限らん。だから拠点をまなみんの家に移す。だがそうなると、ある程度の規模の演算ができなくなる。だからこれを持って行く」


「そりゃうちはいいけどさー。演算サーバーの返却期限、今日じゃなかったっけ?」


「それどころじゃないだろ! 無視だ無視!」


「……わかった……覚悟……決める」


 そう言うと涼音は立ち上がり、サーバーを一時停止させた。


 ファンの音が急速に静まる。


「それと涼音、メディアカードの容量、あとどれくらい空きがある?」


「……ほとんど……使ってない」


「俺たちのこれまでの成果、全部放り込めるか? データの復旧をさまたげない程度に」


「……了解」


 涼音の言葉に雅也と真奈美もうなずいた。玲と雅也が撤収作業に取り掛かるなか、涼音と真奈美はコンピューターのデータを保存していく。


「正門までなら僕ら二人でもなんとか持てそうだね」


「そうだな。まなみん、タクシー呼んでくれ」


「オッケー!」


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