続いて涼音6歳の記憶。
再び絵を描いている。今度は鉛筆だ。
「また何か、すごいスピードで描いてるぞ」
良助が画面をまじまじと見た。
「『千身合体ロボ……セルライガー』……好きだったの」
完成した絵は、ロボット工学の授業で使う図面なみに書き込まれた、人型ロボットの緻密な内面図だった。
「……合体の……接続箇所が……わからなくて」
「お前はアニメーターだったのか?」
「ぱっと見で俺が言うのもなんだが、組み立てたらこれ、普通に動くぞ、たぶん」
「ここまでくると、ある意味嫌味ね……」
さらに涼音6歳の記憶。
目の前に白い半円があり、その上のスイッチのようなものを涼音が両手で触っている。
「これは……何かしら?」
「……えっと」
思い出そうとした涼音が画面を注視する。
「ひょっとして、ドラムか?」
思いついた玲が聞いた。
「……そうだ……チューニング……してるところ」
「渋い趣味ね」
チューニングが終わると、涼音はドラムを叩き始めた。
音が聞こえない実演画面に、みんなどう反応していいかわからない。
「手の動きが速すぎて、よくわからんな」
玲が感想をもらした。
「何を演奏してるのかしら?」
「……ジャズ……なの」
「これも……好きなのか?」
赤みのさしてきた涼音の表情を見て良助が聞いた。
「……好きだった……けど……力……ないから……やめちゃった」
さらに涼音6歳の記憶。
小学校の教室が映しだされ、玲が口を開いた。
「お、南区小学校だな……ん?」
「どうした?」
「なんか見覚えがあるぞ?」
「そりゃそうだろ。お前の母校だし――」
「いや、そうじゃない……間違いない、大輔と敏行と隆俊――ん? どういうことだ? 俺と雅也もいる‼」
「ええっ? いや、本当だ! 確かにお前らだ」
動画の中の小さな玲と雅也は、他の男子生徒たちと話し込んでいるようだ。
「これってつまり、二人の『ホログラム用データ』が一年で作られた、ってこと? 涼音ちゃんの一つ上でしょ?」
「冗談じゃねえ!」
玲の顔が怒りにゆがむ。
「涼音ちゃん、このこと、気づいてた?」
「……うん」
「わたしたちが最初に会ったとき、玲くんと雅也くんを見て、どう思った?」
「……本物……なんだな……って……思った」
「クラスメートとしてはどう思っていたの?」
「……すごい子……たちだな……って」
「マジか? こいつらのどこが?」
「……玲くんは……明るくて……なんでもできる……人気者だった……雅也くんは……地味……だけど……正義感……強くて……優しい」
「というか、俺の過去までさらけださないでくれ」
怒っていたはずの玲が頭を抱えていた。
「自分以外が『架空の存在』だということに気がついたのは、いつかしら?」
「……みんなと……出会って……から」
「えっ?」
「……授業が……打ち切られたの……5年の……途中で」
涼音は動画を一端停止すると、話を続けた。
「……研究職の……テストを……受けなさい……って……言われたの……そして……みんなと……会うまで……知らなかった」
「11歳の時点で涼音にあてがえるスカンディナビアのカリキュラムがなくなったんだな。俺らより一年早いのか」
玲がため息をついた。
「そんなことって……あるのね……」
「だが、オレのクラスには霞はいなかったぜ?」
「じゃあ涼音ちゃんの年度から、ということかしら」
霞が言ったそのとき、
「……みんな……ありがとう」
涼音が涙を浮かべていた。
「えっ、どうしたの?」
「おいおい、泣くなよ」
「……うれしいの」
「涼音、どうした。普通にしゃべれてるじゃないか!」
玲がやさしく聞いた。
「……自信が……ついたの……みんなが……ほめて……くれたから」
「オレと一緒かよ」
「こんなことって……あるのね……」
しみじみと霞がつぶやく。
「……黙ってて……ごめん……なさい」
「何言ってんだ。お前が勇気を出してくれたおかげで、お前のことがよく理解できたし、いろいろな現実もわかった。感謝しかしていないさ」
玲が笑顔で答えると、涼音は顔を赤くして、またうれし泣き。
「おっと、もうこんな時間か、そろそろ本題に入らねーとな」
端末を見た良助が話をそらした。
「話を戻す気、あったんだな」
「当たり前だろ? お前の考えもそろそろまとまったころだろうし」
「この流れでまとまるか!」
「……ゆっくり……考えようよ」
みんなが涼音の声に癒された。
「そうね。あなたたち、ご自宅に連絡しといたら? 今晩遅くなるって」
「おっと、そうだな」
「じゃあ、とことんやるか!」
「……うん!」