「ふーっ、緊張したよー」
真奈美が大きく息を吐いた。
「オレもだ。自分でも何言ってるかわかんなかったぜ」
「でも僕らができるだけのことはやれたと思う」
良助の言葉に雅也が返す。
「……ありがとう」
涼音が玲に向かって言った。
「ん? あ、論文よく書けてたじゃないか、涼音。良助の切り返しもうまかったしな」
玲に言われ、涼音が顔を赤らめた。
「かすみんの最後の締め、かっこよかったよぉー」
「いやー、いっぱいいっぱいだったのよ。大丈夫だったかしら?」
「きっと大丈夫よ! 学食行こ! みんなで」
◆◇◆
六人が一次試験の時と同じテーブル、同じ席について昼食を注文すると、料理が運ばれてきた。
「それはそうと合格発表っていつだ?」
食べながら良助が玲に確認した。
「明日には結果が出る」
「じゃあこのドキドキ感も明日までか」
口をもぐもぐさせながらしゃべる真奈美。
「ところで、玲くんと雅也くんに聞いてなかったんだけど、二人はどうやってまなみんと知り合ったの?」
皿を取りながら霞がたずねた。
「去年の秋に俺が雅也を呼び出して、近くの公園で話してたんだ。そうしたら急に襲われそうになって、あわてて逃げ込んだのが博士の家だった」
「最初からよくわからねー話だが、すげー偶然だったってことか?」
そう言って良助が一気にドリンクを飲み干す。
「いやいや、運命だったのよ。あたしたちが出会う――」
「単なる偶然です。はい」
真奈美をぶった切るように雅也が言いきった。
「あんた相変わらず空気読めないわね」
「まあ偶然だな。だが、博士は俺たちが来ることを知っていたみたいだったな」
フォークにパスタを巻く玲にもしれっと言われ、真奈美がむくれた。
「あんたたち、あえて無視してるわよね? あたしだって知ってたじゃない!」
「え? そうだったっけ?」
「雅也あんた、本当に覚えてないの? 窓から手を振ったでしょ、あたし。こっちよって」
「あー、まなみんがパジャマで登場した時か。ある意味インパクトあったな」
玲がわざとらしく答えた。
「あ……いや、なんかもうちょっとドラマティックに言えない? お二人とも」
「どうせ博士に教えてもらってたんだろ?」
「それはまあそうなんだけどさー、おじいちゃんには言われただけなのよ。今日、なにかあるかもしれないよ? って」
「ん? 何それ?」
真奈美の話が気になったのか、とんかつをほおばっていた雅也が顔を上げた。
「おじいちゃんの勘って、よく当たるのよ。あんたたちのこと教えてくれたのもあの日だったし、あたしも友達がほしかったから、なんとなく窓の外を見てたら、本当に二人が走ってきて、思わず手を振って叫んじゃったの」
「それ本当?」
「本当よ。だからあんたたちを引き寄せたのはあたしの意志の力なの」
そう言ってスープをすくう真奈美。とんかつを飲み込んだ雅也が、真奈美ごしに玲を見た。
「僕とお前が外で会ったのって、あの日が何年ぶりだったんだっけ?」
「五年か? 少なくともその間、俺は外出してなかったしな」
「それは僕も一緒だ。確かに偶然にもほどがある」
場が静まり返った。しばらくして涼音が飲んでいたジュースを置き、口を開いた。
「……私も……博士……凄いと……思う」
「あら、どうしてかしら?」
霞が涼音の聞き役に回る。
「……初めて……会った……時」
「あ、そうか!」
「おい待て! それだけでわかんのかよ‼」
玲の反応に良助がびっくりした。
「あの日博士が涼音に『タイムマシン描ける?』って聞いたよな? そして実際に涼音は描いた。俺たちは涼音のすごさに驚いたけど、博士は涼音が
「……そう……それ」
玲の説明に涼音がうなずく。
「マジで通じ合ってるのかよ! オレにもその能力くれよ!」
「い、いや……なんとなく……そう思った……んだ」
「君らシンクロ率、高すぎー」
ここぞとばかりに玲と涼音を冷やかす雅也。涼音が下を向いてしまい良助に小突かれた。
「だが雅也、俺たちが初めて行ったあの日、博士には『教育システムに警告が出てたから』って言われたよな? 今にして思えばそれだけで予感できるって、相当なことだぞ?」
フォークを皿に置いた玲が真顔で言った。
「そのおじいちゃんの血をあたしは引いてるわけで――」
「なげかわしいことだな」
「即突っ込みありがとう玲ちゃん!」
「そしてまなみんが博士と暮らす理由が明かされ――」
振り向きざまのアイアンクローが雅也の顔面を襲った。
◆◇◆
「それじゃ、また明日。結果が出たら連絡するわね」
霞が良助とタクシーに乗り込み、真奈美たちに向かって小さく手を振った。
「わかった。お疲れさま~」
その後、二台目のタクシーに四人が乗り込んで出発すると、真奈美が後部座席に晴れ晴れした顔を向けた。
「今日あたしたち頑張ったよね? みんなで合格できるよね?」
「ただ今日の試験問題なんだけどさ、ひょっとすると出るかも、って前こいつ言っててさ――」
「え? 玲ちゃんマジ?」
「おい! それを今ばらすなよ!」
玲が頭を抱えた。
「あ、ごめん。気にしてた? だけどまったく問題なかったじゃないか」
「……フォローになってないよあんた」
雅也にジト目を向ける真奈美。その横から突然、
「……あ……明日……みんなで……受かってると……いいなっ!」
助手席の涼音が顔を真っ赤にして頑張った声を出した。
「ま、間違いなく合格してるよ! 涼音ちゃんがあれだけやったんだし!」
雅也の言葉に玲も頭を上げる。
「ああ。そうだな。きっと大丈夫だろう。涼音の一言で流れを変えられたしな」
「そっか。なら明日もみんなで会えるね!」
そう言いながら真奈美は、横で照れる涼音の表情に引き込まれていた。