「えっと……ここね」
2月の一次試験当日、大学の受験会場につくと、真奈美は自分の席を見つけた。会場は二つの教室に分かれ、合わせて60人ほどの受験生がいたが、真奈美は周りには目もくれず、準備にかかっている。
一方、玲と雅也の席は真奈美の隣の教室だった。一番前の席に座った玲は周りに無関心なようだが、その後ろの席からまわりを見回すと、やはり他の受験者は大人びて見え、自分たちの存在が場違いに思えて仕方がない。
「いよいよだね」
「ああ」
若干緊張ぎみに前の席に問いかけたが、玲は相変わらず淡々としている。
だが雅也は、リアルでのこういった場所に慣れていないせいか、背後からの視線が気になった。明らかに年下の自分たちが注目を集めている。
そうこうしているうちに試験の開始時刻が近づき、受験者全員が着席すると、腕章を巻いた試験官が教室に入ってきた。
『ではこれより、研究職採用一次試験を始めます。なお本日、不正行為防止のため、構内における通信はすべて遮断されますのでご了承下さい』
そう言われて雅也が自分の端末に目をやると、すでに『圏外』と表示されていた。
簡単な試験の説明が数分で終わり、静まり返る教室。
しばらくして、時計が定刻を告げた。
『それでは始めてください』
試験官の合図でテストが始まった。31人の教室の空気が張りつめる。
選択科目、数学、社会学でそれぞれ20分。
受験生全員が入力ペンで思考を文字化していく。
◆◇◆
『それではやめてください』
試験官の言葉と同時に解答用紙が回収され、ふー、と受験生の息を吐く音が聞こえた。
『これで本日の一次試験は終了いたします。皆様、お疲れ様でした』
試験官の挨拶とともに空気がさらに緩み、受験者たちが席を立った。彼らの表情からはどの程度の出来だったのか、まったく読み取れない。
「どうだった?」
玲に声をかけると同時に、いきなり振り向かれた。
「ちょろいんじゃねーか? お前もだろ?」
「ま、まあね」
実際のところは半信半疑だったが、マイペースな玲に巻き込まれて答えてしまったそのとき、真奈美が自分たちの教室に入ってくるのが見えた。
「おつかれー。せっかくだから大学の学食食べて帰ろうよ。おじいちゃんがカード貸してくれたの」
「そうだな、行くか」
「あれ? 玲ちゃん、今日は機嫌いいねえ」
「そりゃ、テスト終わったばかりだしな」
「じゃあ、あたしちょっとトイレ行ってくるね。二人は先に下りてて」
そう言って真奈美は走っていった。
「じゃ、行くか」
玲の言葉に雅也も立ち上がり、教室を出て階段を下りる。
ところが、一階に着いたところで、後ろから誰かに肩を掴まれた。
「おー、ちょっと僕ちゃんたち、
「お前ら小学生だよな?」
「えっ?」
二人は突然、三人の男たちに取り囲まれた。