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(13)リケジョと大学工学部

「ん? お前」

「どしたの? その格好」


「普通によそ行きのつもりですがなにか?」


 正月明けの土曜日、朝から博士の家に呼び出された玲と雅也は、外出する気満々の真奈美に驚いた。


 デニムのショートパンツに黒ストッキングで、少しあか抜けて見えたのだ。


「おじいちゃんに言われたのよ。今日は三人で大学を見学してきなさいって。休日だから大学関係者以外も入れるし、行ったら絶対勉強になるからって。だから三人分、臨時パス用意してもらったわ」


「俺も試験場の下見には行っておくべきだとは思っていたが、いきなり今日か?」

「でもどうやって?」


 玲はともかく、雅也の世間知らずな反応に、真奈美は思わずため息をついた。


「大丈夫よ。タクシー呼んでるから」


 そう言いながらコートを羽織った真奈美が外へ出ると、玄関先に自動タクシーが到着していた。後部座席に雅也たちを座らせ、自分は助手席に乗り込むと、大学のパスをナビにかざして目的地を設定する。



 ◆◇◆



「へー、こうなってるのか」


 静かに走り始めたタクシーの中をきょろきょろしながら雅也がつぶやく。これまでこういった乗り物に乗ったことがなかったのだ。


「そうよ~。あたしも初めてなんだけどね」


 答えながら外の景色を眺める真奈美の雰囲気がいつもとは違うようで、雅也は頼もしく思った。


「と、ところでまなみん、ひょっとして……化粧した?」

 雅也がぎこちなく口に出す。


「したわよ。どう?」

 外を見たまま、にやりと笑う真奈美。


「大人っぽくは、見える、けど……」

「けど?」


「…………」

「なによ?」


「……なんでもない」


 微妙な答えに真奈美は窓の外にジト目を向けた。

 雅也のせいで微妙な空気が漂う中、玲が口をはさむ。


「雅也、はっきり言えよ。そのストッキング、触らせろって」

「おいーっ! そんなこと言うなよー!」


(こいつら、かわいい)

 真奈美は笑った。



 ◆◇◆



「わ~人がいっぱいいるね~」


 大学に到着し、タクシーを降りたところで真奈美が目を輝かせた。


「そうか? 敷地面積に比べたら少ないと思うが?」

 玲が即答する。


 …………


「いや~いいじゃんいいじゃん。キャンパスライフ。憧れなのよ~」

「やることは勉強と研究で今とあまりかわらないんじゃないか?」


 …………


「でも、大学の図書館ってほかのところにないもんね」

「データで解放されてるからどこからでもアクセスできるけどな」


 …………


「あのさ玲ちゃん、さっきからあたしが言うことに難癖なんくせつけるけどさ、なんか恨みでもあんの?」

「いや、単純に思ったことを言っただけだが……それより雅也の方がはしゃいでるぞ」


「え? あれ? 雅也は?」

「……もうどこかに行った」


「は?」


「たぶん、工学部」



 ◆◇◆



『いらっしゃいませ。パスをお通しください』


 工学部に来た真奈美と玲は受付ホログラムに声をかけられた。


「あ、本日臨時の者なんですが、もう一人どこに行ったか調べてもらえませんか?」


『かしこまりました。田中雅也さまですね。出力研究所にいらっしゃるようです』


「嫌な予感しかしないんだが……」



 ◆◇◆



 出力研究所に到着した二人は、すぐに雅也を見つけた。


「あんた、こんなところにいたの?」


「うん、二人ともこれかけて」


「これ……って、サングラス?」

「お前、何する気だ?」


「試そうと思って」


 そう言うと雅也はすぐに機械のスイッチを押した。

 たちまち極太のレーザー光線が照射され、轟音とともに目標物を一瞬で破壊した。


「うわっ、ちょっと! やばいんだけど……」


「うーん、どこか調子悪いのかな」


 不服そうにサングラスを外し、雅也がほおをかく。


「あんたが壊したんじゃないの! っていうか玲ちゃんもやるの?」

「いや、俺は別に……」


 玲が言いかけたそのとき、


『誰だ? 試作品を起動させたのは』


 奥の部屋から声が聞こえた。

 真奈美と玲の表情がひきつる。


「ちょっと雅也! 勝手なことしないでよ!」

「まさか許可取ってなかったのか?」


「「……って、あいつもういないし!」」



『あれ? ひょっとしてこれ動かしたの君たち?』


 奥のドアから白衣を着た研究員が出てきて、真奈美と玲に聞いた。


「いえ! あたしじゃないです。こいつです!」

「俺でもねーだろ!」



 ◆◇◆



 そのまま工学部の敷地内で雅也を探す真奈美と玲。


「あいつどこ行ったのよ?」

「この流れからしてロボット関連だろうな」


「それならずっと見てるじゃない、さっきから」

「おそらく、もっと大きいやつ。それも人型の」


「あいつそんなのが好きなの? アニメ世界の住人?」


 真奈美が言ったそのとき、遠くから声が聞こえた。


『誰だ? 試作品を起動させたのは!』


 声の方を見ると、遠くで巨大な人型ロボットが歩いていた。


「まさか操縦してるの、雅也だったりする?」


「どうする? めるか?」


「決まってるじゃない。全力で他人のフリするわよ」



 ◆◇◆



 工学部の受付ロビーで二人が待っていると、ようやく雅也が戻ってきた。


「あれ?」


「やっと帰ってきたか」

「まったく、勝手に一人でほっつき歩いて――」


「二人ともどこ行ってたの?」


「お前な!」

「大学はテーマパークじゃないのよ」


「そうだね。次どこ行こうか? やっぱ天文系かな?」


 一人で目を輝かせている雅也を見た真奈美は、玲にささやいた。


「こいつ人の話をまったく聞いてないんだけど……」

「あれが奴の本当の姿だ」


「あのね雅也……って、すでにいないし!」

「……放っておこう」


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