ドキュンて本当に聞こえるんだな?
コミックの世界の擬音だと思っていたよ。
いや、そんな例え話ができるほどコミックを読み込んでいない。もっと同級生たちから借りて読んでおくべきだった。そんなに勉強ばかりして、と
たぶん、学習参考書のコーナーに匹敵する膨大な情報が、同級生ひとりひとりの部屋にあるのだろう。いままで知っていたのに、気づかなかった。
こんなとき、どうするんだっけ。
いや、聞いてないし、見てもいない。不勉強を嘆いても、始まらない。
おれは精一杯おれが知り得る見識で立ち向かっていかなければ。
覚悟を決めるのに
「アキラ」
やっと言えたのは、それだけ。
かろうじて相手の名前。それだけ。
「あきら」
聞こえたのは、それだけ。
おれのことだよな、おれの名前でいいんだよな。
じわり、じわる。名前を呼ばれることが、こんなにも、こんなだなんて!
おれのこの感覚が、おれ個人だけの個人的すぎる感想に過ぎないのだとしても、知りたくなった
「アキラ!」
おれは呼びかける、もう一度。
視界の下のほうで、茎ぴくり。
目と目を合わせたままなのに、まるで彼女この茎の動きを見たような表情で、
「あ、き、ら!」
はっきりと声にしてきた。
その
世界なんて一瞬で変わってしまうんだな。いつものように、いつもどおり、そのまんまで
いつもと変わらない平凡な日々なんていうのは、真実を直視できないゆえの妄言なのだろう。
変わらない、変わった、表裏一体。優しさと厳しさの関係みたいに。
なによりも、おれは自分に驚いている。
なんで、あんなに痩せこけてみすぼらしく見えてしまっていたのだろう。
その
だからおれの茎も、血液循環の正常さのあかし。水源の場所を探り読みあてる銀の棒みたいに、
「ぁ」
アキラが、声を
「あ?」おれが、なにげなく聞き返すと、
「ぴゅ?」
下のほうを見ないまま、あてずっぽうのような言い方。
その音階は
おれは思わず、
「は?」
と聞き返す。答えを求めない質問事項の連続。しばし潮の香りさえ忘れてしまった。けれども素肌は優秀な防御服、しっかり伝えてきたよ。そろそろ陽射しを
日焼けの実感はなかったけれど、すでに紫外線が肉食メニューに点火したようだ。草食動物は
アキラは純粋な好奇心で関心を寄せているような顔で、しかし
「なにか出てますよ」
と胸ふるわせて房を
おれは彼女の肩から胸かさらに腹を見つめながら、
「ああそれはたぶん
「ふうん?」
「アルカリ性の塩水って感じかな?」余計な解説を加えてみる。
「あ、そぉなの?」
「たぶん」おれは答えながら「なにぶん、ちゃんと勉強してないから、ちがったらごめん」
保健体育の授業は好きだったが、コマ数が少なかったし、教科書の情報量は極端に少なかった気がする。
「さわっても大丈夫?」と、
アキラは無表情に戻った。
「大丈夫だと思うけど、かぶれるかもよ?」
おれは、くちから出まかせ。
「まさか?」彼女も
「まさかだよな?」おれは
差し出して相手の手を取りエスコートの流れにする
無言で無圧力な眼差しの彼女。
声を漏らしてしまったのは、おれのほう。
なおも無言で彼女は「ふんぬ!」と、おれの手を取った。勢いつきすぎて、そのまま胸に押しつけられてしまう格好になる。どこで反転したのか、おれの深層心理が現実を改変してしまったのか、おれの
「つかまえた」アキラが言う「もう、はなさないからね?」
それはそれはとても無力で無抵抗に非暴力的な革命戦士の悲痛な
つかまったか。わるくないな。
もう、はなさない?
それはそれは、それは。
おれは、いまどんな顔をしているのだろう。
おれは自覚も想像もできなかったけれど、彼女なら読み取れるかもしれないと思った。けれども彼女の目は、いや顔が、そもそも頭そのものが、おれの
なにすんだよ、いてぇよ。痛くないけど。
むしろ、手の
文字化けした擬音が、夏空に浮かびあがる。入道雲を錯覚しただけのことだろうけど、本当に目覚めの気分になってきた。幻の文字をおれの視線が照射する。太陽ほど強くないけれど、黒点よりも上手に踊れるぜ?
意味不明に誇らしくなってきて、無意味な生命力を実感する。
これは、おれの?
ちがう。彼女の、彼女からの微粒子の放出だ。
それほど遠くない場所で魚が跳ねるのが、一瞬だけ見えた。飛び魚かと再確認したかったけれど、ほんとうに一瞬だけだった。