言葉は不思議。
想いとつりあわない重さで風に吹かれて抜けていってしまうから。
記憶して、何度も何度も繰り返し再生して、さらに幾度も空想を脳内に再現していけば、
その重さに見合った刻印が生まれるかもしれない。
途方もない時間だろうけど。
アキラが発した言葉は、
まるでドライフラワーのように、
おれをたたいた。
すでにもう枯れきっているのに、
あたかも成長し続けているのではないかという香り。
放たれる
ビーナス誕生の絵画そのものなの。
あらためて
誰かが書き
あまりにも変わり果てた姿に涙は失礼だろうか。
どんなに胸が
いまも存在し続ける
まのあたりにする現実って、
おれにはハーブの香りみたいに感じられた。
確かに存在するし、
誰かと共有もできる。
けれども、香りを見るのは難しい。
その声を聞き取るのも。
そんなとき、ふと思い出すんだ。
なぜだろう、いつも、
「いきなり消えないでほしい」とアキラが言う。
そう、その声だ。決して聞き違えたりなどしないし、するものか。でも。
『空想のなかでは誰なのか、さっぱりわからなくなってるんだよ?』
おれは自分の声を整えながら答えていく、
「わかった」なにを?それは、
目と目が合ったまま
「消えないよ」
おれは自覚できる、これは嘘ではないと。
自分の言葉に責任を持てるし、そう断言できる根拠もあった。
うん、黙ったまま首を少し動かして「じゃぁ
ゆるすぅ、その声はどこから出てきたのだろう。
くちびるの動きは穏やか。
かすかな空気の流れで舞い踊る髪の一本一本が太陽光に照らされて自己主張している。
ちゃんと目を見ていなくちゃ。そう自分で自分に言い聞かせているのに、おれの視線は急降下してわずかに旋回したあと
砂漠のように乾ききった大地でも、地下深いところに湖があったりするらしい。
だからいま、おれが見ているのはドライフラワーではなく、息も
「ありがと」おれは答える「サンキュ」と。
小さな一歩だが、皮膚の下で筋肉が動くのがわかる。躍動は素肌に浮かびあがり
おれは夏草の名前を知らない。
「うん。いい笑顔だ」
アキラの言葉に驚いた。いい笑顔?
なだらかで、うっすらと影が生まれては消え、その
あの、ありとあらゆる要素を棄て去ってしまったような、穏やか過ぎる
熟れるまえだからこそ、かじりつきたくなる
くちびる、あの感触を少しだけ思い出してしまう。
「別に笑ってないけどな?」
ぶっきらぼうに答えてすぐ『しまった余計なひとことだった』と
それにいま、おれは微笑んですらいない。
なのに、なぜアキラは『いい笑顔だ』と言ったのだろう。
アキラが首を、しかもややおおげさに左右ゆっくりめに振って、「笑ってる。ほらそれ、いい笑顔」
どくん。脈打つ血管。心臓が来る。いや来ない。だが
「わたし、泣きながら笑えるひとって大好きよ?」
アキラが言う。ちょっと意味がわからなかった。でもまあ、そういうひとが
目と目が合う。
「ほら」
ふいうちに、彼女の指先がおれの目元に刺さる。
つ、と。つつつ、と横。ふわりとだけど、ピンッて
え。
彼女の指先は、潮の香りが濃密。
いまの、なに。
「そんな格好で、こんなに涙たらしちゃって、ほんとにまあ、もう」
さっきまでの無表情とは別人の、
アキラがなにを言っているのか、まるでちっとも理解できなかった。