いったい何度、同じような質問をしただろう。
繰り返される答が、まったく同じでもかまわない。
こちらが理解できるまで、繰り返し語ってもらえばいい。
面倒くさがられるけれども、向こうだってルールを守って付き合ってくれる。それが模擬裁判というものだし、ゆえに学級裁判に
難解な問いかけに対して、あらがうだけではない。
こちらも一方的なくらいに、同じ答を連射する。相手が
足を引っ張ろうとする必要なんて、まったくなかった。その点だけは、おれが知り得た法律の専門家たちと意見が異なる。あわよくば、なんて無用。ひたすら事実と真実を、
きっちり理解しあって、正しく堂々と清らかに、関係を
「わかったよ」
おれがそうくちにすると、
うん、と彼女が、うなづいた。
「わかった」
うん。無言で、うなづかれる。
「そういうことだったんだ…な」
うんうん。
「そういうことだったんだね?」
うん、うんうんう、うん!
おれたちの会話は、かみあっているのだろうか。
感覚的に
「ね?」アキラが言う「ちょっと歩こう」いつのまにか、おれの隣にいた。
「ああ」
原告と被告。どっちが、どっち。そういうんじゃなくて、原告でありつつ被告。
その先どうなるにしても、あいまいにしておきたくない。
だからもう、このいま、目指す場所が決まったのかもしれない。
あのとき、おれたちが共に戦ったように。親友ではなく戦友として、誰かからの贈り物ではなく、自分たちの手で創りあげた、なにか。
あのときは創れたけれど、いまはどうだろう。余計なことを考えてしまったようだ、少し不安になる。
けれども感性が指定されていなかったおかげで、心の
むしろあの勝訴こそを、スタート地点と認識しておけばよかった。
時間を巻き戻せないのだから、いまからどうにかすればいい。それだけのこと。
ただし、自分だけではなく相手からの合意も必要になる。
自分が自分を制御できないなんてこと、よくあるさ。自分に
自分の制御に向けて努力は役立つし、そんなすべての努力は
けれども、相手がいる場合には、ありとあらゆ努力が無駄になることも珍しくない。だがそれでいいと思うんだ。努力が無駄になるのは、お互いが相手を他者のままにしておきたいと認識できたからなんだよ。これ以上に距離を詰めたくない、あるいは、かなり近寄りすぎてしまったから少し離れましょう。だからこその
「せっかく足、かわかせたのに」と、おれがぼやくと、彼女うしろに手と手を合わせてから、
「かわかす楽しみができたね」と…ぉゃ?
おれには笑っているように見えた。
表情が固まっているのは、筋肉の影響。
声が単一的だとすれば声帯の状況。
目は乾いていない。潤っていないわけではなく、必要以上に血を流さないようにしているだけのことだろう。工場にだって休みが必要だ。
いま回復すべきは、どこなのか。
それがわかれば、そこに集中すればいい。
彼女の提案だ、歩こう。歩けば、ヒントがわかる気がしてきた。
「あ、待って」おれは呼びかける。
足元に注意しながら、ふたたび湖水地帯を進む。湿地に足の
急いでいるようには見えない彼女だが、気づくと動きが早くて行動的。おれは彼女の手を取る。ほぼ無反応で無抵抗に手と手がつながり、しかしわずかながら、反応が
なあんだ、ちゃんと
はからずも、よみがえる記憶。あのとき、どこかのタイミングで手をつないだことがあったようだ。そのときは、とても冷たかったんだ。