なぜだろうか、似たようなことが前にもあったなと思い出す。
似ているからって、同じわけじゃない。
むしろ、
『似ている』
というのは、
『ちがう』
の別の言い方だ。そうだろう?
同じじゃないのだから。
記憶をたどるのも悪くないが、いまのおれにはどうでもいい。もっと
『そっか。あのとき、おれはカーッとなって、ムキにもなって、判断なんて瞬時のもので、なんの根拠もなかったし正当性のかけらもなかった……でも、あのときは、あれがよかったんだよな』
と思い出す。思い出してみて、ひやひやする。一歩、まちがえてたらと考えてしまうと怖いからだ。たまたまいいほうに転んだだけかもしれないし、なんやかんやと「おれ、運がいい」だけだったのかもしれない。運に頼ってばかりでは使い切ってしまいそうだよ。そう考えると理由もなく苦しい。
苦しい。本当に苦しい。あれっ、まさか息切れしている……のか?
地図には表示されない小さな島がいくつかあって、おそらく『ただの岩』なのもあるんだろう。満ち潮、引き潮、どのタイミングでなのか姿を見せたり隠したり。
あんな島あったっけ?
葉っぱと葉っぱの隙間から
みんながそう呼んでいて、地図にもそう表示されていれば、疑うことなくその名前で記憶してしまうだろう。
いくつかある島も、誰かと誰かの会話やら親戚の集まりで耳にしたりとかで覚えている。「うきしま」「とびしま」「おおいわ」「こいわ」「なかのしま」といった感じに。あるいは「猿島」に対抗してのことだろうか、「うさぎ島」「トラ島」「ひょう島」「鳥島」という名前も聞いたことがある。
学校の地理の授業で地図帳をパラパラと眺めているとき、「鳥島」「沖ノ鳥島」「南鳥島」「東鳥島」とかを見つけた。
ひょっとして、これか。このまえ話題にのぼっていた島は。そう思ったこともあったけれど、もちろん別の島だった。なにしろ位置が違いすぎる。だいたい、自分たちの街から実際に眺めて見ることのできる島なのだから、伊豆諸島や国境方面とは異なるわけだし。でも、ふだん聞きなれた名前を地図帳に見つけると親近感のような気持ちが湧く。どんなところなんだろうな、と気持ちもふくらむ。
たぶん、いま見え隠れしているのは「うきしま」だろうな?
とくに根拠はなかったけれど、宙に浮いている感じがしたのでそう思った。まあ浮いていないと思うけど。
おれはときどき、ふわっとした浮遊感に包まれることがある。地に足が着いているはずなのに。歩いていて、走っていて、立ち止まってみて、ふと、ふわっと。
ぉっと、これだよこれ、この感じ。
めまいにも似ているがグルグルすることはない。視線は空へ向き、なんとなく身長が伸びたような錯覚に陥る。沖を走る船が、勢いよく空に飛んでいくような気がする。気がするだけで、もはや妄想ですらない。わけのわからない視覚の歪みだ。
スピードが加速して、気がつけば全速力になっていた。坂道を駆け降りるのは危険きわまりない、ましてやこんな舗装されていない斜面。山から海へと向かっているのは理性的に理解できるが、どっちの方向に進んでいるのかわからなくなってきた。わからなくなればなるほど愉快そのもの、おれはますますスピードをあげてしまう。
お?
生い茂る夏草が絶対沈黙の匂いを放ち、靴に袖にまとわりついた。かいだことのない香りも混ざっている。ふわっ、と浮かびあがる感覚がしてから着地した。どうやら未舗装のままで高低差の激しい道らしい。見た目と着地感に違和感があり、そろそろ気をつけないとヤバイかな。でもまあそろそろ、それなりに山も終わるだろう?
高低差が激しく、道そのものにもトゲのある草が生長していた。背丈よりも高く伸びていて、顔や腕に傷をつけないように注意しながらスピードを制御することにした。つたのように伸びている植物もある。見た目は、やわらかそう。だが、触れたら刺さるかもしれない。かぶれてしまうかもだ。おれは意識してスピードを落とした。
そのタイミングで平坦な場所に出る。少し先に、広い空間がある。いよいよかもしれない。いよいよ、おれは未知の領域に。