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第175話 みがわり

「昔は教育なんてなんて言われたりして、

 大学なんか行くな!

 っていう論調ろんちょう大人おとなが多かった。

 お父さんのお父さんおまえのお祖父じいさんもそうだぞ。

 だから俺はこっそり、

 高校卒業と同時に働き始めたけれども、

 夜間大学に通ったんだ。

 くやしかったよ、なんでだよって、いつも思ってた。

 でも頑張ったし、兄姉きょうだいたちは応援してくれたから、

 俺は頑張りとおすことができた。

 大学に進学できた連中れんちゅう出世しゅっせコースに乗って、

 それをはたから見てて本当に本当にくやしかったなあ。

 おまえには

 わかるか。わかるよな。たのむから。

 だからおまえは俺の言うこと聞け。

 絶対だ。絶対だぞ。

 お父さんの言うこと、絶対大丈夫なんだ」




 平日の夜、たいてい父が同じようなことを語る。


 日曜の夜は他愛たあいない話題わだいのほうが多くて、

 夕食を食事として味わえるのだけれど、

 問題は就寝直前だ。


 明日は月曜日、

 

 おい、

 と笑顔で言われるわけだが、

 おれは疑問になる。


 なあ、おとうさん?

 どうしてですか。

 おれは勉強している。

 ちゃんとしている。

 見りゃわかんだろ。

 なんで見て見ぬふりみたいな話をすんだよ。

 でも冷静に考えればさ、

 父が語りかけている相手は、


 父が

 それはを背景にして

 いつかわからない存在

 つねにような気配

 なあ、それ、それってさあ、


 


 世間で指摘されている

 そんなのなんて言わないさ

 けどさ?


 ではないのですか?

 は、いったい誰で、どういう人間で、

 なぜしまうのか、

 わかりません。



 めずらしく勢いよく話す父が

 ついに叫んだ


 「俺だって、俺だって、俺だってなあ。

  あのとき、ちゃんと大学にいっていればなあ、

  親父おじいちゃんが話の通じるひとで、

  これからは学歴が重要だと理解してくれていたら、

  俺だって、

  今頃は、今頃は、今頃は!!」


 悔しそうというより つらそう

 でも

 とびきりの笑顔になって

 おれの頭ってする


 「まあ言ってもしかたない。

  過去を変えることはできない。

  だが未来は創り出せる。

  俺の時代は受験競争といっても、

  そんなにおおげさじゃなかった。

  おまえの時代は大変だと思うよ、

  それは同情する、

  だがな?

  いつか俺の言ってたことが正しかったと気づく。

  お父さんの言うこときいておいてよかったと、

  絶対、絶対、絶対に、そう思う日が来るから。

  今はわからなくてもいい、

  俺に従え。いいな」


 母はお菓子の製造年月日をチェックしている。

 姉は見て見ぬふりにも思えるし、

 言いたいこと全部ごっそり飲み込んで、

 それでもと、

 おれに渡そうとしている気がした。



 今夜まもなく父が扉をあけて「おやすみ」と言いに来る

 と思うんだよ

 のこと

 なのにどうして

 おれではないの話をするのかな?


 さあそろそろ 時間だよ?

 

 扉があくと

 そこには

 泣くに泣けない

 


 そっか

 に苦しめられたんだね

 きみも

 お父さんに

 悔しかったのかな



 おれにできることがあるなら するから

 よくわかんないけど

 まかせとけ



 おれは父からの就寝直前の説教を聞き流し

 「おやすみ」と扉をあけて廊下へ出る父の背に

 心の中だけで話しかける

 まかせとけ

 まかせとけって





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