「昔は教育なんて
大学なんか行くな!
っていう
お父さんのお父さん
だから俺はこっそり、
高校卒業と同時に働き始めたけれども、
夜間大学に通ったんだ。
でも頑張ったし、
俺は頑張り
大学に進学できた
それを
おまえには
わかるか。わかるよな。
だからおまえは俺の言うこと
絶対だ。絶対だぞ。
お父さんの言うこと、
平日の夜、たいてい父が同じようなことを語る。
日曜の夜は
夕食を食事として味わえるのだけれど、
問題は就寝直前だ。
明日は月曜日、
と笑顔で言われるわけだが、
おれは疑問になる。
なあ、おとうさん?
おれは勉強している。
ちゃんとしている。
見りゃわかんだろ。
なんで見て見ぬふりみたいな話をすんだよ。
でも冷静に考えればさ、
父が語りかけている相手は、
父が
それは
いつ
つねに
なあ、それ、それってさあ、
世間で指摘されている
そんなの
けどさ?
なぜ
わかりません。
めずらしく勢いよく話す父が
ついに叫んだ
「俺だって、俺だって、俺だってなあ。
あのとき、ちゃんと大学にいっていればなあ、
これからは学歴が重要だと理解してくれていたら、
俺だって、
今頃は、今頃は、今頃は!!」
悔しそうというより つらそう
でも
とびきりの笑顔になって
おれの頭
「まあ言ってもしかたない。
過去を変えることはできない。
だが未来は創り出せる。
俺の時代は受験競争といっても、
そんなにおおげさじゃなかった。
おまえの時代は大変だと思うよ、
それは同情する、
だがな?
いつか俺の言ってたことが正しかったと気づく。
お父さんの言うこときいておいてよかったと、
絶対、絶対、絶対に、そう思う日が来るから。
今はわからなくてもいい、
俺に従え。いいな」
母はお菓子の製造年月日をチェックしている。
姉は見て見ぬふりにも思えるし、
言いたいこと全部ごっそり飲み込んで、
それでも
おれに渡そうとしている気がした。
今夜まもなく父が扉をあけて「おやすみ」と言いに来る
なのにどうして
おれではない
さあそろそろ 時間だよ?
扉があくと
そこには
そっか
きみも
お父さんに
悔しかったのかな
おれにできることがあるなら するから
よくわかんないけど
まかせとけ
おれは父からの就寝直前の説教を聞き流し
「おやすみ」と扉をあけて廊下へ出る父の背に
心の中だけで話しかける
まかせとけ
まかせとけって