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第165話 シアンの行方

こんなに世界がまぶしくかがやいているのに

おれにはくらくてたまらない


鍾乳洞の探検を終え

晴れて玉座ぎょくざ御目おめどおりかなうというのに


ちりばめられた宝石の数々を

ひとつひとつ名前を

読みあげていくには

多すぎて


窒息ちっそくしそうになってしまいます


どんなに褒美ほうび目映まばゆきらめいていようと

おれにはくらくてしょうがない


挑戦者たちのナレノハテ

記念碑 無言の羅列られつ もくするやからどもよ

その胸きらめく褒章ほうしょう敬意けいいを示せば

自虐じぎゃく自尊じそんのバランスを欠いた態度

おれには暗くてたまんねぇょ


ちりばめられた美女の微笑みに

ひとりひとり名前を

呼びかけていくには

多すぎる


窮屈きゅうくつなのは自分だけでしょうか

偏屈へんくつきわまりないのです

退屈たいくつを毛嫌いする人々が

盛大な拍手で包んでいたのは

滅びのパントマイム


見たくないものを見てしまったら

どんな顔

聞きたくない話を聞いてしまったら

こまがお

なにもなかったようにふるまうなんてムリ

なのに

なにもなかったかのようにふるまう群れ

不思議顔ふしぎがお


そんな場所に私がいられるわけがない

歓迎ムードは義理の延長線上ギリギリの

出来デキレースなんですよ


ひとり


おれは手をとった



素敵なドレスだね

この世のものとは思えない

すきとおった肌は

石英せきえい葡萄酒ぶどうしゅを与えたような

うかつに許せば酔いがまわる


おれの手に感じる

対比的かつ同義的で反重力と等価的な体温


ご迷惑でしょうか

あなたは私に褒美ほうびとして与えられたひと

その役目を終えてください

いまこの瞬間から


さあ

あなたを囲むやりもなく

世間の毒から隔離かくりされもせず

罵詈雑言ばりぞうごん悪辣あくらつ卑劣ひれつ保護幕ほごまくもない

私の街へようこそ


あなたの髪をとめていたバレッタが

ほのかに風にかお

やがて私の農園で夏草の香りに変わるでしょう


言いなりの命

これからは

私のために役立てていただくよ

それはつまり

あなたはあなたを生きるという意味

あなたがあなたで決めるひとつひとつ

そのエリアに私が存在できたら

このうえなく喜ばしいので

あなたがあなたを生きることを

私に与えられた権力の名のもとに

命じました


羽衣はごろものように薄くて軽くて

なにもかもお見通みとお

絹が隠し続けた穂波ほなみが揺れて

殻の向こうに眠る卵黄らんおう

壊さぬようにいてみる

呼びかける命

貴族のころもを脱いでおいで

細めなリボンほどいてするり

華奢きゃしゃ可憐かれん魅惑みわくけもの

あなたの人生まるごといただきます





どうすればてる

どのようにまさ


各地を転戦

生き抜いてきたおのれ

正当に評価できるのは

自分だけ


紙を置き

石を包み

扉を閉める


あけたカーテン

ひらくひざ

さみだれ天気雨のように

所作しょさになる


くちびると息

ふるえるようね

あなたのリフトに

私がはいれば

初夏のまま

シアンブルー




どんなに世界がまぶしくかがやいているのか

おれには暗くてわからない


だから酸素を求めよう


潮の香りは行方ゆくえを教えてくれる

こっち

こっち

こっちだよ と


どっち

どっち

どっちなの と


あなたの問いに

目と目が合う

答えないまま思案しあん



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