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第143話 挽く

「ここって…カフェ?」

「だから最初にそうじゃないのかって話」したじゃんか?

「うそ。パン屋って…」


いらっしゃいませ

姿はなくても声がした


おれたちに対してだよね?


ちょっとココ変わった建物でね

向こう側がパン屋

こちらは自家焙煎コーヒーの店

上からおりてきたんだね


メニューを眺めてもわからないので

ちょっと声に出して読んでみた

しっくりきたのがケニアだった


「味、ちがうんですか?」

「そりゃあねもう」

「どれも美味しそうですね」

「あっさりしたのが好みか、にがいほうがいいか。

 どっちがいいとか、ある?」

「濃いのが…」

「へえ?」

「すみません、よく知らなくて」

「いいさ。で?」


カウンターの向こうから視線を向けられて

「おなじのを」と彼女

「おなじのでいいの?」

「おなじのがいいです」



コーヒー豆って削るのか?

く、って言うのよ」と彼女

「くわしいね」なんだよ、だったら教えてくれよ

「どうかな?」と彼女

「どうかな?」おれが聞き返すと

「うん」ニヤっとしてからまた「どうかな」


財布との相談もせずに

迷い込んだだけのくせに

さも

とおりすぎるだけのつもりで

「いらっしゃいませ」でつかまって

『いらっしゃいました?』の顔をしてしまう



インスタントコーヒーとアメリカンしか知らないと思う

けど

あきらかに なにかが ちがう

この香り

この空気

にがそうなのに

あまくひろがった



あれ?

眠くなりそうだよ

コーヒー飲むと目が醒めるんじゃなかったっけ


深煎ふかいりのコーヒーだと逆に眠気を誘うかもしれませんよ」

そうなんですかズズっ

「濃密で苦味も強くてミルクが合うので、そのまんまだとリラックスできます」

そうですねズズッ言われてみればというかなんていうか

ズズっ ズー


は!?


音をたてて飲んでしまった


ヤバイかなヤバイよな

と隣の彼女をチラリすると


フーフーフーと息を吐き続けていて

くちびる

次の瞬間


ズズズズーっ




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