建物のなかにも扉がいくつもあって
とじている
あいている
はんびらき
ちらり見れば
視線の先で不思議な物質
そのかたまり
あの光と影や
この動悸する透明感
え
なにも見えていないのに
なんの気配だってないし
この動悸が意味するもの
やばい
やばいよ
それ以上は
建物のなかでも気流があるから
つい 流れの先を見ようとする
たまに ふっ て振り返り
流れを生み出している源を
そこにあるのか
あれがそうかも
どこにあったか
これは なに?
さっきまで感じられなかった香り
クロワッサンのような
バターとクリームとコーヒーと
どことなくルイボスティーっぽく
結局なんにもわからない
とくに食欲は なくて
さらに眠気も ないし
たまに性欲を 問うた
ない
ないな
ないよ
なんにも
これは よくないこと?
ない
ないね
ないや
どれが いいことなの
「あっちだよきっと?」
と彼女が視線で示す向こうには
さらにいちだんと
おりるのかよ
「なあ」おれは言う「あそこは、ちょっと」
彼女が小声で言った イクノヤメトク
おれは応える 「できれば」
ソッカ
ソウネ
ソウヨネ
「ざんねん」と彼女の目が光る
言葉うらはらに足が進み
おれは階段の手前に来ている
おやぁ?
なんだか階下は光あふれる空間みたいだぞ
「いや、ちよっとだけなら?」
おれは態度を変えてみた
「な?」と振り返ると
いつのまにかすぐ背後で
「ん!」と彼女の目が光った