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第126話 流儀

駅のホームから見える桜並木は

それはそれはもう見事です


列車が来るたびに風が巻き起こり

ぶわあ

ずさあ

激しく揺さぶられる枝という枝すべて

花びらを乱舞させます


いつまでも眺めていたい

そう思いつつ

いつもの列車に乗り込みます


桜吹雪の季節は短くて

あっというまに葉桜です

しかし

陽射しに透けた新緑も見事なもので

ひらっひら

きらっきら

もうすぐ夏だなという予感と

そのまえに梅雨かなという気構えがあって

それでもなお

雨あがりの虹を想像すると

やはりこれからの季節が

待ち遠しくてしかたなくなります



「あたらしくお店ができたみたいだよ」

ホームに立っていると背中から声

振り向くと

「寄ってみようよ?」

いつもとちがうバレッタで髪をまとめ

まだ少し眠そうな顔のきみがいた

「ひょっとしてカフェ?」

ぼくがたずねると、

「どっちかつーとパン屋さん?」

とのことで

「☕それとも紅茶どっち系?」と問えば

「抹茶?」という答…というか質問返し


ああ

なるほど

これは気づかない

看板もなにもなくて誰かの家みたいだった


「これ、ふつうにインターフォンなんじゃ?」

ぼくが指をのばすと、

「あ待って」

ぼくの指を彼女がつかむ

「聞いたの。とある流儀にもとづいて、訪問とのことって」

「流儀?」


インターフォンではなく

それよりもうちょっと上のほう

「鳥?」の置物かな

いや もしかして それ


「たぶんカメラになってる」と彼女が言う

「あの鳥の目だね」

「そう。ちなみにあの鳥の名前って知ってる?」

「さあ?」

「わたしも、こないだ初めて聞いたんだけど、実は…」



ぎぃ

扉がひらいた

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